うまく叱れない、子どもにきちんと伝わっているか不安......。そんな親たちの叱り方に関する悩みに、心理カウンセリングルームコルネット主宰の中垣俊子さんがお答えします。


※本稿は『PHPのびのび子育て』2020年8月号から一部抜粋・編集したものです。


大事なことをきちんと伝えるために叱るときのポイント

「叱る」というのは、親や大人の価値観の大事な部分を子どもに伝える活動です。ちゃんと叱るには、ぜひとも伝えなくてはならないものと、子どもが自由に選んでよいものとを区別する必要があります。

自分やお友だちを傷つける行為、ズルいこと、感情を使って人を動かす(ダダこね)、すぐあきらめる、何でも手を抜く、などはダメだと伝えます。

しかし、遊びの好み、誰と友だちになるか、のんびり生きるか、わんぱくに生きるか、せっかちに生きるか、などは子どもの自由です。この選択の自由の部分が子どもの個性を作ります。

叱り方は伝え方です。もし今あなたが"何度ガミガミ言っても聞かない"と感じているとしたら、やり方を変えるチャンスです。どうしたら伝わるか、いろいろな方法を試してみましょう。そして効果的な方法を見つけられたら、お母さんもきっとラクになるはず。大切なことを大切に伝えて、怒りんぼママから脱出しましょう。


叱り方で迷ったら、この4つを覚えておきましょう!

1. 私が怒っているときは叱らない(緊急時以外)。冷静な状態で叱る
2. 子どもの意識がこちらを向いているかチェック
3. 幼い子には叱り顔も重要
4. 叱った後は、すぐに切り替える

ガミガミと長く叱っても逆効果です。子どもの意識がこちらに向いているのを確認したら、幼児には眉根を寄せて、児童には真剣な表情で簡潔に「〜はダメ」と、やってはいけない行為とその理由を伝えます。伝えたら「はい終わり」と晴れやかな表情に戻しましょう。すると子どもは、「叱られたけれど、お母さんは私を嫌いになったのではない」と安心感を得ることができます。


【ケース1】 息子は4歳になるのですが、危険な行為を叱ってもすぐにケロリとして、同じことを何度も繰り返します。

【アドバイス】なぜ言うことを聞かないのか、その理由をまずは見極めて
基本的に多少のケガや失敗経験は子どもの宝物と考えますが、あまりにも危険な行為は、子どもと顔を合わせて真剣な表情と言葉と迫力をもって、なぜダメなのかを伝えます。それでも聞かない場合にはいくつかのパターンがあります。

まず1つ目は、遊びや楽しいことに夢中になると、言われたことを忘れる場合です。これは成長を待つしかありません。

2つ目は、注意されてもその危険行為をやりたい場合です。どうしても続くようなら、お約束を使います。「あの公園では〜してはダメ。もし守れないようなら、あの公園へはしばらく(今週は)行かないからね」などと子どもと約束し、それを実行します。

3つ目は、お母さんの関心を引いている場合です。あまりにも頻繁だったり、わざとやっているなと感じたりしたら、叱るのをやめて、ちゃんとしている他の子に「〜しないで遊んでるね」と声をかけるようにしてみましょう。ちゃんとしたほうが関心を引けると伝わります。


ケース2】 3歳の長女は、少し叱ると大泣きし、暴れるので、外だと人目が気になり、ダメなことをしてもなかなか叱れません。

【アドバイス】子どもの感情に流されず普通に接することが大事
外出先での大泣き・大暴れには準備が必要です。まずは家で叱ったときに大泣き・大暴れしたら、静かに待つようにしてみましょう。長引く場合は「泣き終わったら、お話ししようね」「ぬいぐるみを抱っこしたら、気持ちが優しくなるかもよ」などと時々伝えますが、ご機嫌をとる必要はありません。

最初は根比べになりますが、子どもの涙や暴れに動かされないのが肝心です。親は不機嫌にならず、圧力もかけずに普通にしています。もし途中でおやつの時間になったら、「おやつ食べる?」と聞いてもいいでしょう。そして落ち着いたら、さっき叱った内容と、その理由を静かに伝えます。

