◆高値を更新した日経平均、最近の市況
東京証券取引所 日経平均は3月に4万500円に乗せたあと、内外のファンド勢、機関投資家などのリバランスや、期を挟んで益出しによる売却が、折からの日銀のマイナス金利解除や、FRBパウエル議長筋からの「5月の利下げはない」とのコメントなどによって、米国の早期利下げが後退。3月上旬までのマーケット観を変える環境になったこともあって調整もあった。

 4万円前後では利益確定の売りを続けていた日本の個人投資家勢は、下げたところでは物色買いも入る。

 その日のうちに売買するデイトレや短い期間だけ保有して差益を狙うスイングトレードをするような専業投資家と、それに準ずる人たちは別として、日常の仕事や普通の生活をする個人投資家は、上げトレンドよりも、むしろこうした押し目で下げたところで買うことが多いのだ。

 証券関係者やセミプロの個人投資家の間では、この2か月あまり、一般には馴染みのない銘柄にフォーカスが当たっていた。

 QPS研究所、さくらインターネット、住石ホールディングス、三井E&Sなど。

 主役は短い周期で入れ替わり、ストップ高で上げたかと思いきや大きく売り込まれる。

 個人投資家の思惑に機関投資家も加わって、連日激しい動きに翻弄された。市場に張り付くことのできない私は決して手を出さない銘柄だ。

◆注目されていた半導体、AI関連は?

 また、3月上旬までは相場の主役と思われた半導体やAI関連の銘柄も、セクターのほぼ全てが買われることはなくなり、選択され振るい落とされる銘柄が出てきた。

 私自身は半導体関連の銘柄を絞り込むとともに、本来の投資方法に戻した。出遅れた銘柄に注目するのだ。

 メガバンクが爆上げしたあと、ビクともしなかったゆうちょ銀行を買ったり、関西電力が上げたあとに、低位のままだった東北電力や東京電力を買った。

 東京エレクトロンは高すぎて簡単に手が出せないので、東京エレクトロン・デバイスに注目してみたり、という手法だ。

 毎日のように売買するわけではなく、指値を入れて放っておくタイプの投資手法なので、中長期目線でしか考えない。そして、これが上手くいった。

 好業績を発表をしたのに売り込まれたコマツや、円安で低迷していた100円ショップのセリアなどは、下がればひたすら買い続けたために持ち株は膨れ上がったが、それだけ利益も増えた。

◆投資のプロが直近1か月で買った銘柄

 この1か月で買ったものを紹介しよう。

 外国人観光客が戻ってきて、業績が上向きになっているのに、株価が思うように上がっていかないブランド品リサイクルショップとして有名なコメ兵(2780)や、チャート的には手を出しずらいが、底値に近いこともあって買ってみたメルカリ(4385)は面白いと思ってる。

 年末に出かけた熊本は、台北の直行便が何本も開設され、街に活気も出ていた。台湾の半導体大手のTSMCが進出したことで地域経済はこれだけ変わるのかと驚いた。

 生産開始はこれからで、第2工場も予定されている段階ということで購入したのが、熊本地盤の金融関係を包括する九州ファイナンシャルグループ(7180)と、ふくおかファイナンシャルグループ(8354)だ。

 今後の成長が期待できる熊本と九州の地域経済と結びついた金融に注目してみたというわけだ。特に前者はまだ買いやすい価格帯の銘柄だからこれから人気が出るのではないかと思ってる。

◆ペット保険の最大手に投資妙味あり

 今まであまり手を出してこなかった建設や不動産関連も買ってみた。

 橋梁建設のリーディングカンパニーの横河ブリッジ(5911)とオリエン白石(1786)だ。

 特に後者は単位株を4万円以下で手に入れることができるうえに配当利回りは4%近い。

 そして、都心5区の高級賃貸物件に強く、メガバンクなどを店子としてお得意さんに持つヒューレック(3003)は業績が良く、配当利回りは3.5%ほど、株主優待も魅力的なので買ってみた。

 また、保険会社が非常に好調だが、値上がりした大手生損保株は利確。買ってみたのは、ペット保険などを手掛ける、アニコムHD(8715)だ。

 2020年には1200円台もあった株価は、今は600円未満。獣医師の友人によると、シェアNo.1で、保険適応時に窓口精算できる数少ないペット保険のひとつだそうで、動物病院支援などペット周りの業務もしている。

 東京海上日動と提携関係にあるとともに、最近、投資上手で有名なノルウェー政府が大株主になったことも投資を始めた理由だ。

◆紅麹問題で揺れる小林製薬

 順調な資産運用の中で、厄介な銘柄もある。ひとつがエーザイ(4523)だ。

 ご存知のように、認知症、アルツハイマーに関する画期的な新薬を開発。日米などで承認を受けたものの、会社の業績は伸び悩み、それとともに膨れ上がった投資家の期待は萎み株価は低迷中。

