1972年、体長約2.5メートルにもなる史上最大のサケを発表した古生物学者たちは、この魚は陸を歩いていたサーベルタイガー(剣歯虎)の水中版だと考えた。サケの上顎(あご)から、2本の湾曲した歯が下向きに突き出ているとされたからだ。

 しかし今、新たな研究により、1200万〜500万年前に生きていたこのサケ(Oncorhynchus rastrosus)の象徴的な顔が覆された。2本の印象的な歯が「鼻先」から、キョンやイボイノシシのように、横向きに突き出ていたと実証されたのだ。論文は4月24日付けで「PLOS ONE」に発表された。同時に論文の著者らは、これまでの英名「セイバートゥースサーモン」に替わり、「スパイクトゥースサーモン」という新たな名前を提唱している。

 顔つきの変化は、化石記録から得られた新たな知識を反映している。

 古生物学者たちは2016年、Oncorhynchus rastrosusが成魚になって海から淡水域に戻る間に、特徴的な歯が変化することを発表していた。さらに今回の米フィラデルフィア整骨医学大学の古生態学者ケリー・クリーソン氏らによる研究で、Oncorhynchus rastrosusの有名な歯が、牙のように横に突き出ていた顔が詳しく復元された。

オスとメスの両方に「スパイク」

 サケがどのような姿をしていたかを解明するには、新しい化石の発見と半世紀前に初めて記載された化石の再分析が必要だった。最初の化石では、有名な歯を持つ顎と頭蓋骨のほかの部分が別々に見つかっていた。

「当初、歯の位置を確認できなかった理由の一つは、すべてが単独で発見されたためです」とクリーソン氏は話す。横向きの歯を持つ魚がほかに知られていないことを考えると、サーベルタイガーのような下向きが理にかなっているように思われた。

 しかし2014年、米国オレゴン州の化石産地を調査していた古生物学者たちが、Oncorhynchus rastrosusの頭蓋骨の化石を新たに発見した。よく目立つ歯も付いていた。最初の化石のCTスキャンも参照した結果、新しい化石はオスとメスのもので、どちらも成魚はよく目立つ歯を持っていたことがわかった。

 オスとメス両方の歯を発見したことは、研究チームにとって驚きだった。

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