Tim Reid Nathan Layne
[グリーンベイ(米ウィスコンシン州) 20日 ロイター] - 選挙遊説中のドナルド・トランプ前米大統領の登場を待つウィスコンシン州グリーンベイのステージ。トランプ氏の返り咲きを待望する熱烈な支持者の中には、凍えるような寒さのもと、車中で一晩を過ごす人もいた。
リー・グリーンウッドが歌う「ゴッド・ブレス・ザ・USA」がコンベンションセンター内のスピーカーから流れるのに合わせて、共和党大統領候補に名乗りを上げたトランプ氏は、手を振り、身体を揺らし、拍手と投げキスを繰り返す。
3200人の群衆が「トランプ」コールを繰り返す。若い夫婦が赤ん坊を高く抱え上げる。涙ぐむ人もちらほら見える。
トランプ氏の選挙運動の何よりの特徴は、こうした支持者による集会だ。キリスト教福音主義派の信仰復興論者による集会とカーニバルを混ぜ合わせたような1日がかりのイベントであり、既存の支持基盤に感動的な体験を与えるとともに、新たな支持者の取り込みを目指していると陣営は説明する。
大統領選挙はトランプ氏にとっては3回目。11月5日の本選では、民主党の現職ジョー・バイデン大統領と再び顔を合わせる。細心の注意を払って計画された長時間イベントが、ホワイトハウスへの返り咲きを目指すトランプ氏の選挙運動の柱として復活している。
トランプ陣営の運営副責任者であるジャスティン・カポレール氏によれば、テレビのリアリティー番組で売れっ子になったトランプ氏は、フロリダ州の邸宅「マールアラーゴ」でオフを過ごすときに愛聴している個人的なプレイリストから選んだ音楽など、集会の「見た目の印象と雰囲気」には細かく口を出しているという。
カポレール氏は「実質的に、1週間のうちに複数のロックコンサートをプロデュースするようなものだ。それが月に何度も繰り返される」と語る。
トランプ氏は2024年に入ってから、 大統領選の共和党候補指名を争う中で行ったアイオワ州、ニューハンプシャー州での11回を含め、これまでに21回の集会を実施した。大統領候補たちの公開行事への出席を調査する無党派団体「エレクション・セントラル」が明らかにした。
ロイターの分析では、現職大統領だった2020年4月半ばの時点では13回にとどまっていた。
再選を目指すバイデン氏の選挙運動は、大規模な集会をほぼ省略し、教会や労組の施設といった会場での有権者との小規模な対話を優先している。
今回の選挙戦では、トランプ陣営は刑事訴訟・民事訴訟に伴う出廷予定と集会スケジュールを調整しなければならない。同氏はこの1週間、不倫口止め料を巡る刑事訴訟の開始にあたってニューヨーク州の裁判所に足を運び、その後、20日に行われる集会のために激戦州であるノースカロライナ州に向かった。
ロイターは4月2日にグリーンベイで行われたトランプ氏の集会に立ち会い、50人弱の参加者にインタビューを行った。誰もがトランプ氏の集会に参加するのが好きだと声をそろえる。仲間意識が感じられ、ポリティカルコレクトネス(政治的正しさ)を気にする必要がないから、という理由だ。トランプ氏が好きで、集会が楽しいから来た、と言う。
またロイターでは、カポレール氏を含め2人の陣営関係者にも取材した。カポレール氏は選挙戦略と集会の演出について、支持基盤を盛り上げ、支持者をトランプ氏とそのポピュリズム的なメッセージにつなぎ留めるべく帰属意識を浸透させるような体験を生み出すものであり、それによって2期目への推進力となることを目指している、と説明する。
「こういう支持者が私たちにとっての運動員だ。彼らは私たちと同じく、次の4年間、大統領はトランプ氏であってほしいと願っている」と語るのは、トランプ陣営のブライアン・ヒューズ上級顧問だ。
<聴衆はどんな人々か>
