4月28日に最終回を迎えたNetflixで配信中の韓国ドラマ「涙の女王」。財閥三世の令嬢と田舎出身の頭脳明晰な青年という破格の格差婚カップルが離婚寸前に陥るも、思いも寄らない危機に直面したことから冷え切った2人の関係が再び動き始めていくというストーリーだ。韓国では、最終回の平均視聴率24.9%を記録し、「愛の不時着」(19)を抜いて放送局tvNの歴代視聴率記録を更新。そして、この人気の理由と言ってもいいのが、主演を務めるキム・スヒョン。“新・韓流四天王”と呼ばれ、彼が出演する作品に外れなしと言われるほど若手俳優陣のなかでもダントツの人気と演技力を誇る。そんな彼のキャリアを振り返りながら、「涙の女王」の見どころを紹介しよう。

■常人離れしたスタイルの良さをもつ“泣きの天才”
端正な顔立ちで、いつまでも少年っぽさを感じさせるキム・スヒョンは、1988年生まれの現在36歳。彼が一躍注目されたのは、ヨン様こと、ペ・ヨンジュンが企画した「ドリームハイ」(11)。スターを夢見る芸能高校に通う若者たちの苦悩と成長を描いた青春群像劇で、当時はアイドルだったぺ・スジ、IU、2PMのテギョンらが歌い踊って話題に。そんななかで、キム・スヒョンはアイドル顔負けの美声でスターを目指すソン・サムドンを演じている。スジ演じるコ・ヘミにひと目惚れして田舎から上京し、天才的な歌唱力を開花させていく。純朴なサムドンが試練や困難に見舞われた彼が涙を流すシーンは印象的で、“泣きの天才”と呼ばれる片鱗をすでに見せており、エモーショナルな歌声もたっぷりと披露した。

彼のファン層が一気に広がったのは、ファンタジー・ロマンス史劇「太陽を抱く月」(12)だ。朝鮮王朝の架空の時代を舞台に、若き王フォンと記憶を失って巫女として生きるヨヌが再会したことから始まる切ない恋と、宮廷内の陰謀を描く物語。子供時代のフォンを当時名子役として知られていたヨ・ジングが演じているなど子役たちの演技のうまさでも人気を集めたが、スヒョンは初恋の相手を忘れられず、心を閉ざすフォンの繊細さをずば抜けた演技力で表現。とくに、スヒョンの嗚咽シーンでは瞬間最高視聴率が46%を記録する名シーンになった。

同じ年には、映画『10人の泥棒たち』でスクリーンデビュー。幻のダイヤモンドをマカオのカジノから男女10人の窃盗団が盗むというクライムアクションで、韓国版『オーシャンズ11』とも称された。キム・ユンソク(『チェイサー』)、イ・ジョンジェ(「イカゲーム」)など錚々たるスター俳優が並ぶなか、一番年下の純情な泥棒ザンパノ役で好演を見せた。翌2013年の映画『シークレット・ミッション』では韓国の貧民街に潜入した北朝鮮のエリートスパイ役で主演。緑のジャージを着たおバカ青年ドングになり切り、前半は爆笑モードを炸裂させるが、後半はキレッキレのアクションシーンに挑戦。ギャップある魅力で観客を沸かせ、大鐘賞と百想芸術大賞の新人男優賞に輝いた。

そんなキム・スヒョンの人気を不動のものにしたのが、ドラマ「星から来たあなた」(13)。400年前の朝鮮に舞い降りて、現在まで正体を隠して生きてきた宇宙人と、国民的女優との恋を描くラブコメディ。180cmの身長に驚きの小顔で細マッチョという、どこか常人離れしたスタイルの良さが、完璧な外見と能力を持つ宇宙人ト・ミンジュンというキャラクターにもすんなりとハマッた。しかも、『10人の泥棒たち』で共演したチョン・ジヒョンとの相性も最高、ミンジュンはジヒョン演じる自由奔放な女優ソンイが持ち込む面倒に巻き込まれ、次第に放っておけなくなる。ソンイに対してつれない素振りをしながら、その実、気になって仕方がない心の揺れをツンデレ演技で表現。どんな危機からも守ってくれる姿がカッコ良く、人間と宇宙人の恋という非現実的な設定もあり!と思わせるほど魅了し、百想芸術大賞やコリアドラマアワードなど2014年の主要アワードを総なめした。

次ぐ「プロデューサー」(15)は大手テレビ局の芸能部門を舞台にしたお仕事ドラマで、スヒョンは大学を卒業したばかりの新人ペク・スンチャン役。放送業界の舞台裏を描いた異色作であり、これまでと違って、前髪パッツンのお真面目青年でちょっと空気が読めないという役どころに挑み、新境地をのぞかせた。

