「五等分の花嫁」の春場ねぎの同名漫画を、「TIGER & BUNNY」のさとうけいいち監督と「アークナイツ」シリーズのYostar Picturesのタッグでテレビアニメ化した「戦隊大失格」(毎週日曜16時30分からTBS系列で放送中)。よくある“戦隊ヒーローもの”と思いきや、主人公はまさかの怪人側の下っ端である“戦闘員D”で、ヒーロー像とはかけ離れた竜神戦隊ドラゴンキーパーを壊滅させるために奔走するという斬新な設定とハイクオリティなアニメーションで人気を博している。

そんな本作でひと際注目されているのが、シリアスな本編とは打って変わり、EDテーマ「正解はいらない」に合わせて登場人物が踊りだすEDムービーだ。MOVIE WALKER PRESSではこのEDムービーの魅力をひも解くべく、歌唱と作詞を務めたナナヲアカリ、共同作詞と作曲・編曲のNeru、EDムービーのディレクターである山口将、振付けを担当したダンサーのKAZZの4名にインタビューを敢行!制作の裏側を多面的にたどりながら、その魅力に迫っていこう。

■「自分が虚像のように感じることを歌詞に込めてみたい」(ナナヲ)

中毒的なファニーボイスと独特のキャラクターで人気を集めるナナヲ。オフィシャルYouTubeでの総再生回数は3.5億回を超えており、これまでも多くのテレビアニメで主題歌を担当してきた。しかし、日曜日の夕方に放送される作品の主題歌に抜擢されたことは意外だった様子で、「お話をいただいた時は、『嘘だぁ!』って思いましたね(笑)。私が夕方枠でいいのかなっていうのもありますし、『戦隊大失格』自体も夕方に放送されるのがちょっぴり意外な感覚でした」と振り返る。

そして、楽曲を制作するにあたって「戦隊大失格」の原作コミックを手に取って読んでみると、たちまちその独特な世界観に虜になったと熱っぽく語る。「主人公の戦闘員Dが“強くない”ということがこの作品のいいところです。自分が宿した炎のためにめちゃくちゃ頑張ったり、自分の体を犠牲にしてまで戦ったりするところに胸を打たれました」。

そんなナナヲは、いつの間にか戦闘員Dと自身を重ねていたそうで、何度も励まされる場面があったと説明する。「闘志や信念を持っているけれど、その問題を解決するだけの力や術は持っていない。それでもがむしゃらに考えながら進んでいく。それを自分の立場に置き換えた時に、まだ実力が思いに追いついていないと感じることや、歌っている時やステージに立っている時の自分が虚像のように感じることを思い出して、楽曲の歌詞に込めてみたいと思いました。どれが本当の自分なのだろう?その問いに踏み込むような、一歩本音に近づいた楽曲になっています」。

■「よりナナヲさんの等身大なリリックになった」(Neru)

作曲と編曲、そして共同作詞を担当したNeruは、疾走感あふれるロックサウンドを主体に、唯一無二の世界観を作り上げるボーカロイドプロデューサー。ナナヲも中学生のころから大ファンであるとのことで、2016年に投稿されたナナヲのインディーズデビュー楽曲である「ハッピーになりたい」でも共同作詞と作曲・編曲を担当している。

そして本作のEDテーマ「正解はいらない」で、Neruとの数年ぶりのコラボレーションを果たした。このことについてナナヲは「久しぶりにNeruさんとご一緒できるという話をもらって、とにかくうれしい気持ちでいっぱいになりました」と、喜びをあらわにする。

そんなデビュー当時から信頼関係で生みだされる2人の制作プロセスについて、ナナヲは「ナナヲアカリの成分と、『戦隊大失格』という作品の成分がいい感じに混ざり合うように、原作を読んで私が感じたことをNeruさんに伝え、そこにさらに私が伝えたい言葉を足していくような感じでした」と明かす。一方のNeruも「まず打ち合わせでナナヲさんが伝えたいことを伺い、それから自分なりに“正義とはなにか”と考えながら表現していきました」と振り返る。

具体的には1番の歌詞をNeruが手掛け、2番のAメロとBメロをおもにナナヲの言葉で紡いでいったとのこと。「Neruさんが書いてくれた1番の歌詞と対になるような、アンサーと呼べる2番になっていると思います。1番は戦闘員Dやアニメの登場人物に当てはまることであり、2番はもっとナナヲの個人的なこと」と明かす。それについてNeruも「彼女はアーティストなので、より等身大なリリックになったと感じました」と語る。そうして出来上がった歌詞には力強い単語がギュッと詰め込まれ、それがナナヲの歌声によって余すところなく表現されている。

■「Neruさんのクリエイティブは、私じゃ考えつかないところをねらっていく」(ナナヲ)

ギターロック調でカッコよく、それでいて作品のコミカルな部分までも落とし込まれているメロディについて、Neruは「シリアスになりすぎないよう、ディスコ的なリズムでダンサブルに仕上げ、どこか抜け感を味わえるような世界観を積極的に取り入れました」と、楽曲に込めたねらいを明かしてくれた。