シャロン・アンダーソンさん(68)は、テネシー州の自宅から車で5時間かけてインディアナ州に入り、トランプ支持者仲間のマイク・ボートマンさん(56)と合流した。2人はさらに8時間かけてウィスコンシン州に向かった。
夜はコンベンションセンターの外に停めたレンタカーの車内で眠る。集会で一番前の列を確保するためだ。
アンダーソンさん、ボートマンさんは、「フロント・ロー・ジョー(最前列のジョー)」と名乗る自称50人ほどのグループのメンバーだ。トランプ陣営の集会ではいつも、交代で列の先頭に並んでいるという。
集会参加は、ボートマンさんが85回目、アンダーソンさんが51回目だった。2020年3月にノースカロライナ州で行われた集会では、トランプ氏の息子エリック氏がアンダーソンさんをステージに引っ張り上げ、2万人の観衆の前で、トランプ大統領(当時)がなぜ好きかを訴えることができた。
引退前は高校の事務員として出席管理を担当していたアンダーソンさんは、グリーンベイでの集会を前に、「家族みたいな付き合いだ」と話した。「全国各地に新しい友人ができる。トランプ氏の集会では、いつも未来への希望に満たされて会場を離れる」
開場を待つ支持者の中で、トランプ氏の大ファンだというデュエイン・シュウィンゲルさん(65)は、「アンクル・サム」のコスプレで大型ラジカセを担ぎ、マイクを手にして、トランプ氏を称賛し社会主義者を非難する曲を歌う。
ウィスコンシン州に住むビッキ・ルー・ヘイングラーフさん(62)は、初めて集会に参加した。トランプ氏が大統領としてホワイトハウスの芝生を歩く姿を見たときに抱く感情がよみがえることを期待していると話す。「トランプ氏は真実の騎士だ」とヘイングラーフさん。「万有引力のような、絶対的な真実を授けられている」
<集会活用の戦略>
トランプ陣営は集会を活用して、参加者のデータを収集、分析し、実際の得票に結びつけたいと考えている。参加者はメールアドレス、携帯電話の番号、郵便番号、居住する州を登録し、引き替えに集会の入場チケットとなるテキストメッセージを受け取る。
集会が終わると、参加者にはトランプ氏からの寄付の依頼を含めた大量のテキストメッセージが送られてくる。
さらにヒューズ氏によれば、集会には、コストをかけずに地元メディアや全国メディアに報道してもらう、ボランティアを集める、地元政治家や指導者にトランプ氏のメッセージを繰り返してもらうといった狙いがあるという。
<演出>
グリーンベイでの集会は何週間もかけて準備された。
トランプ陣営の先乗りチームは、コンベンションセンターの安全を確保するため、シークレットサービスや地元警察当局との調整を進めた。
先乗りのスタッフは何日もかけて、支持者のための駐車スペースの確保、キッチンカー、トイレ、飲料水、グッズ、エンターテイメントの準備に当たった。
地元の業者やボランティアが、巨大なスクリーンや赤いじゅうたん、米国旗でステージを飾り立てた。
ぞろぞろと入場する支持者に、陣営ボランティアが「米国を再び偉大に(Make America Great Again)」「バイデンはクビだ(Fire Biden)」と書かれたプラカードを手渡す。
トランプ氏が選曲した音楽がスピーカーから流れる。エルビス・プレスリー「サスピシャス・マインド」、ジェリー・リー・ルイス「火の玉ロック」、ザ・フー「ピンボールの魔術師」、さらにはビレッジ・ピープル「YMCA」、ミュージカル「オペラ座の怪人」の「ザ・ミュージック・オブ・ザ・ナイト」も聞こえてくる。
カポレール氏は、トランプ陣営が「来場者が味わう素晴らしい他に類を見ない体験」の修正や改善におおいに努力していると話した。
集会が終わるたびにトランプ陣営のチームは事後検証を行い、何が成功したか、次のイベントに向けて改善すべき点はないか話し合うという。
今年は大胆な新趣向もいくつかあった。
