21歳と27歳。どんな作品でも‟映画俳優”と呼びたくなる空気をまとい、静かな熱をたぎらせるように演じる杉田雷麟さんと寛一郎さん。おふたりが、6月29日公開の映画『プロミスト・ランド』で共演。役所から届いた禁猟令を犯してまで熊撃ちに挑む若者を描いた人間ドラマで、マタギの青年という役柄と対峙したおふたりにお話を伺いました。

みんなで映画をつくっているという一体感がありました(杉田さん)

映画『プロミスト・ランド』で、マタギ文化が息づく過疎の村に暮らし、閉塞感のなか生きる信行を演じた杉田雷麟さん、対して、マタギとして強い誇りを持つ礼二郎を演じた寛一郎さん。どのような準備をして撮影に臨んだのでしょうか?

杉田雷麟さん(以下、杉田) まず飯島(将史)監督のドキュメンタリー映画『MATAGI−マタギ』を観て、撮影1週間前に山形の現場に入り、熊撃ちについてマタギの方に教えていただきました。(山に生きた放浪の人びとを描く)映画『山歌』に出演したときも思ったのですが、マタギもまた、自然と共存して生きる人たちの最前線だろうなと。一種の憧れのようなものを抱きました。

寛一郎さん(以下、寛一郎) 僕はさらにその1年前、撮影でお世話になる猟友会の方たちと山に登らせてもらったんです。こちらとしては、なぜ熊撃ちをやるのか知りたくて、「格好いい!」と思うような神秘的な答えを期待して質問したわけです。でも実際は「熊ぶちゃあ(撃てば)いいんだよ」という感じで(笑)。彼らにとってマタギの文化は生まれながら触れてきて自然に継承されてきたもの、熊撃ちをすることに確固たる理由はなくても、喜びがあり、それが生きがいになっている。僕自身も俳優業という家の習わしのように受け継いだものがあるので、礼二郎のキャラクターは自分に近い感覚がありました。そして(隣の杉田に)信行みたいなところも……誰にでもあるよね? 彼も生まれたときからマタギの文化に触れ、まわりの人間を見ていて、なぜ彼らは熊狩りをして、これほど夢中になるのだろう?と疑問を持っているんですけど。

杉田 そうかもしれません。後半は礼二郎とふたり、熊撃ちのため、ひたすらに山を歩きます。そうしたシーンで心情の変化を表現するにも、とくに計算したわけではなくて。実際に麓から撮影しながら登っていくなか、ストーリーの上でも信行は徐々に辛くなっていくのですが、僕自身も、最終日には本当に疲れ果ててしまって。よく考えられたスケジュールだったなと(笑)。

寛一郎 でも天候には恵まれました。悪天候は1日くらいしかなくて。

杉田 撮影現場までは、雪山の中を1時間ほど歩いて行くんです。僕らは自分の持ち道具ぐらいですけど、スタッフさんは録音機材などを持って行くわけです。道中、くだらない話をしたり、「そこの雪、溶けてきてるから気をつけて」と助け合ったり。苦労を共有し、現場に着くとそれぞれがプロの仕事をこなす。みんなで映画をつくっている一体感がありましたね。

撮影中に生活をともにすることで生まれた絆

6歳の年齢差があるおふたりですが、共演者として過酷な現場をやり遂げた絆を感じさせる、そんな親密さが漂います。

杉田 現場でも、お兄ちゃんという感じで。

寛一郎 ウソつけ!

杉田 本当に(笑)。一緒にスーパー銭湯に行ったよね?

寛一郎 雪山を一緒に歩いて現場に行き、昼にはにぎり飯を食べながら山を見て……。自然に気持ちは穏やかになります。他愛のない会話で関係性も築かれますし。朝5時とか6時から現場に向かって歩き出し、夕方は暗くなる前に宿に戻る。そんな生活をしていたら、どうしたって距離は近くなりますよね。(杉田に)いま21歳だよね?

杉田 そうです。

寛一郎 撮影当時は20歳でしたが、大人っぽいんですよ。それでいて、年齢相応にシャイなところもあって。なんか…可愛いなって(笑)。自分をちゃんと持っているところと、信行のように定まっていない部分と。実際の僕らと役柄上の関係性が似ている? …僕らのほうが、もうちょっと仲が良かったですけど(笑)。

童心を忘れない50代に(寛一郎さん)

ロケ地では都会では味わえない山の恵み、海の恵みにも触れたそう。

杉田 地元の方が作ってくださった熊汁をいただきました。

寛一郎 撮影中、お世話になった猟友会の方が、めったに獲れないという熊を獲ってくれたんです。それを雪のなかに入れて保存し、撮影で使わせてもらいました。そのあと、熊肉を煮込んでくださったんですけど、め〜ちゃくちゃおいしかったです! まったく臭みもなくて。醤油ベースで、野菜がいろいろ入っていて。

