永瀬廉主演、江國香織の同名恋愛小説を日本で初めて連続ドラマ化した『東京タワー』。

ドラマの撮影開始からしばらく経った某日、麻布台ヒルズ展望フロアで行われていた撮影現場を江國が訪問した。

撮影の様子を見学した後、東京タワーをバックに小島透役の永瀬、浅野詩史役の板谷とのスペシャル鼎談が行われた。

◆原作者・江國香織が透&詩史と“初対面”

2001年に初めて刊行された『東京タワー』。江國は20数年が経った今、連続ドラマとして映像化されることを聞いた際には「びっくりした」という。

「今って倫理的なことなども厳しい世の中ですし、若い方々が恋愛にあまり興味のない時代だと聞いていたので、どうして今?」と不思議だったことを明かした。

小説刊行当時にリアルタイムで読んでいたという板谷は「人と人が惹かれ合う恋愛の根っこの部分って年齢を重ねたからこそわかることもある。最初に読んだときと感覚が違うな、って思った」と原作の色褪せなさを語りつつ、「まさか自分が『東京タワー』で詩史を演じることになるなんて思ってもいませんでした」と感激した様子だった。

永瀬からは「登場人物のモデルになった人はいるんですか?」と質問が。すると江國は「私の小説の人物はどれもモデルがいなくて…。だから今日撮影現場を見せていただいて、初めて実物に会えたような気持ちがしています」と話し、「本当にお2人が美しかったので、ますます楽しみになりました」と笑顔を見せた。

◆印象的なセリフで大盛り上がり!

また3人は、『東京タワー』の中での印象的、あるいは好きなセリフについてもトーク。

「透の真っすぐさ、ピュアさが表れていて、どんどん詩史さんへの思いが高まっていくのが感じられる」と永瀬が選んだのは、「詩史さんはいつだって一瞬にして僕を幸福にするんだ」というセリフ。

一方の板谷は「人と人は空気で惹かれ合う」というセリフを選び、どちらの理由にも、江國は感慨深そうに大きく頷いていた。

そんななか、永瀬がもうしばらく物語が進んだところで出てくる詩史のセリフを挙げ、「すごく透の心をえぐられる」と表現すると、江國も「切ないですよね…」と同意。

「詩史さんは…本当にひどいです(笑)」と思わず原作者である江國に訴え、江國も板谷も「たしかにひどい!(笑)」と爆笑に包まれる一場面も見られた。

永瀬演じる透、そして松田元太演じる大原耕二の成長と自立も大きなテーマとして描かれる今作。

「小説では男性2人のほうはちょっと野放しにしていた感じがあったので、今回はそちらにフォーカスされていて、新鮮でした。すごくおもしろいと思ったので、もしもドラマを見て小説を読んでくださる方がいたら、合わせ鏡のように楽しんでいただけるのではないかと思います」と江國ならではの視点での見どころも語った。

◆江國香織氏×永瀬廉×板谷由夏 鼎談コメント(全文)

――今、この時代に『東京タワー』を連続ドラマ化すると聞いて、どう感じられましたか?

江國香織:「すごくびっくりしました。(『東京タワー』を)書いたのがすごく前だということだけでなく、今って倫理的なことなども厳しい世の中ですし、若い方々が恋愛にあまり興味のない時代だと聞いていたので、どうして今これをドラマ化するんだろう、と不思議な気がしました」

永瀬廉:「許されない恋、っていうのがやはり大きな軸になってくる物語なのですが、“湿度”をそこまで感じない、だからこそすごく読みやすかったです。紡がれている言葉もすごく綺麗で、読んでいて情景が頭に浮かんで、ストーリーがスッと入ってくるんですよね」

板谷由夏:「私はまさに20代のときにリアルタイムで読んでいたので、まさか自分が『東京タワー』で詩史を演じることになるなんて思ってもいませんでした。読み返してみてあらためて思うのは、人と人が惹かれ合う恋愛の根っこの部分って年齢を重ねたからこそわかることもあるということ。最初に読んだときと感覚が違うな、って思ったんですよね。あ、年齢を重ねるのも悪くないな、って。

当時20代の頃はきっと詩史に当てはめては読めなくて、どちらかというと透くんに自分を置き換えていた気がするけど、今となっては大人が持つ切なさや焦りや、そういった感情を当事者として感じることができるので、あぁ小説って時代とか時期によって全然違うものなんだなって思いましたね」