 株主総会での説明を聞いたところによると、ほかの新薬と違い、投薬までに非常に専門的で時間のかかる検査をしなくてはならず、それに対応できる医師などの育成が必要で、それに一定の時間が必要とのこと。世界的な需要はある新薬なので、下がったところでは、買い増ししている。次の決算はどうなるか楽しみにしている。
 
 もう一つが小林製薬(4967)だ。

 ご存知のように紅麹問題でストップ安。元々2020年秋から冬にかけて1万2000円を上回る株価から、長期的に下げトレンドの流れにあった。6000円を少し上回るあたりで売買されていたところで、紅麹問題が発表され翌営業日にはストップ安。翌々日には4700円の最安値までつけた。

 ところがその後、この記事を書いている4月4日までは連日底値を切り上げながらの上昇トレンドにある。特に4月に入り日経平均やTOPIXが大きく下げる局面でもジワリと上がっていく。

◆成長性はなくとも財務は鉄壁の会社

 小林製薬は売り上げの25%を海外で稼ぐ。特にアメリカと中国だ。

 主力製品は使い捨てカイロだという。そのほかの主力製品もトイレの芳香剤を始めとして生活密着型の商品が多く、製薬会社でありながら、薬そのものの売り上げは4分の1くらいに過ぎない。

 すでに日本全国に広く普及した人気の定番商品が多いからか、安定性の高い王道商品が事業のメインにある。そのため国内では成長性が期待できるわけではないが、確実に利益を上げてくれる。余剰資金に恵まれ、自己資本比率は高く、有利子負債は少ない財務鉄壁な会社でもある。

 もちろん、今回の紅麹問題が経営に与える影響は未だ見通すことはできない。

 また、紅麹製品の健康被害も、それが、被害を訴えている人たちの健康状態に与えた影響がどれほどなのかという科学的な因果関係が確定したと言えるのだろうか。

 一部メディアの報道は過熱しているが、企業としては疑わしきものや消費者の信頼を失った商品は販売しない。それもあっての自己回収なのかもしれない。

◆新NISA購入ランキング4位の謎

 報道を受け、小林製薬のイメージはガタ落ちした。しかし、投資家は将来を見据える。今後の小林製薬については二つの見方があるようだ。

 まずは、空売りがものすごく増えたことに象徴されるように株価は下がると考える向き。この空売り残高は日々変わるものではあるが、私がチェックした日にはそれまでの5倍から10倍も残高が報告されている。

 小林製薬の大口の株式保有者を調べると個人などが多く、最近の日本の会社に散見されるような、物言う株主の名前は見られない。

 また、政策保有で持ち合い関係にある会社の名前もなかった。

 つまり、これだけ空売りが積み上がっている安い株価の時に、大口投資家などが、この資金潤沢な会社を買ってみようと思う存在が現れたら、そうでなくても、機関投資家が膨れ上がった空売りをひっくり返す動きに出たら、株価は一気に動く。そういう環境にあるということだ。

 もうひとつ驚いたのは、大手ネット証券が発表する新NISAで個人投資家が購入したランキングに、紅麹問題で急落したのちに、初めて小林製薬が4位にランク入りしたことだ。

◆少数保有していた筆者は“ナンピン買い”を選択

 小林製薬は個人投資家が好む、高配当銘柄ではない。

 年に2回、株主優待で5000円程度の製品を選べるというものがあるくらい。それ以外の配当利回りは、株価が大きく下がったあとでも2%程度だ。PBRは2倍、PERも18を超えている。

 いわゆる指標などからはお宝銘柄では決してない。それが、人気銘柄になったということは、個人投資家は今の株価であれば、キャピタルゲインの利益があると目論んだとしか思えないのだ。

 私自身は、それまで小林製薬は少数保有をしていた。株価急落でも損切りなどせずに、今回の下落でナンピン買いをした。

 もちろん、健康を害しておられる方には謹んでお見舞いを申し上げるが、果たして、不透明感ばかりの紅麹問題に翻弄される小林製薬はどうなるのか? 大変興味深いところである。

※株式投資はご自分の判断と責任に基づいておこなってください。

<文/佐藤治彦>



【佐藤治彦】
経済評論家、ジャーナリスト。1961年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。JPモルガン、チェースマンハッタン銀行ではデリバティブを担当。その後、企業コンサルタント、放送作家などを経て現職。著書に『つみたてよりも個別株! 新NISAこの10銘柄を買いなさい!』、『年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話』、『しあわせとお金の距離について』、『安心・安全・確実な投資の教科書』など多数 twitter:@SatoHaruhiko