降矢ななさんの『クリスマスマーケット〜ちいさなクロのおはなし〜』(福音館書店)が講談社絵本賞を受賞しました。本稿では5月23日に東京都内で開かれた贈呈式での降矢さんのお話をお伝えします。


『クリスマスマーケット ちいさなクロのおはなし』

スロバキア在住の絵本作家、降矢ななさん。受賞作『クリスマスマーケット ちいさなクロのおはなし』(福音館書店)では、12月、街にクリスマスマーケットが立ちならぶ時期に、子犬のクロがたいせつな友だちと出会う、あたたかなお話が描かれています。

子犬のクロのモデルになっているのは、降矢さんが家族で飼っている「ハル」という犬だそうです。

「私自身は実はこれまで猫が好きで、犬を飼うのは初めて。うちに来た子犬を抱いたときに"犬ってなんて固いんだろう!"と驚きました。猫はふにゃんと柔らかいのに、犬はムチムチしていて、掴むと固い。そして、犬の表情があんなに豊かだとは飼うまで知りませんでした。

あんなに目や眉毛が動いて、まるでディズニーアニメじゃないかと思ったぐらいです。そうした驚き、犬の体温の高さ、そして犬と交流していくうちに変わっていく夫と娘、、犬が家に来たことで変わった生活に感じた、幸せな気持ちを作品に込めたいと思って『クリスマスマーケット』に犬を登場させることになりました」


長引く戦災のなかでの絵本作家としての葛藤

作品の舞台はスロバキアのクリスマスマーケット。ウクライナの隣に位置するスロバキアでは戦争の影響もあり、その中で絵本を出版したことに葛藤もあったといいます。

「私は30年ほどスロバキアに住んでいます。スロバキアは小さい国なので、日本から欧州へのツアーだと、プラハ ブダペスト、ウィーンはあるのに、ブラチスラバは旅行先から外れてしまいます。

スロバキアはすごく小さい国なので仕方がないなと思いつつ、でもやっぱりスロバキアの人々のメンタリティや、スロバキアで出会った面白いことを、日本の皆さんに紹介できたらいいなと思っていました。『クリスマスマーケット』はそんな思いが積み重なってできた一冊です。

毎朝、夫と一緒に野山に犬の散歩に行きます。四季の変化がとても美しく、例えば秋になると、白樺の葉が色づいて黄色くなり、散っていきます。木の枝に風に吹かれた葉がくるくると揺れます。葉は表と裏の色が違うので、くるくる動いていると、すごく美しいんです。


その様子を見ると、いつも私はロシアのユーリ・ノルシュテインさんが作った短編映画の中に出てくる白樺の葉がくるくる動くアニメーションを思い出します。多分、葉っぱ1枚1枚をひっくり返したり、動かしながら作ったアニメーションで、それと同じように葉が動いているなと感動して見ています。


そしてやっぱり思うのは、「ノルシュテインさんは今どうしてるんだろう?」ということです。スロバキアは、ウクライナのお隣の国で戦争の影響も受けています。この前はスロバキアの大統領の暗殺未遂も起きました。さらに『クリスマスマーケット』の絵本が出た2日後に、イスラエルによるガザの侵攻が始まりました。

どうしても本を作りながら、こんなことをしていていいのだろうかと思いました。ガザの侵攻は出版されて2日後だったので、本ができて嬉しいと思いつつ、世界ではどんどん子供たちが死んでいく。私は絵本で、クリスマスマーケットが嬉しい!なんて言っていていいんだろうかと本当に悩みました。

けれども、戦争が起きたときに、日常を大事にして、幸せな気持ちを感じられるのなら感じて、その大事なものを失わないように生きていかなければいけないんじゃないかと思いました。読者の方には『クリスマスマーケット』の絵本で、スロバキアのマーケットの楽しい幸せな雰囲気を感じ、自分の日常がすごく大事なものなんだと感じて貰えたら嬉しいなと思います」