2023ー24年の期間内(対象:2023年12月〜2024年4月)まで、NumberWebで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。ドジャース部門の第4位は、こちら!(初公開日 2023年12月18日/肩書などはすべて当時)。

 背番号「17」のユニフォームを身にまとう大谷翔平の姿を、入団会見場の最前列に座るドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、いつも以上に穏やかな表情で見守っていた。特設ステージ上での記念撮影の際も、笑みが絶えず、むしろホッとしたかのような表情を浮かべた。

我々はスポーツ界の中心にいる

 2016年、ドジャースの現場トップに正式に就任して以来、今季まで8シーズンで地区優勝7回、在任中はすべてプレーオフへ進出し、2020年には念願のワールドシリーズを制覇した。それでも、現状に満足するつもりはない。目指すべきは、チーム基盤を盤石にし、真の「常勝軍団」を構築すること以外にない。今や、メジャーだけでなく、世界一のアスリートとなった大谷は、そのために不可欠な最大のピースで唯一無二の存在だった。大谷の会見終了後、ロバーツ監督は、表情を引き締めつつ、真剣なまなざしで言った。

「ドジャース野球の歴史にとってすばらしい一日となった。我々はスポーツ界の中心にいる」

漂う「オールドスクール」の匂い

 現役時代のロバーツは、俊足巧打の外野手として知られたとはいえ、成績が特別に傑出していたわけではない。2004年途中、レッドソックスへ移籍し、ヤンキースとのア・リーグ優勝決定シリーズで流れを変える二盗に成功したことで、一躍脚光を浴びた。

 その一方で、09年の引退後には、血液ガンが発覚するなど、生命の危機にも直面した。闘病生活を経て克服した後には、現場のコーチとして復帰。ドジャースの監督に就任した16年には、ナ・リーグ最優秀監督に選出されるなど、指導者としての才能が一気に開花した。

 テクノロジーの進化に伴い、球界全体が詳細なデータを駆使し、戦術を探っていく時代。高校時代以来、「文武両道」だったロバーツは学業も優秀で、名門UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)卒業後、メジャー入りした。ただ、ロバーツの場合、必ずしも「データ偏重」というわけではない。これまで投手交代のタイミングなどで批判を浴びたことも少なくないが、基本的には各選手とのコミュニケーションを重視する「オールドスクール」の匂いも忘れてはいない。

父は海兵隊勤務、母は日本人

 出生地は、沖縄県那覇市。当時、同地の米国海兵隊に勤務していたアフリカ系米国人の父ウェイモンさんと日本人の栄子さんの間に生まれ、その後、父の複数の赴任地を経て米国サンディエゴに定住した。幼い頃から、軍人としての厳しさを持つ父にメンタリティーの重要性を説かれ、日本人特有の礼節を重んじる栄子さんの優しさを受けて成長した。空腹になれば、おにぎりを頬張り、大好物のカレーライスをたいらげた。ロバーツ自身は日本語を話せないだけに、栄子さんは「私がもっと日本語を教えておけば…」と悔やむものの、メジャー屈指の球団の監督となった今もなお、日本が特別な思い入れのある国であることに変わりはない。

じつはマイナスにならなかった、交渉の暴露

 今回、大谷がFA市場で交渉解禁となった後、代理人事務所「CAA」が情報管理を徹底したことで交渉過程が一切漏れず、憶測情報が錯綜した。それでも、ロバーツ監督は、交渉が佳境に入った12月初旬、開催中だったウインターミーティングの会見で、「ウソはつきたくない。いずれ分かることだから」と、直前に大谷とドジャースタジアムで直接交渉していたことを明言した。

 その直後には、機密情報を漏らしたマイナス面を指摘する声も聞かれたが、大谷のドジャースに対する好印象は変わらなかった。契約締結後、代理人のネズ・バレロ氏も発言を問題視しなかったことを明かしており、ロバーツ監督の実直な言動は結果的にプラスだったのかもしれない。

外野手起用も? ロバーツ監督の柔軟な思考

 柔軟な思考を持つロバーツ監督は、すでに大谷について「外野手」としての出場も視野に入れるなど、既成概念に固執することなく、大谷の起用法を探り始めている。

「我々は非常に興奮している。この状況に本当に興奮している。球界で最も才能のある選手をドジャースのユニフォームを着る選手として迎えられる。これほど興奮することはない。最大限に期待されるのは分かっている」

 日本ハム時代、大谷は野球人生の恩師とも言える栗山英樹監督と出会い、常にコミュニケーションを取りながら、メジャーへの道筋をたどった。その後のエンゼルスでは、毎年のように監督が交代する環境に身を置く、苦難の時期も経験した。

 新天地で迎える来季。

 日本人特有の思考や文化を知り、厳しさと優しさを兼ね備えたロバーツ監督は、新たなスタートを切る大谷にとって、最高の指導者、そして最良の理解者になれるのだろうか。

文=四竈衛

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