プロ野球の開幕2カード目が2日に行われ、西武が2−1でパ・リーグ3連覇中のオリックスに競り勝ち、本拠地ベルーナドームでの今シーズン初戦を白星で飾った。ソフトバンクにFA移籍した山川穂高内野手(32)の人的補償で加入したセットアッパーの甲斐野央(27)が、8回を無失点に封じて2ホールド目をマーク。最終回を締めた守護神アルバート・アブレイユ(28)に繋ぐ「新・勝利の方程式」を確立した西武が、昨シーズン8勝17敗と大きく負け越したオリックスに先勝した。

 

 背番号「34」が本拠地初登場

 ベルーナドームに聞き慣れない選手登場曲が響く。
西武への移籍とともに新たな登場曲にすえた、平井大の「はじまりの歌」が流れるなかで甲斐野が8回のマウンドへ向かう。ブルペンを出たときから降り注いでいた大歓声がさらにボリュームを増し、27歳の新セットアッパーを武者震いさせた。
「すごいプレッシャーだったけど、すごく楽しかったです」
1点差で臨んだ本拠地初登板で、言葉通りにプレッシャーを力に変えた。
先頭の6番・宗佑磨(27)に対してストライクを先行させながらも力んでしまったのか、ボールが3つ続いた後の5球目。キャンプから習得に励んできた151kmのツーシームを外角に投げ込んで平凡な左飛に仕留めると、続く紅林弘太郎(22)をカウント0−1から外角低目の136kmのフォークで引っかけさせて遊ゴロに打ち取った。
しかし、8番・西野真弘(33)をカウント0−2と追い込みながら、4連続ボールで歩かせてしまう。右打席には代打からそのまま9番に入っていた元本塁打王の杉本裕太郎(32)が立つ。0−1から投じた真ん中低目の153kmのツーシームを真芯でとらえられたが、快音を残した痛烈なライナーを名手・源田壮亮(31)がバウンドする直前でキャッチした。
無失点で2ホールド目をマークした甲斐野が笑顔で計16球を振り返った。
「源田さんをはじめとして、守備陣も本当に心強い選手ばかりなので。最後のあの打球が飛んだ瞬間も、確実に取ってくれるだろうと信じて見ていました」
敵地で迎えた楽天との今シーズン開幕戦。1−0で逃げ切った初戦、8−2で快勝した2戦目でともに8回のマウンドを託された甲斐野は、無失点で連勝に貢献していた。迎えた本拠地開幕戦。すべて内野安打で作った2回無死満塁のチャンスで、8番・古賀悠斗(24)の二塁ゴロ、9番・源田のセンターへの犠牲フライで西武が2点を先制した。
先発の平良海馬(24)が踏ん張るなかで、甲斐野は8回へ神経を集中させた。
「平良の調子もいいですし、中継ぎ陣もすごい投手ばかりなのでこのままロースコアの展開でいくだろう、と。覚悟というか頭のなかに入れながらしっかり準備しました」
120球の力投を続けていた平良は6回二死一、二塁で代打に杉本を送られたピンチで交代した。しかし、2番手・水上由伸(25)がカウント0−1から絶妙のけん制球を二塁へ。あうんの呼吸で入ったセカンド外崎修汰(31)がセデーニョ(25)をアウトにした。