それができたら、外出の前にお約束をしましょう。たとえば、レストランで騒いだらすぐに帰ることや、今日はお菓子は買わないこと、公園でお友だちをぶったら即退場などです。約束が守れたら親子で喜び、守れなかったら泣いても騒いでも帰ります。そのために、すぐ帰れる日常の外出で練習しましょう。


【ケース3】 3歳の息子は、自分の思い通りにならないと、お友だちや家族に対し、よく噛みつきます。厳しく叱るべきか、いつも迷います。

【アドバイス】厳しく叱るより、言葉で伝えさせる練習を
言葉でうまく話せるようになれば、噛みつきは消えていくでしょう。つまり、噛みつきの年齢では、まだ言葉で叱っても通じにくいということです。厳しく叱るよりも「貸して欲しかったんだね」「〜が嫌だったのかな?」などと子どもの思いを代弁したり、「"カシテ"って言ってごらん」「"ぼくもイレテ"って言えばいいんだよ」などと、言葉の使い方を教えましょう。

タイミングは、できれば噛みつきが起こりそうになったそのときに言葉がけできるとベストです。でも、もし噛みついてしまったら、すぐに引き離して、相手の親御さんに謝罪します。そして、子どもに「シャベルが欲しかったね。でも、○○ちゃん、痛い痛いだよ」と話して相手のお子さんに謝るよう促しましょう。

大人は大人同士、子どもは子ども同士で謝ります。お家で、その子の噛みつきの場面に合わせて、カシテやドーゾ、ヤメテ、チョウダイ、などと言葉を使う練習をすると効果的です。


【ケース4】 6歳の娘は、私が注意するといつも「だって......!」と口答えをするので、つい感情的に怒ってしまいます。

【アドバイス】「だって......」の後の話を聞いて、どうすべきか一緒に考えましょう
「なんで〜するの!」という叱り方をしていませんか? 子どもによっては「なんで?」と聞くから答えなくちゃ、と思っていることもあります。そうでなくても口答えができるということは、お話ができるということです。「だって......」の後の話をよく聞いて、次のことを伝えましょう。

まずは、理由があってもやってはいけない行動があること。たとえば、「ぶたれたら、ぶってもいいのかな?」「お友だちがやってるからって、○○もしちゃいけないよね」などです。次に、理由ではなく目的に目を向ける言葉をかけましょう。

「○○ちゃんとケンカしちゃったんだね。○○ちゃんにどうして欲しかったの?」「ピアノの練習したってウソついたのは、その時間に何をしたかったの?」などと問いかけます。

「人形を貸して欲しかった」「テレビが始まる時間だった」などと子どもが答えたなら、「じゃあ、それを叶える、もっといい方法はないかな」と一緒に考えましょう。


【ケース5】 3歳の下の子のほうがわんぱくで、感情的に叱る回数が多く、兄弟で愛情の差を感じたりしないか不安です。

【アドバイス】子どもと性格が似ている人に相談し、冷静に判断を
親子であっても相性があります。親自身と似ている子のことは、たとえイラッとしても、その行動が理解できたり、次の行動が読めたりします。しかし、親の枠を超えて思いがけない行動をする子には、驚きや心配、イライラが募りますね。

実は親のきょうだい位置によっても、子どもの捉え方が変化します。長子の母親にとっては中間子の子が理解しにくかったり、第2子の母親にとっては長子の子が不器用に感じられたり……。どちらにしても、相性の善し悪あ し=愛情の量ではありません。幸せになって欲しいという願いは、どの子に対しても同じはずです。

叱る回数が多い子と、同じきょうだい位置の友人や親族に一度相談してみましょう。すると「その子の気持ち、すごくわかる!」と解説してくれることが少なくありません。また叱るのを一旦やめて、本当に叱るべきことなのか、それとも「生き方の好み」の問題なのか、冷静に考えて、本当に叱るべきことのみを伝えましょう。