杉田 あれはおいしかった。おかわりしました。ほかにも山菜の天ぷらとか、あとなんだっけな…なにかの漬物がおいしくて(笑)。

寛一郎 海苔もおいしかった! パリパリじゃなく、ちょっとしっとりしていて。山形って食材が豊富で、山のものと海のものと、両方あるんですよね。

杉田 信行はふだん鶏の世話をしている役だったので、ロケ先で卵かけごはんをいただいたんです。鶏小屋のシーンの出演者は僕だけだったんですけど、そのごはんがなんとも言えないほどおいしくて。

寛一郎 へ〜! いいね。

 杉田 熊を獲ったら肉を残らず食べ、剥いだ革は、雪の上に座るときの尻当てにしたりする。すべてを無駄なく使い、感謝するという姿勢は尊敬すべきだと素直に思いました。そうした文化に触れられて、撮影期間中、そんな空間にいられたことがありがたかったです。

奥深い山に分け入り、熊と対峙し、自身を見つめ直す−−。撮影を通し、若いおふたりの心も動いたよう。

寛一郎 信行と礼二郎が熊撃ちに行って感じた何か。それは言語化しえないものだけれど、なにかパワーをもらったのかなと。信行は映画の冒頭とラストとで、大きく変化します。そこにはわかりやすいきっかけがありますけど、「なぜだろう?」と思っていることを、毎日自分に問い続けていたら、どこかであるとき、答えが見つかるのかも。自分から行動しよう!と思うときがくるのかもしれないなと。

杉田 流されるままでいるのと、常に意識しているのとではぜんぜん違いますよね。心情の変化で目に映る景色も違うでしょうし。僕自身はずっとサッカーをやっていて、当時は俳優になるなんて考えてもいませんでした。進学でサッカーを諦めることになったのを機にこの世界に入ったのですが、ただきっかけを待っていたわけではなくて。たくさん考え、探そうとして行動を起こしたことで「自分はこういうことがやりたかったんだ!」とわかったんです。信行にとってはそれが熊狩りだったわけで、自分と重なるところがあるのかもしれないなと。

そんなおふたりに、理想の50代について聞いてみました。

寛一郎 50代か…。

杉田 俳優として生き残っていたらいいですけど。

寛一郎 その年齢までこの仕事を続けられていたら、それはスゴイことですね。

杉田 主役も脇役もどちらもやれて違和感がなく、存在感を出せる俳優になれたら。それを目指して目の前のことに取り組んでいます。この仕事を始めて1〜2年は、結局、主演がいちばんじゃないか? と思っていたんです。でもそのころ大杉漣さんのインタビュー記事を見て。「主役でも脇でも、大杉漣というものを残せばいい」という意味のことをおっしゃっていた。主演をしても人の記憶に残らないかもしれない……。自分の考えは甘かったなと。

寛一郎 僕は童心を忘れていなければいいなと。年齢を重ねればチャレンジすることに臆病になるだろうけど、自分が積み上げられるものなんて高が知れています。そんなものは思いっきりぶっ壊したい。子どもの心、チャレンジする気持ちを忘れないでいられたらいいですね。


PROFILE:杉田雷麟(すぎた・らいる)
2002年生まれ、栃木県出身。1917年より活動開始。2019年に映画『半世界』でヨコハマ映画祭最優秀新人賞、高崎映画祭最優秀新進俳優賞受賞。その他の出演作に「ガンニバル」「Aではない君と」等のドラマ、『教誨師』『長いお別れ』『山歌』『福田村事件』『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』等の映画がある。

PROFILE:寛一郎(かんいちろう)
1996年生まれ、東京都出身。2017年に『心が叫びたがってるんだ。』で映画初主演。『菊とギロチン』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』で多数の新人賞を受賞。主な出演作に大河ドラマ『鎌倉殿の13人』『せかいのおきく』『首』『身代わり忠臣蔵』等の映画がある。『シサム』(9月13日公開)、『ナミビアの砂漠』、『グランメゾン・パリ』が公開待機中。

杉田雷麟さん、寛一郎さん出演映画
『プロミスト・ランド』

過疎化で閉塞感の漂う山形の山間地。禁猟令の敷かれた山に入り、熊撃ちに挑む若いマタギふたりの熱く静かな時間。第40回小説現代新人賞を受賞した飯嶋和一の小説「プロミスト・ランド」を映画化。

監督・脚本/飯島将史 
原作/飯嶋和一「プロミスト・ランド」(小学館文庫「汝ふたたび故郷へ帰れず」収載) 
出演/杉田雷麟 寛一郎 三浦誠己 占部房子 渋川清彦 / 小林薫 
2024年6月14日(金)MOVIE ONやまがた、鶴岡まちなかキネマにて先行公開、6月29日(土)ユーロスペースほか全国順次公開
©飯嶋和一/小学館/FANTASIA

撮影/本多晃子 スタイリスト/青木沙織里(杉田さん)、坂上真一[白山事務所](寛一郎さん) ヘアメイク/後田睦子(杉田さん)、AMANO(寛一郎さん) 取材・文/浅見祥子