こうした楽曲制作を通じてナナヲは、Neruのクリエイティビティに改めて驚嘆したという。「久しぶりに一緒に制作をさせてもらい、Neruさん自身が楽曲を考えるにあたっての思考やねらい方の部分が、これまで以上に進化していると感じました。私じゃ考えつかないところをねらっていく。元々サウンドや歌詞にあらわれているNeruさんの世界に惹かれていましたが、それを裏付けるだけの技巧を持ち合わせている。そういうところを本当に尊敬しています」。

対してNeruも、ナナヲの歌唱による表現力を称える。「彼女の歌声は、たとえば才人が大勢を前にして言い聞かせたり、問題提起したりするようなかたちではなく、いい意味で一人の“個”が感情を乗せているように映るのです。それがとても魅力的に思っています」。

■「サビの盛り上がりでキレのあるカッコいいダンスを披露しようと考えました」(山口)

ナナヲとNeruが抜群のコンビネーションで作りあげた「正解はいらない」。この楽曲に乗せて登場人物たちがキレのあるダンスを披露する、一風変わったEDムービーのディレクターを務めたのは、CG制作を行うYdot所属の山口将だ。映画作品でのオープニングCGなども手掛けている山口は、本作ではEDだけでなくキタニタツヤの「次回予告」が流れるOPムービーのディレクターも担当している。

EDムービーを制作するにあたって、本作の監督であるさとうけいいちから「ダンスをメインにしたい」という要望があったとのこと。「さとう監督と意見交換をするなかで、戦闘員と戦隊メンバーがダンスを披露するというアイデアに至りました」。その後「正解はいらない」の楽曲を聞くことで、映像全体のイメージを組み立てていったことを説明する。「第一印象はキャッチーな曲調のなかにシリアスさも感じました。歌詞には力強いメッセージ性があるので、単なるダンス映像にならないように少し不気味な印象を入れつつ、サビの盛り上がりでキレのあるカッコいいダンスを披露しようと考えました」。

ヒーローアニメの“エンディングダンス”の振付けという難しい依頼を引き受けたのは、TRFのバックダンサーや東方神起の演出助手などを行っているKAZZ。「楽曲がとても爽快で力強くてカッコいいので、その良さを失わせないように“1+1が3以上になる”ことを目指して作っていきました。ただ初めは歌詞の意味に囚われすぎてしまったので、歌詞から得たインスピレーションで最低限必要なところは残しつつ、動きそのもののおもしろさや、かっこよさも盛り込みながら振りや動きを考えていきました」と、振付け制作のプロセスを明かした。

歌詞の意味に囚われてしまいながらも、特にサビの「その程度のちゃちな正解はいらない」という歌詞に惹きつけられたとKAZZは語る。「ちゃちな正解というのが、“妥協して着地した誤魔化しの答え”という感覚があり、その自分を誤魔化した嘘の答えを全身で拒否している感じを振り付けに反映させました」。そしてサビにいくまでの、コミカルな振付けの調整にかなりこだわったそうで、「その分サビからの盛り上がりやカッコよさが際立つ展開になったので自分でも気に入っています」と手応えをのぞかせた。

■「本当に踊れるのかな?と思っていたのですが、めちゃくちゃ踊っていて感激しました」(ナナヲ)

KAZZが作った振付けをアニメーションに落とし込むという作業もまた、決して簡単なことではない。「実写の撮影とは異なり、キャラクターの動きを想像しながら、カメラアングルや編集ポイントを決めるのはかなり難しい作業でした」と山口は振り返る。またモーションキャプチャー技術を駆使することで、ダンサーの動きを3DCGのキャラクターで表現し、戦闘員たちの個性を表現するために、アニメ制作スタッフにも演じてもらったとのこと。「ダンサーさんたちが楽曲から受け取った印象が表現されているので、3DCGだけでは難しい人間らしい動きやバリエーションにも注目しながら観ていただきたいです」。

完成したEDムービーを鑑賞したナナヲは、「事前に『踊ります』と聞いた時には本当に踊れるのかな?と思っていたのですが、実際に観たらめちゃくちゃ踊っていて感激しました」と大満足の様子。今後、自身のライブでもこのダンスに挑戦する気満々で、「前半の戦闘員たちのダンスは難しそうですね。まだ最後の部分しか踊れないので、もっと練習します」と意気込みを語る。Neruも「特撮モノに対するリスペクトが感じられたのと、原作のほどよく肩が抜けている雰囲気を表現できていておもしろい映像だと思いました」と、EDムービーの魅力に引き込まれていた。

最後に、このダンスを踊るうえでのポイントをKAZZにレクチャーしてもらった。重要となるのは、「サビまでの部分をいかにコミカルに踊るか」とのこと。「顔は澄ました真顔で、でも踊りは全力でふざけている感じがいいと思います。サビからは歌詞に合っている部分でその感情を込めてダイナミックに力強い動きで。そして『正解はいらない』がキマると最高に気持ちがいいです」と笑顔で説明してくれた。このアドバイスを参考にしながら、放送や配信を観て練習し、SNSにダンス動画を投稿してみるのも「戦隊大失格」の楽しみ方の一つだろう。

取材・文/久保田 和馬