都内のタワーマンションで、ストーカー被害にあった女性が刺殺されるという痛ましい事件が起きた。犯人は被害女性のSNSから、自宅を特定し待ち伏せしていたと報じられている。Xなどで自宅が特定できてしまう書き込みも危険だが、若者の間では、みずからGPSで位置情報を共有しあう“位置情報シェア”行為も流行している。

 かつて人気を博した「Zenly(ゼンリー)」が2023年2月にサービス終了となったことで、一時はその勢いが失われたかのように思われた位置情報共有アプリ。ところが、「Snapchat(スナップチャット)」や「BeReal(ビーリアル)」などのアプリに位置情報の機能が実装されるなど、代替的なサービスは存在しつづけている。

 若い世代のなかには「友人や恋人同士の信頼関係の証として居場所を教え合う」という人もいるというが、一歩間違えればトラブルを招きかねない。実際にアプリを使っている若者に話を聞くと、ネガティブな経験をした人も少なくないようだ。

ちょっとした嘘からサークルでの信用を失う

 都内の私立大学に通う男性Aさん(20歳)は、位置情報機能をオンにしていたことで、「大学での人間関係に亀裂が入った」と語る。

「大学のサークルメンバーの大事な集まりがあったのですが、どうしても別の予定を優先させたくて『風邪なので不参加でお願いします』と連絡をしたんです。そしたら、数日後に先輩から『お前、具合悪いって言ってたけど、渋谷で遊んでたよな?』『なんで仲間内で嘘つくの?』と怒られて……。

 あるアプリで位置情報機能をオンに設定していたので、それでバレてしまったみたいなんですよ。自分としては“ちょっとしたサボり”という感覚だったんですが、サークル内では信頼を失ってしまって、『嘘松』(※ネットスラングで嘘つきのこと)と呼ばれる始末です」(Aさん)

元カレに「BeReal」で新居を特定され最寄り駅まで…

「盛らないSNS」として大学生のあいだで流行している「BeReal(ビーリアル)」で自宅が特定されてしまったという人もいる。

 都内の女子大に通うBさん(21歳)は、元カレに新居を特定され、最寄り駅まで来られた経験があると語る。

「もともとBeRealは、位置情報がオンに設定されているんです。喧嘩別れしたDV気質のある年上彼氏と付き合っていたのですが、別れた後に相互フォロー状態のままにしていました。その後、一人暮らしを始めて、友達を家に呼んだ時にBeRealを投稿したのですが、その際も位置情報がオンのままだったんです。

 そしたら、別れてから3か月くらい経った元カレからLINEが来て、『◯◯駅の方に引っ越したん? 俺の職場のそばじゃん』『今、駅のそばにいるけど会ってもいいよ?』などと連絡が来るようになりました。ストーカー化しそうですごく怖くて、慌てて位置情報をオフにしましたが、もう自宅バレしてしまっているので、彼が直接に家に来ないか、今でも不安です」(Bさん)

友人や恋人の居場所を監視したい欲求

 友人や知人の位置情報を把握できるようになったことがきっかけで、“監視したい欲求”が生じるケースもあるようだ。都内の美容室で勤務するアシスタントの女性Cさん(23歳)は、こう話す。

「はじめはSNSで知人や彼氏の位置情報を共有することに抵抗がありました。でも、サロンの仲間たちも『別によくない?』という意見が多く、私の彼氏も『共有しておいた方が安全だから』と勧めてきたんです。当初、自分は他人の居場所なんて興味がなかったはずなのに、いざ位置情報がマップの上に表示されると『あ、この人、既婚者のはずなのに、この時間帯にこんな駅にいるんだ』『◯◯さんと××さんが一緒にいる、仲良いのかな』とか、余計なことを考えるようになってしまって……。

 だんだん他人の居場所を監視したい、チェックしたいという欲求が生まれてきてしまったんです。とくに恋人同士の場合だと、一度共有すると、『やっぱりGPS共有はやめよう』とは言い出しづらい。何かやましいことがあるのではないかと懐疑的になりますよね。安否確認の機能はあるけれど、精神的にお互いを縛り合う面も強いと思います」(Cさん)

 すぐに会える友達を探したり、家族の居場所を確認したりと、便利な使い方もできる位置情報アプリ。「場所を教えるということは信頼している証」と捉えることもできるが、一方で「恋人や友人を監視したい」という欲求が生まれたり、トラブルに巻き込まれたりするユーザーもいる。

 不特定多数が閲覧できるアプリ内でIDを公開せず、また位置情報のオンオフ、公開範囲に注意をすることで、無用なトラブルを回避するよう心がけたい。