東芝は第5世代通信(5G)で必要な最適な時間と周波数の割り当て(リソース割り当て)を可能にする制御技術を開発した。量子コンピューターに着想を得た東芝の量子インスパイアード最適化計算機「シミュレーテッド分岐マシン(SBM)」を用いることで、複数端末のリソース割り当てを0・5ミリ秒以下で可能にした。同時に低遅延で複数端末と通信可能なため、産業機器の遠隔制御や自動化など、物流や産業現場などにおけるデジタル変革(DX)推進に貢献する。(編集委員・小川淳)

高速・低遅延・多数同時接続などの利点を持つ5Gを効率よく利用するには、複数の端末に対し、どのリソースを割り当てるかを瞬時に判断する必要がある。しかし、最小伝送遅延である1ミリ秒を達成しつつ複数の端末ごとにリソースの割り当てを柔軟に実行するのは、膨大な選択肢の中から最適解を選ぶ必要があり、難しかった。

東芝では多くの選択肢の中から最適な組み合わせを選ぶのに優れたSBMを活用し、リソース割り当ての制御を試みた。具体的には、いったん5G規格によるリソース割り当ての制約を緩和した条件の下、最適化問題をSBMで解いた。その上で、その解答と統計情報を用いて5Gの制約を満たすようにリソースの割り当てを再度行う「2段階最適化」のリソース制御アルゴリズムを今回新たに開発した。

このアルゴリズムを用いてシミュレーターによる実証をしたところ、既存のアルゴリズムより質が高く、20端末を対象にしたすべてのサンプル問題に対し、0・5ミリ秒以内に割り当て可能なことを実証した。

基地局における5Gの無線リソースの制御

東芝研究開発センター情報通信プラットフォーム研究所の小畑晴香スペシャリストは「SBMで全体最適化を行うことにより、非常に効率的な割り当てが可能になる」と説明する。

5Gにより複数の端末を0・5ミリ秒以下の低遅延で制御することができれば、例えば工場や倉庫などで複数台のロボットを相互干渉することなく、リアルタイムで遠隔・自動制御が可能になる。

一方で、同研究所の谷口健太郎エキスパートは今後の展開について「実用化に向けては実際のシステムに実装して試していくことが一番のハードルであり、検証しなければならない」と課題を述べる。また、小畑スペシャリストは「今回はリソース制御の部分だけの評価にとどまっている。基地局メーカーや携帯電話キャリアと連携を図って進めていきたい」と期待を寄せる。

SBMを用いた最適化問題については無線通信分野以外でも「さまざまな応用先を広げていければと考えている」(谷口エキスパート)。金融や社会インフラ産業への応用など、さまざまな可能性を模索していく。


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