フランス、ブラジル、パラグアイを弾丸ツアーで回った岸田首相が、6日に帰国。首相公邸に直行し、自民党の政治刷新本部で座長を務める鈴木馨祐衆院議員らと政治資金規正法の改正などについて1時間ほど会談した。

 岸田首相が「今国会中の改正に向けて全力を挙げる」と意気込む規正法の行方に注目が集まりがちだが、要注意のヤバい法案を忘れてはいけない。今年3月に政府が国会に提出した地方自治法の改正案だ。

 法案は7日の衆院本会議で審議入り。災害や感染症などの「緊急事態」に備えて自治体に対する国の指示権を強化するのが狙いだ。

 一体、何がヤバいのか。改正案の廃案を求める「改憲問題対策法律家6団体連絡会」が声明(4月17日付)で指摘した問題点が分かりやすい。

■発動要件は為政者の腹次第

 声明によると、改正案は憲法92条で定められた地方自治の本旨に反する。いわく改正案は、〈自治体のあらゆる事務に対して国が権力的に介入して指示権を行使できるとするもの〉であり、〈「地方分権改革」に真っ向から逆行するもの〉。国と地方の「対等」な関係がゆがめられる恐れがある。

 さらに問題なのが、国の指示権に限定がないことだ。改正案の条文には、指示権を発動するケースについて〈大規模な災害、感染症のまん延その他その及ぼす被害の程度においてこれらに類する国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が発生し、又は発生するおそれがある場合〉と書かれているだけ。発動要件に至っては、各大臣が〈特に必要があると認めるとき〉と、為政者の腹次第である。

 指示権発動の場面も要件もあいまいなのに、驚くべきことに、発動は閣議決定で可能であり、国会承認が不要。事前に自治体の意見を聞く手続きになっているものの、あくまで努力義務にとどまる。国が「国民の生命を守るため」などの理由をこじつけさえすれば、いくらでも恣意的かつ無制限の運用が可能になりかねないのだ。立正大名誉教授の金子勝氏(憲法)がこう言う。

「自民党の改憲草案の緊急事態条項の創設を先取りするような法案です。改憲をせずして緊急事態条項を実現し、有事の際の戦争準備を遂行しやすくする地ならしではないか。『重大事態』が明確ではない以上、地方自治が時の内閣の意のままにされかねません。自治体が政府の下請け機関になってしまうかどうかの分水嶺だと思います」

 憲法を骨抜きにするような政府に好き勝手させてはダメだ。