北条司の人気漫画を実写化した映画『シティーハンター』がNetflixにて世界独占配信中。原作の熱烈なファンで、主人公の冴羽獠を演じることを望んできた鈴木亮平を主演に迎え、ヒロインの槇村香を森田望智、獠の相棒の槇村秀幸を安藤政信、獠とは腐れ縁の刑事の野上冴子を木村文乃が演じた本作は、日本のみならず、世界からも反響を呼んでいる。

本作は、裏社会の厄介事を請け負うNo.1スイーパーの冴羽獠が、令和の新宿を縦横無尽に駆け回る痛快エンタテインメント。原作では1980年代中盤が舞台となっていたが、映画版では舞台を現代の新宿に設定。原作コミックス序盤のエピソードをベースに、現代的な設定、要素を取り入れ物語を再構築。熱狂的な原作ファンがついている作品では実写化作品への評価は手厳しいものが多いなか、漫画やアニメを観ていない人だけでなく、原作ファンをもうならせる仕上がりとなっている。

作品の舞台は、最もロケが難しい場所として知られている新宿だが、本作はこれまでにない大規模な新宿ロケを行い、「シティーハンター」の世界観を見事に実写化。作中に登場する場所は、すべてが新宿で撮影されてはいないが、獠たちのいる新宿を感じさせるスポットばかりだ。都内のロケ、特に新宿では映画やテレビドラマの撮影が可能なロケ地の情報を提供し、案内・調整を行う東京都の窓口となる組織「東京ロケーションボックス」の協力を得ながら、撮影が難しいロケ地として知られる新宿ロケを敢行。そのほかのロケ地でも作品の世界観を再現すべく、こだわり抜いたロケーション選びを行った本作のプロデューサー、株式会社オフィス・シロウズの押田興将のコメントを交えながら、おすすめのロケ地&撮影エピソードを紹介していく。

■シティーハンターへの仕事の依頼は伝言板に「XYZ」

『劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』(19)公開時にはJR新宿駅中央東口に、『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』(23)公開時にはJR新宿駅東改札外スペースに期間限定で復活した駅の伝言板。原作で描かれる1980年代中盤では、待ち合わせやメッセージにとても役立つアイテムだったが、映画公開記念などで復活する以外、現代ではほとんど見られる場所はない。本作でも復活を期待したファンも多かったようだが、残念ながら現時点では劇中のみでの復活となっている。劇中に登場した掲示板は静岡にセットを組み撮影したものだが、「XYZ」の文字が映るだけで、『シティーハンター』、そして、新宿の雰囲気を漂わせている。

■ゴジラロード、シネシティ広場、靖国通り…『シティーハンター』なら新宿で撮るしかない!

兄の仇をうちたい香が獠を捜し彷徨うシーンで登場したセントラルロード。『シン・ゴジラ』(16)公開時に劇中のゴジラの体長と同じ118.5mで登録し「ゴジラロード」と命名された場所。巨大オブジェ「ゴジラヘッド」を撮影する観光客も多く見られるスポットだ。彷徨う香が行き交う人々の姿から普段のゴジラロードの雰囲気が感じられる。

コスプレイヤーのくるみ(華村あすか)を捜しだすべく、香が必死に聞き込みをするシーンで登場するシネシティ広場。ここではTOHOシネマズ 新宿の前を走るロケを実施。ゴジラロード同様、キャストが通るルートにエキストラを配置することで、この場所でのロケが可能であることを提示。過去には撮影で失敗してしまった事例がある場所だけに、押田プロデューサーは「いい事例が作れたのは本当にうれしい。今後(この場所で)ロケができるようになる可能性を作れたかなと思っています」と喜んでいた。ゴジラロードもシネシティ広場も「捜す」シーンで登場するため、この界隈でよく目にするスポットが次々と映しだされ、「冴羽獠はここ新宿にいる」という感覚にさせてくれる。

