筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気などで就労が困難なひきこもりの人を対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。

 浜田さんによると、障害年金の受給が認められた後も、原則として障害年金を更新するための診断書である「障害状態確認届」を数年ごとに提出しなければならないということです。障害状態確認届は、誕生月の3カ月前に日本年金機構から郵送されますが、担当医に記入してもらった上で、誕生月の末日までに日本年金機構に到着するように返送しなければなりません。

 この障害状態確認届の記載内容により、障害年金の支給が継続されることもあれば、障害の程度が軽くなったとして、支給停止になってしまうこともあります。もし障害年金の支給が停止されてしまった場合、どうすればよいのでしょうか。実際に障害年金の支給が停止されたひきこもりの男性とその家族をモデルに、浜田さんが解説します。

閉院に伴い受診先を変更

「長男(30)はうつ病でひきこもっており、これまで『障害基礎年金』(国民年金から支給される障害年金)を受給していましたが、支給が突然停止されてしまい、困っています」

 このような内容で相談に訪れた母親(61)から、私は話を伺いました。

「長男はうつ病のため、引き続き働くことが難しい状況にあります。それなのに『障害基礎年金が支給停止されます』という内容の通知が届いたのです。何が何だか分からず、目の前が真っ暗になってしまいました」

 そこで、私は次のような質問をしました。

「息子さんの障害基礎年金が停止されてしまったということは、障害年金を受給していた当時よりも、うつ病の症状が軽くなったということではないのでしょうか」

「いいえ、当時からうつ病の症状はあまり変わっていません。むしろ以前よりも悪化しています。長男は障害年金の支給が停止になってしまったことにショックを受け、通院も中断してしまいました…」

「なるほど、それは心配ですね。ちなみに今回の障害状態確認届を作成した医師は、障害年金を請求するときに診断書を作成した医師とは別の人なのでしょうか」

「はい、病院が変わったので別の医師が作成しました。それが今回の障害基礎年金の支給停止と何か関係するのでしょうか」

「それは今のところ分かりません。原因を突き止めるためにも、その辺のお話をもう少し詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか」

「構いません」

 母親はうなずきながらそう答えました。

 母親からの聞き取りにより、次のようなことが分かりました。病院が変わる前の医師は高齢のためか非常に穏やかで、長男の話をよく聞いてくれたそうです。そのため、長男も日常生活の困難さや不安なことなどをうまく伝えることができていたようです。

 しかし、その医師は高齢を理由に閉院を決めたため、新たな受診先を探さなければならなくなってしまいました。そこで、母親と長男はインターネットで新たな病院を探し、受診しました。

 新しい病院の医師は30代に見えましたが、やや強めの物言いをするためか、長男は話しづらい印象を受けたそうです。そのため、すっかり萎縮(いしゅく)してしまい、医師の問診に対し、「はい、大丈夫です。何とかなっていると思います」という内容の回答をしました。

 長男は母親が運転する車で病院に通っていましたが、長男の希望により、母親は受診に同席せず、待合室で待っていたとのこと。母親は問診がいつも5分もかからずに終わっていたため、少し心配になっていたそうです。

 提出した障害状態確認届のコピーがなかったので何とも言えませんが、新しい医師に長男の日常生活の状況がうまく伝わっていない可能性が考えられました。それにより、症状が以前よりも軽くなったと障害状態確認届に記載され、国が支給停止を判断した可能性があるという仮説を立てました。

障害基礎年金を再開させるためにすべきことは?

 当時の状況を話し終えた母親は、不安そうな表情を浮かべて言いました。

「長男は、もう二度と障害基礎年金を受給することができないのでしょうか」

「それは何とも言えません。障害基礎年金が再開されるかどうかは国の判断によるからです。とはいえ、行動しなければ何も変わらないため、こちらでやれるだけのことをやってみるしかないでしょう。具体的には、息子さんの日常生活の様子を医師に伝えてみて、再度、診断書を作成してもらえないか、お願いをしてみることになります」

 その後、私は次のように念を押しました。

「なお、息子さんの日常生活の様子は口頭で伝えるだけでなく、文書にまとめて医師に渡すとよいでしょう」

 そして、現在の長男の日常生活がどのようになっているのかを母親から聞きました。

 長男の食事の準備は、母親がすべて行っているといいます。長男は食欲があまりないため、朝は食べず、昼は小さめのおにぎりを1個食べられれば良い方だということです。夜はおかずと汁物を少しだけ食べています。

 入浴もほとんどできておらず、週に1〜2回、シャワーを少し浴びる程度。歯磨きも毎日できておらず、同じ下着を着続けることも珍しくないそうです。

 母親は長男の体臭や口臭が気になり苦言を呈することもありますが、おっくうな気分が勝ってしまうためか、行動を改めることはできていないといいます。

 長男の部屋の布団は敷きっ放しで、カーテンは閉めたまま。窓を開けることもないので、部屋の空気は湿っぽく、カビのような臭いがしているそうです。部屋の片付けや掃除はできないため、月に1回程度、母親が掃除をしています。

 長男は1日のほとんどを自分の部屋で過ごしており、日常生活に必要な物はすべて母親に買ってきてもらっています。

 このような話だけでも、現在の長男の日常生活がいかに困難であり、母親の援助がなければ成り立たない様子なのかが伝わってきました。

 母親から聞き取った内容を書き終えた後、私は最後にこう言いました。

「まずはお母さまから今回のお話を息子さんにお伝えいただき、同意を得るところから始めてみましょう。同意が取れた後、さらにヒアリングを重ね、私の方で息子さんの現在の日常生活の困難さを文書にまとめます。その後、息子さんに受診を再開してもらい、医師に現在の状況を伝えるようにしましょう。医師の同意が得られれば、私も受診に同席いたします」

「それはとても心強いです。ぜひお願いいたします」

 そう答える母親の様子が少し明るくなりました。

 私との面談後、母親が長男と医師に事情を話し、それぞれから同意を得ることができました。何とか受診を再開させた長男は、母親と私の同席のもと、医師に状況を伝えました。所々、母親や私のフォローも入れつつ、日常生活の状況をまとめた文書を医師に渡しました。

 医師は丁寧に話を聞いてくれ、長男の困難な現状を反映した診断書を作成してもらうことになりました。後日、医師から診断書を入手した後、私は年金事務所に診断書のほか、「老齢・障害給付 受給権者支給停止事由消滅届(障害年金再開の請求書)」「障害年金の年金証書」の3点を提出しました。

 請求から3カ月がたった頃、母親から連絡がありました。

「おかげさまで、障害基礎年金が再開される旨の通知が届きました。このたびはご協力いただき、本当にどうもありがとうございました。もう二度と受給できないのではないかと心配していましたが、やっと安心することができました」

 母親からの報告を受け、私は非常にうれしく思いました。