ゴールデンウイークは円安や物価高、国内観光地のインバウンドによる混雑で旅行を控えた人も多かったようです。私も整体や鍼灸(しんきゅう)院に出かけたくらいで地味に過ごしていました。どこにも行かなかった人にとって少し心の慰めになるのは、海外はこんなに物価が高かったという円安エピソード。ニュースでは、海外旅行帰りの人の「フィッシュ&チップスが4千円しました」「食費が高いので自炊していました」といったエピソードを取り上げていました。このご時勢に海外旅行した人も「円安で大変な出費になった」と周りの人に言うことで、嫉妬の念を軽減させることができます。

 訪日観光客は割引セール状態の日本を満喫しているようです。街で見る海外の人はたくさん紙袋を持って楽しそうです。イギリスの企業が発表した「滞在費用が安い国ランキング」によると、1位はベトナムのホイアン、2位は南アフリカのケープタウン、3位ケニアのモンバサときて、4位にランクインしたのが東京でした。円安でナメられているのか、以前よりも海外観光客の振る舞いや身だしなみが雑になっているような・・・。都内のホテルの周辺で、夜にパジャマ姿で道路にしゃがみ込んでいる人、ホテルのスリッパでブラブラしている人などを見かけました。おもてなしの心は大事にしながらも、安い国のイメージに負けないで誇りを保ちたいです。

 とはいえ、海外の物価を知ると、あまりのギャップに圧倒されます。特に富裕層が集まるF1レースのマイアミ・グランプリ(GP)会場の物価はエグいと話題です。チケット代だけでも15万円以上。ちょっと良いレストランのメニューは、水が3800円、ハイネケン9300円、ローストビーフナチョス2万7800円、ロブスターロール4万3200円、冷製エビは4万4800円(5月上旬の為替レート)などといった驚きの価格設定。ゼロが一つ減っても普通に高いと思えます。もし円安の今、観戦に行ったら、F1会場というセレブな場所にいても卑屈な気持ちになってしまいます。

 やはりこの円安と物価高を乗り切るには〝行ったつもり貯金〟しかないかもしれません。中国では重要なライフイベントをこなしたと仮定し、その分貯金する「偽装貯金法」が若者の間で流行(はや)っているというニュースを目にしました。F1のマイアミGPに行ったことにして、旅費分の60万円ほどお金が浮いたと思うと、一瞬豊かな気持ちになれそうです。

【KyodoWeekly(株式会社共同通信社発行)No. 21からの転載】

辛酸なめ子(しんさん・なめこ)/漫画家、イラストレーター、コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美大短期大学部卒業。著書に「女子校育ち」(筑摩書房)、「スピリチュアル系のトリセツ」(平凡社)、「無心セラピー」(双葉社)、「電車のおじさん」(小学館)、「大人のマナー術」(光文社新書)など多数。