1月6日、春高バレー3日目。時計が間もなく19時を指そうかという頃、準々決勝に勝利した旭川実業の選手たちが取材エリアに現れた。

 どちらもフルセットまでもつれた大阪国際滝井、都市大塩尻とのダブルヘッダーを終え、北海道勢として31年ぶりのベスト4進出を決めた彼女たちを多くの記者が囲む。その中央に立つのは2試合で66得点という驚異的な数字を叩き出したエースの笠井季璃(りり)。今夏、U19日本代表でも活躍した主将が丁寧に取材へ応じる姿を横目に見ながら、リベロの石崎茉凛が嬉しそうに笑った。

「自慢の大エースなんです」

「うちの大エースです。『床上から10センチでも上げてくれたら全部カバーする』と言ってくれるし、きついボールもとにかく上に上げてつなげれば決めてくれる。ホントにカッコいい、自慢の大エースなんです」

 笠井は“大エース”の称号にふさわしく、観る人を魅了する選手だ。前衛、後衛に関わらずどこからでも仕掛けるダイナミックで力強い攻撃はもちろん、守備も器用にこなす。周囲からエースと担がれるだけでなく、自ら自覚と責任を持ち、周囲をけん引する。レシーブやトスが乱れた結果、自身のスパイクが打ち切れずにブロックされてもすぐ右手を上げ「今のは私(が悪い)」と周囲へ声をかけ、すぐに「次の1点を獲ろう」とチームを鼓舞してきた。

 憧れは男子日本代表の石川祐希。毎日、石川のプレー動画をチェックし「キャプテンとしての振る舞いも参考にしている」というのも納得だ。

 だが、そんな“大エース”もさることながら、旭川実業の選手を見て、どうしても気になることがあり、石崎に尋ねた。

「髪の毛、長いよね?」

 石崎は肩につくボブヘアで、よく似合っている。高校3年生なのだから、校則の範囲内で好きな髪型にすればいいのだが、運動部、特に女子バレーボール部で全国大会の上位進出を果たすチームのほとんどどころかほぼ全員がショートヘア。学校によっては、ほぼ全員が同じ髪型なのではないかと錯覚することすらある。

 だが、旭川実業はそれぞれバラバラで、肩まで髪を伸ばす選手が石崎以外にも数人いた。春高のベスト4をかけた現場では妙に新鮮に映ったので、さらに質問を投げると、屈託のない笑みを浮かべてこう言った。

「バレーをしていると短いのが普通だと思うし、私が入学した頃は耳にかかったらダメ、っていうルールがあったんです。でも、そのルール通りやっても勝負に関係あるか、と言われたら関係ない。だったら、髪の毛が短くなくてもいいよね?と、今の3年生独自の発想で、伝統を変えていこうという話になりました」

そもそも、なぜショートが多いの?

 バレーボールでは身体の一部がネットに触れば、タッチネットの反則を取られ、相手に得点を献上する。何よりプレー中には汗もかく。邪魔にならないように、とショートヘアにしたり、ロングヘアでも試合中は束ねることが多い。

 本来、プレーに支障をきたさない程度に好きな髪型をすればいいはずなのだが、伝統という暗黙のルールが存在するのも事実だ。

 とはいえ、時代は変わった。バレーボールのルールやスタイル、ウェアも変わったように、いくら伝統とはいえ、変えてもいいものもあるのではないか――選手だけでなく、“改革”を打ち出すのは旭川実業を率いる岡本祐子監督だ。

 同校で主将も務めたOGで、早稲田大を卒業後に東洋紡績や栗山米菓で選手として活躍。2010年に母校の監督に就任した。自身も現役時代にさまざまな“伝統”に倣って来たが、指導者になってさまざまな矛盾を感じたと振り返る。

「言われた目標を頑張ることはできるけれど、自分で何をするか考えろ、と言われたらわからない。選手を終えた後、私もまさにそうでした。だから監督になってからは、自分と同じ経験をしないように、選手たちには高校生の頃から自主性や主体性を持ってほしいと思ってきたんです。特に近年はいろいろなことが変化している。大切な伝統はもちろん大事にしながら、必要ないものは切っていけばいいじゃないか、というものの一つが髪型の変化でもあるんです」

 選手たちの自主性を重んじ、意見を尊重する。それは髪型だけでなく、バレーボールも同様だ。試合に向け、相手の対策を練り、ブロックやレシーブがどこに入るか。データをもとに戦術を立てるが、試合になればその通りに行くとは限らない。もちろん岡本監督からも指示を出すが、その前に選手から「変えたい」と要求してくることが多い、と笑う。

「ここじゃなくて、別のコースに跳んでいいですか?って。選手がそう言うならば、それは現場が判断することだからオッケーだよ、と尊重するし、むしろグッドだよ、と。来ないところにいつまでも跳んでいたら負ける。選手が一番わかっているんです」

 春高やインターハイでの優勝を誇り、日本代表やVリーグに多くの選手を輩出した伝統校とあって、変化を歓迎する声がある一方、それに対して反発する声も上がる。特に見た目でわかる髪型に対しては、後者の声が大きかったのも事実。自主性を重んじる選択が正しかったことを示すためには、結果を出すしかなかった。

 だから、1月開催となった春高では初めてセンターコートに立った意義は大きい。

「ベストを尽くした」「変えたからには結果を」

 準決勝・下北沢成徳戦では、2セットを連取され、第3セットも9対11と追いかける展開を強いられたが、エース笠井が「自分に全部持ってきて」と躍動。猛打で追い上げて24対24のデュースに突入したが、最後はバックアタックがネットにかかって24対26。直後に笠井はコートに倒れ込み、両手で顔を覆った。3日間で4試合、しかも3回戦と準々決勝がダブルヘッダーという良識を疑う過密日程にもひるまず立ち向かった大エースに、会場中から惜しみない拍手が送られた。

 惜しくも決勝進出は逃したが、堂々の3位。「ベストを尽くした」と岡本監督は胸を張る。

「変えたからには結果を残さなければならない。かなりのプレッシャーがありました。いいところは大事にしながら、時代と共に変わっていく。これからのために、女子は、男子は、ではなく、みんなで頑張っていきたいですよね」

 髪型も伝統も。選び、つくるのは自分自身だ。

文=田中夕子

photograph by Yohei Osada/AFLO SPORT