塩澤崇日本銀行が「マイナス金利政策」を解除し、今後は家を購入する際の住宅ローン金利にも影響が見込まれる。いったい、どうするべきか……。
20万人が利用する日本最大級の住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」。その立ち上げメンバーにして取締役COOであるのが、モゲ澤こと塩澤崇氏だ。モルガン・スタンレー証券やボストン・コンサルティング・グループでの経験に基づくわかりやすい解説に定評があり、住宅ローンアナリストとしての知見を活かし、さまざまなメディアへの出演も多くこなしている。

そんな塩澤氏は「住宅ローンは受験勉強と同じ。準備をして本番に挑む必要がある」と語る。金利や物件価格が上昇する中で、賢くお得に家を買うヒントを塩澤氏直々に伝授してもらった。今回はまず、初心者が知っておくべき住宅ローンの鉄則や、変動金利か固定金利どちらがお得なのか? さらには、万が一の事態に備えた団信(団体信用生命保険)で絶対につけるべき保障を聞いた。

◆いよいよ金利引き上げ。今後はどうなる?

2024年4月に、住信SBIネット銀行が短期プライムレートの引き上げを発表しました。「いよいよ変動金利の上昇が始まった」と騒がれていますが、引き上げをしたのは住信SBIネット銀行・楽天銀行・イオン銀行の3行のみ。今は一部の限定的な銀行の動きで、大騒ぎするほどではありません。

すでに借りている人は、いつ実際に金利が上がり、いくら金利負担が増えるのか、しっかりと数字で理解することが大切です。

一般的に、銀行は毎年4月1日と10月1日に金利を見直し、その3ヶ月後に新金利を適用します。今回は2024年4月中旬に利上げが発表されたので、適用されるのは10月からです。5月からいきなり返済金額が上がるわけではありません。(※銀行によってルールが異なる場合があります。詳しくは銀行ウェブサイトをご覧下さい)

例え金利が0.1%上がったとしても、元本3500万円なら、毎月増えるのは1500円のみ。また、銀行には5年125%ルールがあるため、5年間は金利負担を増やし、元本返済を少なくする調整が自動的になされるため、毎月の返済額は一定となります。

高金利の変動金利で借りている方は、まだ金利が低い今のうちに借り換えを検討してください。金利が下がったことで浮いたお金は、固定金利を支払っているつもりで、その差額を毎月、積立投資に回しましょう。ダブルインカムや副業で収入を増やすことも、金利の上昇に備える手です。

これから住宅ローンを借りようと考えている人は、住信SBIネット銀行の短プラ引き上げの動きが他行に波及するか気になりますよね。僕は他行は追随しないのではと考えています。メガバンクがマイナス金利解除の直後に「基準金利は引き上げない」と宣言しているため、今、基準金利の引き上げに動くと、金利が上がりやすい銀行だという印象を持たれてしまい、今後の新規顧客獲得にはマイナスですからね。しかし長期的には、日銀が利上げするに従い、どの銀行でもそれに連動して基準金利の引き上げが起きるでしょう。

◆「ダラダラ賃貸」は絶対にNG、社宅も要注意

さて、ここからは住宅購入の初心者が知っておくべき鉄則についてお話ししていきます。

最も避けるべきは、「ダラダラ賃貸に住み続けること」です。将来的には家を買いたいと思っていても、つい先延ばしにしてしまいがち。しかし、生涯の収入を考えてみてください。20歳から60歳までの40年間で稼ぐ収入は、だいたい2億円や3億円です。この中から、住宅費、生活費、子どもの教育費、そして老後の備え。主にその4つにお金を使わなければなりません。

例えば、生涯の収入が3億円だとして、それを均等に4分配すると、住宅費は7500万円になります。この7500万円を使って、家賃や住宅ローンを支払うのです。つまり、賃貸の期間が長ければ長いほど、家を買うための“財布”は減っていくことになります。

総合的に考えて、35歳までには購入した方がいいですね。返済も早く終わるので、精神的にも楽になります。

もちろん、40歳や50歳で家を買うこともできます。しかし、家計に無理のない範囲で購入するとなると予算が限られてしまいます。家の予算を上げると、家賃+住宅ローンの居住費の総額が膨れ上がってしまい、生活費、教育費、老後の備えのどれかを削らなくてはなりません。これが「ダラダラ賃貸」で後回しにすることの大きな問題であり、老後が苦しくなる理由です。

特に社宅に住んでいる方は、要注意です。社宅は安いため、社宅に住むことで家賃が毎月5万円や10万円浮くかもしれませんが、5年間で得する金額はせいぜい約600万円でしょう。一方で5年前には7000万円で売っていた家が、今では1億円以上になっています。インフレ下では賃貸に住み続けるのは、じつは大きな問題なのです。

つまり、賃貸で決断を先送りするということは「不動産を買わないリスク」なのです。「不動産を買うリスクを、取らないリスク」とも言えます。

◆全国で約800もある金融機関の住宅ローンは何を見るべき?