獠の部屋兼事務所の屋上は「東京ビジネスホテル」で撮影。香が兄への想いを爆発させる印象的なシーンだ。「初めて香の感情が出るシーン。夕陽も考慮する必要があったのですが、OKが出たあとも『もう1回やりたい』との声が出て。鈴木さん、森田さん、そして監督が演技的にも演出的にもみんながこだわり、苦労して撮影したシーンの一つです」と押田プロデューサー。夕日に染まる新宿をバックにした美しくエモーショナルなシーンが誕生した。

夜の新宿を赤いミニクーパーが靖国通りを走るシーンも印象に残る。香と食事の約束をしている槇村を助手席に乗せ、獠がハンドルを握る。鈴木はミニクーパーを運転するために、マニュアルの運転免許も取得した。ラストでミニクーパーが走るシーンは、自身は映っていないが鈴木のお気に入りでもある。このシーンの撮影でこだわったのは朝日。車内からの実景なので、撮影自体はそれほど大変なものではなかったが、ビルに光が当たる時間、ガラスに朝日が映る角度、空撮の空の光とも合わせるために、夜明けのロケハンを何度も行ったそう。「準備はかなり大変だったけれど、本当にいいシーンになりました」と押田プロデューサーも大満足のようだ。

ほかにも、冒頭には「新宿ピカデリー」の屋上から空撮した映像を使用、さらに新宿西口のビジネス街や都庁周辺の道路でも撮影が行われた。獠と冴子が夜に事務所内で密会するシーンは、東京都庁の展望台で撮影するなど、新宿の名所があちこちに登場している。

■歌詞も振り付けも鈴木の考案!星柄パンツで“もっこりダンス”

脚本段階から企画に参加していた鈴木。「鈴木くんが思い描く世界観を僕らはどうやるのか。それを監督がどう演出し、僕たちが準備をして実現するのか。そこにシフトしたことがすごくよかったと思っています」と振り返った押田プロデューサー。「もっこりちゃーん、もっこりちゃーん!」の掛け声にあわせて、星柄のブーメランパンツで踊る“もっこりダンス”。掛け声にあわせてパンツを脱ぎ捨て裸踊りまで披露するコミカル満載のシーンは鈴木の考案。当時の様子について押田プロデューサーは「『これ、やりたいです。』ってLINEが来て(笑)。あのブルーのパンツも自身でお取り寄せしてました」と思い出し笑い。鈴木演じる獠がいるだけで新宿に違いない、歌舞伎町にある店のはず…と思ってしまうが、「撮影は名古屋のフィリピンパブ。歌舞伎町の店内で撮影したシーンは作中には登場していないんです」と少し残念そうにしていたが、歌舞伎町の雰囲気は存分に出せたシーンだと充実感を滲ませた。

美女に目がなくお調子者でありながら、新宿の裏社会に生きる超一流スイーパーの冴羽獠。コミカルとシリアスが同居するキャラクターで、最大の魅力はギャップだ。そんなギャップを存分に楽しめるのがコスプレイヤーのくるみの護衛でコスプレ会場に出向き、敵と遭遇するシーンだ。ロケ地は東京テレコムセンター。“馬もっこり”でコスプレしたおふざけ全開(名刺を差しだすシーンは特におすすめ!)の獠で思いっきり笑ったあとには、手に汗握る銃撃戦を繰り広げる。本作では劇中に登場する6種のモデルガンを購入し、全部の銃をノールックで操れるよう練習を繰り返し、さらには海外で実銃の訓練も受けたという鈴木による「冴羽獠」らしいガンアクションも見どころとなっている。

押田プロデューサーに聖地巡礼としておすすめのスポットを尋ねてみたところ、「今回の撮影で歌舞伎町商店街振興組合の人が『歌舞伎町は、行きたい目的があるから来る場所ではなくて、ここに来ればおもしろいこと、楽しいことが見つかる場所』と言っていて。なるほどなって思ったんです。歌舞伎町は来る場所。そこでおいしいものや遊ぶ場所、楽しいことを探す場所。来ること自体が楽しい場所、言い得て妙だと思いました」とのこと。本作の聖地巡礼でどこを訪れようか迷ったら、まずは歌舞伎町へ。行きたいスポットがイメージできるかも!?

文/タナカシノブ