3月16日、トランプ氏の乗ったプライベートジェットのボーイング757型機がオハイオ州デイトン国際空港に着陸するタイミングに合わせて、「トランプ・フォース・ワン、着陸を許可する」というアナウンスが流れた。
映画「トップガン」のテーマ曲が流れ、会場はおおいに盛り上がった。
ステージ演出は観衆を楽しませることを意図したものだが、この国は「地獄」に向かいつつあり、トランプ氏が支持者とともにその流れを変えなければならない、という同氏のメッセージを強調する狙いもある。
グリーンベイの舞台にトランプ氏が登場する約2時間前、スピーチのために登壇した面々が聴衆を刺激し始めた。
寝具販売会社マイピローのマイク・リンデル最高経営責任者(CEO)は、2020年の選挙がトランプ氏から「盗まれた」とする根拠のない陰謀論を繰り返した。
ウィスコンシン州のトム・ティファニー州議会議員は、バイデン大統領が不法移民に「VIP待遇」を与えていると述べ、「皆さんはこの米国で2級市民扱いを受けているのではないか」と語った。
イベントでは宗教色も感じられる。ウィスコンシン州デピアのクロスポイント教会から来たケイシー・キャリー牧師は、開会の祈りを捧げる中で、「ドナルド・トランプ大統領に神のご加護がありますように」と語った。
観衆は「アーメン」と応じた。
<本人の演説は>
トランプ氏は演説の冒頭で、2020年にウィスコンシン州で勝ったのはバイデン氏ではなく自分であると示唆し、演説の中で自分は2020年大統領選挙を「盗まれた」とする虚偽の主張を繰り返した。
トランプ氏の演説が、米国の悲しむべき状態とトランプ氏に敵対する「闇の力」への憤激を呼び起こす中で、それは徐々に、牧師と信徒たちの間の宗教的な「コール・アンド・レスポンス」に似たものへと変貌していった。
トランプ氏は、ベネズエラやコンゴ、ソマリア、そしてシリアといった国々からの不法移民を口を極めて非難する。
すると観衆は、「壁を作れ!」と叫ぶ。
トランプ氏は、「米国史上最大規模の国外追放」の実施を約束する。
観衆は歓呼で応える。
トランプ氏が駆使するレトリックについての著書があるテキサスA&M大学のジェニファー・マーシーカ教授は、こうしたやり取りは、互いに対する忠誠と保護の誓いを示していると指摘。トランプ氏が支持者のために汗を流す以上は支持者もトランプ氏のために汗を流し、トランプ氏が支持者を裏切らないのだから支持者もトランプ氏を裏切らない、というわけだ。
「これは(つながりを再確認するという意味で)強力な組み合わせだ」とマーシーカ教授は言う。
グリーンベイ集会での演説は約1時間にわたった。通常より短めだったのは、トランプ氏が雪に閉じ込められずに航空機で移動する必要があったからだ。
トランプ氏は、過去の集会で使っていたもっと過激な言葉づかいを一部にせよ自重した。
時には楽しげな話もするが、演説の大半はディストピア的な表現に彩られており、トランプ氏は善と悪の対決に巻き込まれた米国、という構図を描き出す。
演説の終盤、トランプ氏は「2024年は私たちの最後の戦いだ」と述べた。「皆さんが味方をしてくれれば、『ディープステート』を解体し、戦争屋を追放し、グローバリストをたたき出し、共産主義者、マルクス主義者、ファシストを放り出し、私たちの国を憎んでいる腐った政治屋を投げ捨てる」
そして、最近になってトランプ氏の集会におけるプレイリストに加えられた、サム&デイブによるリズム&ブルースの名曲とともにステージを後にした。
曲のタイトルは「ホールド・オン、アイム・カミング(待っていて、今から行くから)」である。
(翻訳:エァクレーレン)
焦点:トランプ氏政治集会の舞台裏、聴衆はなぜ熱狂するか
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