永瀬:「透や詩史といった登場人物のモデルになった人っていうのはいるんですか?」

江國:「いないんです。私の小説の人物はどれもモデルがいなくて…。だから今日撮影現場を見させていただいて、初めて実物に会えたような気持ちがしています(笑)」

板谷:「大丈夫でしたか? 私たち…」

江國:「はい、もう…美しかったです。小説って、言葉には肉体がないですから、ある意味なんでも自由に書けますし、読む人も自由にイメージできますけど、生身の肉体を持った役者さんたちが“演じる”というのはすごく大変だろうな、って思いました。でも本当にお2人が美しかったので、ますます楽しみになりました」

板谷:「江國さんは東京タワーお好きなんですか?」

江國:「好きだって思ったことはあまりなかったかな…。私が生まれるよりも前からあって、好きとか嫌いとか考えたこともなかった。でも30歳を過ぎた頃くらいから、タクシーに乗っているときなんかに東京タワーが見えると“あ、東京タワーだ”って言っちゃう自分がいることに気がついて、もしかして好きなのかな、って気がついたんですよ」

板谷:「どうして詩史には“(東京タワーは)苦手よ”って言わせたんですか?」

江國:「どうしてだったんだろう…(笑)。はっきりは覚えてないけど、“東京タワーが好き”って言うのってなんだかカッコ悪いような気がしてたんじゃないかな…。でもそれは好きの裏返しかも。

東京タワーって、ずっと同じ場所に立っているけど、寂しく見えたり、悲しそうに見えたり、ハッピーに見えたり、本当に見る側の心情によって見え方が違うんだろうなって思うんです」

――「(東京タワーが)苦手よ」という詩史さんのセリフ然り、永瀬さんと板谷さんにとって印象的なセリフはありますか?

永瀬:「『詩史さんはいつだって一瞬にして僕を幸福にするんだ』――透の真っすぐさ、ピュアさが表れていて、どんどん詩史さんへの思いが高まっていくのが感じられて好きです」

板谷:「私は『人と人は空気で惹かれ合う』というのがすごく好きです。なんとなく恋愛したり、恋したりすると、その感覚はわかるけど、ちゃんと文章になってみると、あらためて、はっ!としました。そうか、“雰囲気”じゃなくて“空気”か、と」

江國:「それ、うれしいです」

永瀬:「あと、もう少し話が進んだところで透が詩史さんに言われる言葉もあるんですけど、それは決してイヤな言葉ではないはずなのに、透にしてみたらすごく心をえぐられるというか…。だから読んでいて印象に残っています」

江國:「切ないですよね…(笑)」

永瀬:「そう、詩史さんは…本当にひどいです(笑)」

江國:「たしかにひどい!(笑)」

板谷:「(笑)」

永瀬:「このドラマでは透目線で話が進んでいくので、見ている方々にも透の立場から物事が見えていると思うんです。詩史さんが本当のところ何を考えているのか深くはわからないというなかで、こんなこと言うんや、こんな態度するんや、と透がかき乱される感じがすごいんです!」

江國:「私も書きながら、ひどいなと思ってましたよ(笑)。でも一方で、女性2人(詩史、喜美子)はやっぱり切ないでしょう? 大人としての葛藤や相手への思い…今回の脚本を読ませていただいて、そういう部分も強く描かれているな、って思いました」

――今回のドラマではそういった青年たちの自立や成長といった部分もテーマになっていて、そこも江國さんの原作とは1つ違った部分かと思いますが、そのあたりはいかがですか?

江國:「すごく新鮮だと思いました。小説を書いたときには、どちらかというと女性2人のどうしようもなさ、切なさをメインに描いていて、男性2人のほうはちょっと野放しにしていた感じがあったので、今回はそちらにフォーカスされていて、新鮮でした。

すごくおもしろいと思ったので、もしもドラマを見て小説を読んでくださる方がいたら、合わせ鏡のように楽しんでいただけるのではないかと思います」

永瀬:「透だけではなく、耕二も物語が進むにつれて成長していく気がします。透にとっても耕二の存在は大きく、真逆の描かれ方をしていく2人ですけど、同じことで悩んだり、悲しんだりしながら、より絆が深まっていくような気がしています」

江國:「透と詩史、耕二と喜美子がどんな物語を描き出してくれるのか、とても楽しみですし、今日撮影の様子を見せていただいて、ますます楽しみになりました!」