新小結の大の里が史上最速の7場所で優勝! がんばったなぁ。ただね、横綱大関の上位陣がだらしなさ過ぎるの。番付の価値が無くなっちゃってるよね。入門してから1年ちょっとしか経ってない若者に優勝されて、3月の春場所も新入幕の尊富士が優勝したしね。ほかの三役陣は何をやっているんだって! 心が痛いよ。大の里は、体が大きいから前に出るだけでいい。相撲の基本をやってるだけで、何も難しい技はやってないのね。余計なことをしないのがいいんだよ。基本を大事にしているから“空振り”がない。相手も何もできないままでいる。

 もう番付はいらないなぁ。昔の横綱大関は怒ってるんじゃない? 僕たちの時代は曙若貴がいて、大関の魁皇や千代大海などもいてね。周りが強いなか、このふたりはカド番でも頑張って長い間大関の地位にいた。ふたりとも史上1位の65場所、10年以上も大関だったんだよ。今さらながら、それもすごいことだよなぁ。

「照ノ富士や貴景勝は“引き際”も考えないと」

 それこそ琴奨菊(秀ノ山親方)あたりから“番付エレベーター”みたいになっちゃった感じ。大関霧島も休場して来場所は陥落しちゃうし、数字だけで大関に上がって、すぐ落ちちゃう人ばかりだよね。史上最強大関の雷電さんが怒ってるよ。

 やっぱり、上位陣が最後を締めないとお客さまもがっくりするよね。ニューフェイスが出てくるのはもちろん喜ばしいこと。相撲界の流れが変わってくるからね。でも、横綱照ノ富士や大関貴景勝はここのところ出たり入ったり、質屋じゃないんだからさ。引き際――きっぱりと辞める決断も必要な時期だよ。

「阿炎行け! 寺尾のために行け!」

 お祖父さんの名前で土俵に上がった大関琴桜。期待していたんだけど、いまいちピンと来なかったなぁ。攻めようとしていても体が動いていなくて、足が付いてきてないんだ。今場所は足が前に出ていなかったし、圧力が足りなかった。上から抑え込んでの形が多かったように思う。横綱目指すためにも技を磨いてね。

 13日目の湘南乃海戦、立ち合いに変わったけど、大関ならちゃんと受け止めて! ああいう相撲を取ったら、自分の心が痛くないか?  

 千秋楽、最後まで優勝争いを面白くしてくれた阿炎。大の里相手に何もさせてもらえなかった感じ。ちょっと遅かったね。亡くなった師匠(元関脇寺尾)の棺に初優勝の時の表彰状を入れたと耳にしていて、「やってくれるはず」と思ったんだけどな。「阿炎行け! 寺尾のために行け!」と力が入っちゃったよ。でも関脇の地位での10勝ということで、大関獲りスタートになるね。師匠の地位を超えて、これから天国の師匠に恩返しだよ。

「なんでこの2人に三賞をあげないの?」

 11勝した大栄翔も、9勝を挙げた平戸海も良かったね。なんでこのふたりに三賞をあげないの? おかしいよ。平戸海は大きくない体で真っ向勝負してさ。きっぷのいい相撲が気持ちいいね。まず、大の里に勝ってるんだから殊勲賞だろ? これ以上肥ると動けなくなるし、スピード勝負の相撲だから、体重に気を付けて今の相撲を磨けばいいぞ。今場所の平戸海には、僕から殊勲、敢闘、技能の三賞全部と、おまけで”マルちゃん賞”もあげちゃうよ。

 優勝争いに名をあげた湘南乃海だけど、体だけじゃないかよ〜。相撲内容が悪くて、相撲も逃げてばっかり。立ち合いから、体が左右に流れてる。上位陣とやるのはまだ難しいね。せっかくいい体を持ってるんだから、まずは体を思い切りぶつけていくだけでいいんだよ。そこからの流れを作っていく。もったいないぞ?

 高安も、腰痛で途中6日間を休場しちゃったけど、プレッシャーのない場所は強いんだよね。大の里にも大関豊昇龍にも土をつけてる。でも、相手に合わせて相撲を取っているんだよね。自分の相撲を取り切っていないのね。持って生まれた運もあるけど、初優勝はまだ遠いかな……。

「今の相撲界には、突出して強い人がいない」

 今の相撲界には、突出して強い人がいない。だから誰にでもチャンスはあるんだ。相手に合わすのではなく、「自分の形に持ってゆく」「自分の相撲を取り切る」。何も器用なことを、無駄なことをしなくていいんだ。相撲の基本中の基本である「当たって押す」。今一度、ここを見直して稽古してよ。

 2場所続けてちょんまげ力士の優勝だったけれど、尊富士も大の里も、前に出るという基本を大事にした“シンプルな自分の相撲”を取ってるところがいいんだよね。

 今後も番付関係なく、「一番頑張った人が優勝」だよ。6月は巡業もないし、体を休めて、また7月の名古屋場所でいい相撲を見せてくれよな。

(構成=佐藤祥子)

文=武蔵川光偉

photograph by JIJI PRESS