健大高崎高校の優勝で終えた96回目のセンバツ。プロスカウトの目に留まった球児は誰だったか。“本音”での評価を聞いた。

 新基準のバットが導入された今春のセンバツは本塁打が大幅に減り、ロースコアの接戦が多かった。目が離せない試合展開となった反面、攻撃は派手さを欠いた。

 インパクトを残すのが難しかった中、プロ野球スカウトの目を引いた選手もいる。在京球団のスカウトの1人がセンバツのパフォーマンスを評価し、今夏も甲子園で見たい選手に打者と投手、それぞれ2人の名前を挙げた。

スカウトも驚いた豊川・モイセエフの“規格外ファウル”

 打者で最もプロに近いと評したのは、豊川のモイセエフ・ニキータ選手だった。フェンスオーバーの本塁打が2本しか出なかった今センバツで、大会屈指の好投手、阿南光の吉岡暖投手から大会第1号を放っている。高めに浮いたフォークを引っ張り、ライナー性の打球でライトスタンドに飛び込む一発にスカウトも驚いた。

「高野連は新基準のバットで飛距離が5メートルほど落ちると説明していますが、大会を通じた印象では5メートル以上飛ばなくなっています。しかも、バットの芯で捉えても打球が失速していると感じます。そのバットで低い打球をスタンドまで運ぶのはスイングスピードの速さやミート力が必要です。今回のセンバツに出場した選手の中で、現時点ではモイセエフ選手が最もドラフトで指名される可能性が高い打者と言えます」

 本塁打に加えて、スカウトが驚いたのは第1打席のファウルだった。

 2ボールからの3球目をスイングすると、打球は高々と舞い上がって一塁側のファウルゾーンへ飛んだ。阿南光のファーストは落下地点に上手く入れず、打球はグラウンドに弾んでファウルとなった。スカウトは「タイミングが少し早くてファウルになってしまいましたが、スイングの速さがなければ、あんなに打球は高く上がりません」と能力の高さを感じた。

大阪桐蔭・境の走力、華のあるプレー

 2人目の打者に挙げたのは、大阪桐蔭・境亮陽選手だ。神村学園との2回戦でランニング本塁打を放っている。ライトの頭を越えた打球はフェンスに直接当たり、ライトがわずかに打球処理に時間を要した隙を見て一気に本塁まで到達した。

 その走力にスカウトは「一塁ベースを回ってから、特に二塁ベースを蹴ってからの加速に驚きました。地面を蹴る力が強く、体のバネも感じました」と話す。

 境を評価する理由は守備にもある。特に印象的だったのは、準々決勝で対戦した報徳学園戦の8回裏に見せたプレー。2死満塁から5番・安井康起選手の打球は一、二塁間を抜ける。ライトを守る境は捕球すると、ホームにノーバウンドで送球。二塁ランナーは三塁ベースを蹴ったところで慌てて三塁に戻った。

 スカウトが語る。

「もちろん境選手の足の速さと肩の強さは知っていましたが、甲子園の緊迫した場面でも力を発揮できていました。打力だけでプロで勝負できる外野手はかなり限られるので、足と肩はアドバンテージになります。球場を沸かせる華のあるプレーもプロ向きです」

今朝丸を最も高く評価するのは“ギアの切り替え”

 投手の中で最も高く評価したのは、報徳学園の今朝丸裕喜投手だった。今大会は5試合中、4試合に登板。そのうち3試合で先発して2試合に完投している。大阪桐蔭戦は1失点で9回を投げ切った。計24回1/3を投げ、与えた四球は2つと制球力が光った。

 スカウトは昨春センバツからの成長を感じていた。

「これまでは球威があってもストライクとボールがはっきりしていて、大事な場面での失投や四球のイメージがありました。ただ、今回のセンバツではストライクがほしい場面で難なくファウルや見逃しを取れていました。直球は球威で抑えにいくケースとコントロールを重視するケース、2つを使い分けていると感じました」

 今朝丸は今センバツで149キロをマークした。今大会では、健大高崎の石垣元気投手が記録した150キロに次ぐ球速だった。直球は力でねじ伏せる140キロ台後半と、コースを狙って打ち取る130キロ台後半の2種類を操っていたという。

「アウトカウント、点差、相手打者など場面に応じてギアを切り替えて投球していました。ギアを上げるのは単に力を入れて球速を上げることではありません。集中力を高めて質や精度の高い球を投げていました。計算できる投手になったと思います」

 今朝丸は今大会、直球の質やコントロールで1年前からの成長を見せた。

 身長188センチの長身と手足の長さも魅力で、スカウトは「球に角度がありますし、フィジカルを強化すれば球速が上がる可能性は十分です。まだ伸びしろを感じさせるので、夏の大会が楽しみです」と期待を寄せる。

伸びしろの今朝丸、完成度の広陵・高尾

 成長と伸びしろを評価した今朝丸に対し、完成度の高さで突出していたのが広陵の高尾響投手だった。

 高尾は今大会2試合に先発して、いずれも完投。140キロ台の直球とスライダーに緩いカーブを組み合わせ、計18回1/3を投げて23個の三振を奪った。2回戦の青森山田戦は終盤に失点を重ねて敗れたものの、7回まで無安打、無失点だった。

 スカウトが最大の長所に挙げるのは直球の球質。身長172センチと上背はないが、球の回転が良く打者の手元で伸びるという。ストライクゾーンで勝負できることに加えて、直球も変化球も内外角に投げ分ける制球力もあると評する。

「直球を狙っていた主軸の打者でも高尾投手の直球に振り遅れたり、球威に押されたりしていました。ファウルでカウントを稼いだり、三振を取りにいったりできる直球の強さがあります。投球の軸となる直球が素晴らしいので変化球が生きますし、大きく崩れる不安がありません」

性格も投手向きと評価するワケ

 また、性格も投手向きだと指摘する。

 ピンチになっても弱気にならず、むしろ気持ちが入るタイプとみている。青森山田戦では、やや力みにつながった部分はあったが、負けん気の強さが表情や投球に表れていた。チームメートが“ド天然”と口をそろえる報徳学園の今朝丸とは対照的な性格。ただ、スカウトは、どちらのタイプも投手らしいと感じている。

「プロで成功している投手を見ると、星野仙一さんや田中将大投手のように闘志を前面に出して打者に向かうタイプも、細かいことや周りを気にしないマイペースなタイプもいます。投手は基本的に繊細です。わずかな感覚の違いでパフォーマンスが変わります。その感覚を修正しようと過度にこだわったり、気持ちの切り替えが上手くいかなかったりすると結果を残せません」

 プロ野球のスカウトは「甲子園に出場した」、「甲子園で活躍した」という結果で単純に優劣をつけるわけではない。結果に至るプロセスや将来性を見極めて、各球団はドラフト会議で指名する。ただ、全国からトップレベルの選手が集まる甲子園で力を発揮できるかどうかは評価の要素になるという。球児にとって聖地は夢の舞台であり、次の夢へとつながる可能性も秘めている。

文=間淳

photograph by JIJI PRESS/Hideki Sugiyama