 7回を託された3番手の本田圭佑(30)は杉本以下に3連打を浴びて1点を返されるが、さらに無死一、二塁でクリーンナップを迎えた大ピンチで魂の力投を見せる。
昨シーズンの首位打者・頓宮裕真(27)を初球で遊飛に、元西武の森友哉(28)を2球目で左飛に打ち取る。続くセデーニョは2−2から投じた7球目でバットに空を切らせた。3人に投じたウイニングショットは、すべて本田が絶対の自信を寄せるチェンジアップ。雄叫びをあげながらマウンドから降りてきた本田の姿に、甲斐野も感銘を受けた。
「あのピンチを1点で抑えたときに『よっしゃ、任せろ』という感情よりも『うわっ、本田さん、本当にすげえ』と。相手の流れを断ち切っただけでなく、ウチにも続くような流れだったので『僕もその波に乗りたい』という思いになっていました」
松井稼頭央監督(48)が就任した昨シーズンの西武は、リーグ3連覇を達成したオリックスに22.5ゲーム差の5位に甘んじた。直接対決では8勝17敗と大きく負け越した。
最終的には嫌疑不十分で不起訴になったものの、強制性交などの容疑で5月に東京地検へ書類送検された山川をシーズン終了まで欠いた打線は、計90本とリーグで唯一の2桁本塁打に終わっただけでなく、総得点でも435と最下位にあえいだ。
対照的にチーム防御率2.93と、オリックスに次ぐ2位につけた投手陣は踏ん張った。しかし、平良が先発に転向したセットアッパーの穴を埋めたとは言い難く、守護神・増田達至(35)も19セーブをあげながら防御率は5.45とやや精彩を欠いた。
ブルペン陣の再編成が急務だった西武にとって、ソフトバンクにFA移籍した山川の人的補償で加入した甲斐野は期待の星だった。甲斐野もそれをわかっていた。自ら選んだ背番号「34」は、セットアッパーを務め上げる上での語呂合わせだったと明かしている。
「ふざけたことを言うかもしれませんが、三振(3・4)という意味もあるのかな、と。僕自身、三振を奪うピッチングへのこだわりもあるので」
カウント0−2からボールを4球続けて西野を歩かせた場面では、守護神のアブレイユへ三振で締めてバトンを託そうと、ツーシームとフォークをすべて低目に集めたところを見逃された。リードした恋女房の古賀が「ちょっと低目にいきすぎた」と苦笑しながら、新たな勝利の方程式を担う甲斐野とアブレイユの姿勢を称賛する。
「自信を持って勢いよく投げ込んでくるので、僕も思い切ってサインを出せる」

 開幕戦に続く2セーブ目をあげたドミニカ共和国出身の右腕で、昨シーズンはヤンキースで45試合に登板したアブレイユは最速155kmのストレートを中心に、1番・福田周平(31)から始まったオリックスの最後の攻撃を力でねじ伏せた。
試合後には甲斐野を中心とする、ブルペン陣の明るさに感謝している。
「ブルペンからマウンドへ行くときは、みんなが『agresivo、agresivo』と声をかけてくれる。ロッカールームでもグラウンド内でも、初めて日本に来た僕をみんなが助けてくれる。みんなが助け合う、素晴らしい雰囲気が生まれている」
アブレイユが言う『agresivo』とは、スペイン語で「アグレッシブ」を意味する。昨シーズンまでにはなかった、と言っていい雰囲気が開幕直後ですでに生まれている背景は、自身の性格を「ソフトバンクではおふざけキャラというか、明るいムードメーカーとみんなから言われていました」と打ち明ける甲斐野を抜きには語れない。
本拠地開幕戦には2万7252人の観客が詰めかけ、試合中には「完売御礼」の文字がビジョンに映し出された。あまりに大きく、それでいて反響する大歓声に驚いたのか。ブルペン待機中に「これ、やばくないですか」と周囲へ思わず尋ねてしまったと苦笑した甲斐野は、勝って兜の緒を締めよ、とばかりにこんな言葉も残している。
「ホッとしていますし、また明日すぐあるので、そこはもう切り替えてやっていきたい。ただ、四球もそうですけど、先頭の宗に対しても初球でストライクを取った後に3ボールになっているので、そこも今後改善していかなきゃいけないですね」
今日3日はドラフト1位左腕、武内夏暉(22、国学院大)が予告先発する。昨シーズンに9勝をあげたオリックスの最速160km右腕、山下舜平大(21)と投げ合う期待の大型ルーキーを、3戦無失点の甲斐野を軸とする「新・勝利の方程式」が後方支援する。
(文責・藤江直人/スポーツライター)