第80回ヴェネチア国際映画祭金獅子賞に輝き、第96回アカデミー賞で主演女優賞など4部門を受賞したエマ・ストーン主演映画『哀れなるものたち』(23)のブルーレイ+DVD セットの発売、デジタル配信(レンタル)が5月8日(水)より開始される。本作でストーン演じる主人公ベラの幼さを表現した衣裳のアイディアや、すべて1点ものである、マーク・ラファロ演じる弁護士、ダンカンのスーツができるまでの過程など、映画を彩る衣裳デザインをひも解く映像をボーナスコンテンツから独占公開。キャスト、スタッフのインタビューからその魅力に迫っていく。

自ら命を絶った不幸な女性ベラは、天才外科医の手(ウィレム・デフォー)によって胎児の脳を移植され、奇跡的に蘇生。“世界を自分の目で見たい”という強い好奇心のままに、壮大な冒険の旅へ出ていく。第91回アカデミー賞で最多10ノミネートを果たした『女王陛下のお気に入り』(18)、さらに最新作『憐れみの3章』(2024年公開)でもストーンと再タッグを組むヨルゴス・ランティモス監督がメガホンを取り、衣裳デザイナーを、フローレンス・ピュー主演映画『レディ・マクベス』(16)などで知られるホリー・ワディントンが務めている。

ワディントンは本作の社会規範に縛られない新しい存在が、未知の世界を体験していくというアイディアが気に入ったそうで、「私たちはとても狂気じみた世界に生きていて、その世界は私たちが構築したものだということを、この物語は思い出させてくれます。その責任を負うのは、私たちにほかならないのです」と説明する。

ベラが成長し社会に出ていくにつれ、彼女の衣裳は社会的、性的な目覚めを反映していくことに。ストーンは「ホリーが使用したカラーパレットや素材は、すべて深く考え抜かれたもので、ベラが経験したことや、どのように成長しているかにインスピレーションを得たものです」と説明する。解禁された映像では、ストーンがブルーのドレスを試着しながらワディントンと細かいデザインについて話し合っている様子が収録されている。ワディントンは、ベラの設定とのギャップに心を惹かれたと語る。さらに、幼児の心を持つ主人公の成人女性が、時代がかった服を着るという不思議な設定で、幼さと優美な服の組み合わせがおもしろかったとも語っている。

大胆で斬新な衣裳のアイデアについて、ストーンは「腸や体の器官をモチーフに作られた独特な服ばかり」と説明。初期のベラの衣裳は「子どもみたいにいつも裸足。朝、着せられたドレスを昼には脱いでしまう。ズボン型の下着やブルマーや腰当て(バッスル)姿でうろつくんです」と明かす。優美なドレスでありながら、ベラの幼稚さを着こなしで表現したとか。

さらに、弁護士ダンカンのダンディな衣裳はすべて一点ものだという。ダンカン役のマーク・ラファロは、作品の時代設定であるビクトリア朝の男性について「見栄っ張りで派手でワイルド」と分析。そんな彼らのオシャレへのこだわりを究極に表現した衣裳デザインについて触れることができる貴重な映像となった。

またベラは、旅の途中で船上で出会ったハリー(ジェロッド・カーマイケル)にアレクサンドリアに連れて行かれたことで、社会の暗部、すなわち貧しいスラムの住人たちを目にする。この時、ワディントンはベラに最もフォーマルな衣裳を着せたのだ。船上の人々の多くはシミ1つないクリーム色や白を身につけているが、この時が唯一、社会階級を代表する上流階級の女性としてのベラを見ることができる。

これらの特別な衣裳を手掛けるため、ストーンがワディントンの大胆なデザインを積極的に試すことを厭わなかったことに彼女は感謝している。ベラのウェディングドレスは、ストーンのキャリアにおいてもお気に入りの衣裳となったようで「それを着た瞬間に泣きそうになりました」とも語っている。「このうえなくすばらしいものでした。薄く繊細でありながら、とても強いのです。私がセックスの本質を、脆さと自信が溶け合ったものだと考えているのと少し似ていて、あのドレスは私にとってそれを象徴していました。とてつもなくメッセージ性の強いドレスでした」とワディントンの衣裳を称える。

意外なモチーフやベラの着こなしに込められた衣裳デザインの設定も見どころである『哀れなるものたち』を、ぜひブルーレイやDVD、デジタル配信などで堪能してみてほしい。

文/山崎伸子