銀行住宅を買う際にはまず、“いくらの物件を買うか?”という予算を考える必要があります。予算の目安は、収入の7倍までです。例えば年収500万円なら、3500万円ですね。家計に余裕を持たせたいのであれば、収入の5倍までを目安に考えるといいでしょう。今後の金利上昇が心配な方は5倍までをオススメします。

次に、住宅ローンの選び方に気をつけましょう。無頓着な人は給料の振り込みで使っているメインバンクから住宅ローンを借りたり、友人や不動産業者の勧めで決め打ちをしてしまいがちですが、絶対にやってはいけません。当たり前のことなんですが、ちゃんと自分で比較して選んだほうがいいんです。

とはいえ、銀行だけではなく、信用金庫やJAなども含めて全国には約800の金融機関が存在し、ほぼ全てが住宅ローンの商品を提供しています。しっかりと比較する必要があるのです。何を基準で選ぶべきかというと、住宅ローンの鉄則の一つ目は「金利」です。

「金利」とは、借りるための費用です。銀行はタダでお金を貸してくれるわけではありませんから。金額が大きい住宅ローンでは、数パーセントの差で大きく変わってきます。金利が低い銀行を選びましょう。

金利には「変動金利」か「固定金利」から選ぶことになり、現在の変動金利はおおよそ0.4%前後です。固定金利には代表的な商品として「フラット35」というものがあり、おおよそ1.8%程度です。変動金利が0.4%、固定金利は1.8%から低ければ低いほど、優れていると言えます。

◆「固定金利」と「変動金利」どちらが“お得”?

結論から言えば、私は固定金利よりも変動金利が“お得”だと考えています。住宅ローンは毎月少しずつ元本を返済していくため、返済初期は元本がたくさん残っていて、返済後期になると元本が少なくなります。元本がたくさん残っている返済初期は非常に多くの金利が発生し、最初の10年で金利総額の約半分を占めるほどです。そのため、最初の10年間をいかに低い金利で通過するかが、重要なポイントとなります。

固定金利にしてしまうと「最初から高い金利で借りる必要性があるのか?」という疑問があります。もちろん、変動金利を選んだ後、金利が上がることも考えられますが、利上げを急がないとしている日銀の金融政策を踏まえると、10年間で上昇する金利はそれほど高くないでしょう。

また、固定金利と変動金利の金利差をしっかりと考える必要があります。現在、変動金利は0.4%程度で、固定金利は1.8%です。この金利差は“保険料”とも言えます。金利が上昇しない、もしくは上昇しても1.8%を超えないという安心材料ですね。

現在の金利水準では、住宅ローンの金額が3500万円であれば、固定金利の方が変動金利よりも約1000万円多く支払うことになります。つまり、35年間で約1000万円の保険料を支払うわけです。これが安いか高いかは個人の価値観の問題ですが、私は保険料としては高いと考えており、ゆえに変動金利がお得だと思います。

なお、予期せぬ金利上昇への備えも非常に大切です。私は金利は大きく上昇することはないと想定していますが、万が一2%程度の金利上昇があったとしても耐えられる家計設計にはしておくべきでしょう。備えあれば憂いなしです。

◆「団信」で絶対につけるべき保障は?

夫婦に営業するビジネスマン住宅ローンの鉄則の二つ目は「団信(団体信用生命保険)」です。団信とは、お金を借りた人が死亡したり高度障害になってしまった場合、住宅ローンが免除される仕組みです。実はこの保障内容が、銀行選びにおいて非常に重要なのです。

コツは、団信の疾病保障が無料で付いている銀行を選ぶことです。一般的には、がんや心筋梗塞などの病気の保障を付けるには、追加の金利が上乗せされてしまいます。しかし無料でこれらの保障がついてくる銀行もあります。

例えばauじぶん銀行では、無料でがんの50%補償や4つの疾病保障がついてきます。これは、がんと診断された場合には半分の負担が免除されるという保障です。4つの疾病保障とは、心筋梗塞や脳卒中などの病気にかかり、入院や働けなくなった場合には、同様に負担が免除されるということです。これらの保障が、金利に上乗せされることなくついてきます。

4大疾病、7大疾病など保障にも色々と種類がありますが、一つだけ選ぶとしたら、「がん保障」です。

がんは死亡原因の上位に位置しますし、がんになった場合、入院や働けなくなるなど、経済的な負担が生じることがあります。

近年の医療技術の進歩により、がんの早期発見が可能になりました。健康診断で初期のがんが見つかり、治療費用がかかる場合でも、がん保険に入っていれば安心ですし、団信の種類によっては住宅ローンの支払いが免除されるものもあります。初期がんであれば治癒することもあります。がんも消えて住宅ローンも消える、そんなお得な保障にはいらない理由はないと思います。次の記事では、「狙い目の銀行」について紹介していきます。(全3回/1回目)

<取材・構成/綾部まと>

―[絶対に損しない家の買い方]―



【塩澤崇】
東京大学大学院修了後、モルガン・スタンレー証券で住宅ローン証券化を推進。その後、ボストン・コンサルティング・グループで金融機関向け戦略コンサルティングを手掛け、現在は20万人が使う住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営。年間100本以上のTVや新聞取材を受け、住宅ローンアナリストとして情報発信中。「モゲ澤」の愛称も。著書に『金利が上がっても、 住宅ローンは「変動」で借りなさい』(ダイヤモンド社)がある。Xは@takashishiozawa、YouTubeは@mogecheck-shiozawa