2017年から19年まで入隊。除隊後は「ホテル・デルーナ」(19)の最終話にカメオ出演、また「愛の不時着」の第10話のエピローグに、映画『シークレット・ミッション』で演じたドング役で登場して話題を集めた。


■こじれまくって関係が冷え切った夫婦の再生を陰謀や不治の病を絡めて描く「涙の女王」
本格的な復帰作となったのは、 “サイコパス”の童話作家と介護士の恋を描いた異色のヒーリングラブストーリー「サイコだけど大丈夫」(2020)。キム・スヒョン演じるムン・ガンテとソ・イェジ演じるコ・ムニョンの恋模様だけでなく、自閉症スペクトラム障害を抱える兄サンテとの兄弟愛に加えて、ミステリー要素もあるなど見どころ満載。特に「椿の花の咲く頃」(19)などで知られる名バイプレーヤー、オ・ジョンセ演じる兄サンテとの絆のドラマでは泣かされっ放し。人生を諦めていたようなガンテが次第に生きる道を見つけていく姿には胸が熱くなるほどで、スヒョンの説得力ある演技に見惚れてしまう。さらに、英国BBCのドラマ「Criminal Justice(原題)」をリメイクした「ある日〜真実のベール」(21)ではサスペンスに挑戦。一夜にして殺人事件の容疑者になった大学生が拘置所で壮絶な事態にさらされていくことになる。韓国の司法制度の問題点を投げかけた内容と共にキム・スヒョンの迫真の演技も高く評価された。

そして、3年ぶりの連続ドラマへの出演となった「涙の女王」。脚本家が「愛の不時着」を手掛けたパク・ジウンであることから前評判が高く、キム・スヒョンとは「星から来たあなた」「プロデューサー」に続く3度目のタッグで、彼の魅力を生かすことにかけては右に出る者なし!そう考えると、今回演じるペク・ヒョヌの頭脳明晰で文武両道のデキた男でイケメンという設定は、「星から来たあなた」のト・ミンジュンを彷彿とさせるようなキャラクターだ。

物語は、そんな彼がキム・ジウォン演じる財閥クィーンズグループの3代目を継ぐ“デパート業界の女王”ホン・ヘインと恋に落ち、周囲の反対を押し切って結婚。にもかかわらず、3年目を迎えてお互いの気持ちがすれ違い、ヘインや一族の人々に見下されることにうんざりしたヒョヌは離婚を言い出そうとする。だが、その時、ヘインからまさかの一大事を告白されて離婚を引っ込める。そうこうするうちに財閥家を乗っ取ろうとする者の企みが密かに進行していく。財閥一族に格差カップル、骨肉の争い、復讐、不治の病や記憶喪失など韓国ドラマ特有のネタのオンパレードなのだが、そこは手練れ脚本家の腕の見せ所!現在と過去とを行きつ戻りつ、3年とはいえ、夫婦として歩んだ時間を振り返り、その一方で、現在の2人に起きた一大事や財閥家をめぐる騒動、そしてのどかな田舎にあるヒョヌの両親たちとの関係などを錯綜させて波乱に満ちたストーリーを展開させていく。

「涙の女王」というタイトルだけに、泣きのシーンも盛りだくさん。 “泣きの天才”と言われるスヒョンは、大泣きに泣きじゃくるシーンもあれば、目に涙をためてうるっとした表情を見せるなど、多彩な泣きのバージョンで楽しませて心をわしづかむ。主演のスヒョンとキム・ジウォンのケミも抜群で、こじれまくった夫婦のロマンスがどう再燃していくのか、目が離せなくなる。毎回、最後にあるエピローグも心憎いものばかり。さらにはそんな2人の恋路を阻み、財閥家の乗っ取りを目論む敵役をパク・ソンフンが演じている。「ザ・グローリー〜輝かしき復讐〜」(22)での悪役の印象が強烈な彼が、今回も遺憾なくワルを演じ、あんなこと、こんなことを仕掛けてくるだけにハラハラせずにはいられない。また演出家が「ヴィンチェンツォ」を手掛けた縁で、同作で財閥のダメ息子を演じていたクァク・ドンヨンがヘインの愚弟役に、さらにはソン・ジュンギがヴィンチェンツォ役でゲスト出演しているなど遊び心も話題になっている。


ゴールデンウィーク中に全16話の配信が終わったいまから観るもよし。なにはともあれ、「愛の不時着」に並ぶ名作「涙の女王」で、ぜひともキム・スヒョンの演技力を心ゆくまで堪能してほしい。

文/前田かおり