5月20日に旗揚げ戦を行った女子プロレスの新団体「マリーゴールド」。業界最大手のスターダムからの“分裂”、有力選手の移籍、そして旗揚げ興行に至るまでの舞台裏で、いったい何が起きていたのか。同団体の代表を務めるロッシー小川に話を聞いた。(全2回の2回目/前編へ)

なぜ“背番号1”の19歳を第1試合に抜擢したのか

 女子プロレスの新団体「マリーゴールド」の旗揚げ戦は5月20日、満員札止めの後楽園ホールで行われた。

 全6試合だったが、筆者は第1試合に注目していた。

 マリーゴールドは背番号制だ。選手やスタッフに番号がついている。その“背番号1”が19歳のビクトリア弓月だ。小川は弓月をオープニングマッチに選んだ。相手は大ベテランの高橋奈七永。高橋は引退を見据えてマリーゴールドに参戦してきた。

 代表のロッシー小川は、試合前にこんなことを話していた。

「弓月はとんでもないレスラーになる可能性がある。でも奈七永は弓月がやりたいことをさせないでしょう。長州力がそうさせないように。それはイデオロギーの違いですから。試合がどうなってもいいとは思ってはいません。旗揚げ戦の第1試合という大事な試合ですから」

 マリーゴールドにはまだリングがない。リングは発注しているが、出来上がるのは夏になるという。リングができたら道場を開く。そんなわけで、旗揚げ戦のリングはノアのものを使用した。

 旗揚げ戦の数日前、弓月は感触を確かめるため、そして入場の練習をするためにノアのリングがある場所まで足を運んだ。若き日の武藤敬司のような、両手でロープを握って回転するリングインをしたかったのだ。だが、意外と難しくてうまくいかなかったという。

「それを見ていた清宮(海斗)にコツを教えてもらったんです。そうしたらうまくいった。ああ、教え方なんだな、と思いました。弓月には『これがうまくいったらマリーゴールドは成功するよ』と言いました」

 旗揚げ戦当日、その入場もしっかりと成功させ、弓月は高橋と戦った。第1試合からハードなものになった。弓月は粘りに粘り、壁のような高橋に懸命に向かっていった。最後は高橋のパワーに押しつぶされてしまったが、以降の試合の流れをハードな方向に導くような戦いになったとも言えた。

「昭和、昭和って言われますけど…」

 小川にとって今回の旗揚げは今までで一番、経験を積んで迎えた旗揚げだという。ノウハウも知っている。とはいえこの先、評価が上がるのか下がるのかはわからない。興行にとってマンネリは禁物だ。今は目新しくても、何もしなければ飽きられる時が来る。

「昭和の興行師? 昭和、昭和って言われますけど、私はそんなに昭和ではないと思います。逆に全女の時も最先端を走っていたんです。昭和の頃は昭和っぽくなかったですよ。今回も『昭和のやり方で選手を引き抜いた』とか言われましたけれど。プロレスは非日常を見るものなのに、今はコンプライアンス、コンプライアンスでこぢんまりやらざるを得ない。組織が大きければ大きいほどね。でも、会場に来てくれる人は組織を見に来るんじゃない。リングを見に来ているんです」

 ビューティ・ペアからクラッシュ・ギャルズ。熱狂する鈴なりの観衆を小川は間近で見てきた。だが、今は大会場でも3000人という壁にぶつかる。

「興行戦争も面白いかなとも思いました。魅力のある方を見ればいいわけですから。昔、隅田川決戦ってありましたよね。さすがに同じ日にはできませんが、同会場でその前後とかね」

 スターダムと対置するなら、企業プロレスvs.個人プロレスということになる。それでも、いきなり業界1位vs.業界2位の構図だ。

「小さいからできることがある。小が大を超えるところを見せたい。今の私が、一番パワーがあると思います。一時は死んでいたものが蘇った」

 そう言って小川は眼を輝かせた。「三浦海岸でのトレーニングの時、ちょっと坂を上っただけでもハーハーするんです」と語ったように、年齢的、体力的な問題は当然ある。現実にも直面する。

「忙しいですよ。今は何をするにしても自分がかかわっている。これから会場にも全部行きます。たまに居眠りする時間はありますけど」

 映画『家出レスラー』の中で竹中直人が演じる小川がモデルの「グッシー」は、椅子にもたれていつも眠っていた。

「もちろんスターダムを始めた時、これが最後だと思いました。ノウハウも知っているつもりでしたが、知らないこともあった。ジュリアの名前は大きくなりました。でも、いつかは決まってはいないけれどジュリアがいなくなった後のことも考えなくちゃいけない」

「マリーゴールドはスターダムが反面教師です」

 旗揚げ前に小川の家を訪ねると、そこにはサイン入りのポスターやグッズが所狭しと置かれていた。小川は広げたポスターを指して言った。

「ポスターのレイアウトだって選手を刺激しますよ。端っこになった選手は、誰が中心かということを認識するはずです」

 そして「最後のチャレンジです」と言葉に力を込めた。

「最後の力を出し切りたい。マリーゴールドはスターダムが反面教師です。スターダムは選手が多いから。それは自分も関係していたんですが、選手を入れ過ぎたかなと。もう余計なお世話ですけど」

 3年後、マリーゴールドのリングでプロレス生活50周年を迎えられるであろうことに、小川は喜びを感じている。

「マリーゴールドの成功は別として、私個人には残された2つの目標があるんです。WWEのレガシー部門で表彰されたいのと、東スポのプロレス大賞で何かもらいたいです。どちらも生きている内にですよ(笑)。自分たちが面白いと思って信じたことをやれば、成功に導けると思います」

 旗揚げ戦後、「MVPは誰か?」という問いに、小川はちょっと間をおいて「ボジラかな」と答えた。ボジラは20歳、181センチ、91キロのドイツ人レスラーだ。まだデビューして2年、ゴジラ並みの怪物ファイトを売り物にしていたが、アルファ・フィーメルから写真が送られてきて「日本で育ててほしい」と小川に託された。いきなりのメインイベント抜擢に、ボジラは十分に応えた。

「外国人選手も売りにしたい。昭和と言われようが何と言われようが」

 後楽園ホールのファンからは自然に「ボジラ・コール」が起きた。ブーイングではなかった。ボジラは意外な反応に戸惑ったが、コーナーポストに上がった。

「マリーゴールドは5、6人のスタッフですが、1人で始めた時よりは多いですから。手作り感のある旗揚げ戦でした。コーナーポストの広告も選手が持ってきてくれたし。バックステージのインタビューボード、本部席や売店のカバーも作りました」

 東ハトのキャラメルコーンの大袋が、CHIAKIに勝利したMIRAIに贈られるシーンもあった。後楽園ホールでは試合前も試合後も、グッズやサインを求めるファンの長蛇の列が続いていた。

「今回は旗揚げ戦という目新しさがあるから、スターダムとアクトレスガールズの両方のファンが来てくれた。でもそれが定着するかどうかはわからない。飽きられちゃうのが一番怖い。団体としては、交流に関してはNGがあった方がいいんですよ。ブランド力が付きますから。マリーゴールドは前を向いていきます」

 小川は確かな手ごたえを感じていた。

<前編から続く>

文=原悦生

photograph by Essei Hara