全米が注目しているプロボクシングのWBC世界スーパーライト級タイトルマッチの前日計量が20日(日本時間21日)、ニューヨークで行われ、挑戦者のライアン・ガルシア(25、米国)がビール瓶に入った液体をラッパ飲みしながら計量器に乗り、リミットの140ポンド(63.50キロ)を3.2ポンド(約1.45キロ)も超過するという暴挙を犯した。王者のデビン・ヘイニー(26、米国)はリミットでクリアしたが、計量後には両陣営がステージ上で乱闘寸前になるなど大混乱に陥った。試合はガルシアが150万ドル(2億3000万円)の違約金を払うことで、当日計量などの条件もなく実施されることになったが、ガルシアは「3ポンド有利になった」と意図的な体重超過であったことを示唆した。勝利してもベルトの獲得はならず空位となりヘイニーが勝てばタイトルの防衛となる。

 「減量で弱くなるのはごめんだ。3ポンド有利になった」

 こんな計量風景は見たことがない。
先に計量ステージに登場したガルシアは、ビールと思わしき瓶(のちにりんごサイダーだと本人は主張)を手に持っていた。上半身裸になって、計量器に乗ると、それをラッパ飲みし、マッスルポーズをとって吠えた。だが、計量をクリアしたわけではない。なんとリミットの63.50キロよりも1.45キロもオーバーしていた。午前中に行われていた非公開の公式計量で、大幅な体重超過が判明しており、ガルシアは再計量を拒否。もう開き直っていた様子での儀式的な計量となったが、会場につめかけたファンからは大ブーイングが飛び交った。
続いて計量器に乗った王者のヘイニーはリミットでクリア。その後、フェイスオフが行われたが、完全に目がいっていたガルシアは、ガードを高く上げた異様なファイティングポーズをとって、今にもつかみかかりそうな勢いで、わめき散らしヘイニーも応戦した。大混乱に陥ったのは、その後。ウエイトをオーバーしたガルシアを罵ったヘイニーの父親のビル氏とガルシア陣営がとっくみあいの乱闘になりかけた。プロモーターの“レジェンド”オスカー・デラホーヤ氏が間に入ってもなかなか収まらない。
騒然とする中で王者のヘイニーがインタビューに答えた。
「とても奴はプロとは思えない。私は真のプロフェッショナルだ。昨日(の会見で)『彼のふざけた態度は、奴を裏切るだろう』と言ったがこれが始まり。明日にはすべてがわかる。世界がオレが奴より上のレベルにあることを知るだろう。こいつはもう終わりだ。ボクシング界から追放する。相手は、捨て身でくるだろうけど、それを利用して倒してやるぜ」
続いてなんら悪びれた様子もないガルシアも放送禁止用語を連発してほえる。
「オレがあいつをノックアウトすれば、またみんなオレを応援するんだ」
ガルシアは「体重を作るだめに最善を尽くした。地獄を見たんだ」とも話したが、1050万人のインスタのフォロワーを持ちインフルエンサーとして知られる男は、計量後にXに続けざまにこう投稿した。
「150万ドル(2億3000万円)なんてどうってこともない。金なんてやるよ。これは喧嘩だ」
「減量で弱くなるのはごめんだ。オレは勝ちに来た。気分は最高、3ポンド有利になった。勝者はやるべきことをやるんだよ。チャンピオンベルトじゃ家族を食わせられないから。これは戦争だ。殺るか、殺られるか。とんでもないイベントになるぞ」
まさにやりたい放題、言いたい放題。

 元2階級制覇王者のポール・マリナッジが「ファンもボクシング界も、こんな演じられ方に失望している。スポーツと自分自身のあり方に対して失礼なことだ」と苦言を呈し、米専門メディアの「ボクシングシーン」が、「ルールや基準を軽視することで、彼はスポーツ界史上最悪の詐欺師の1人になるための大きな一歩を踏み出した」と伝えるなど、メディア、元ボクサーからの非難が巻き起こりSNSでは大バッシングとなった。
ガルシアは以前から目に余る奇行が問題視されていた。
SNSでは陰謀論や地球外生命体の存在の証拠があるなどと投稿。ヘイニーを挑発するための演技説や、低調のチケットやPPVの売り上げを煽るためのプロモーションだという説もあったが、あまりにも情緒が不安定で、ニューヨーク州のアスレチックコミッションはメンタルヘルスの問題についての診察を要請したほど。なんとか試合にこぎつけたが、前日計量で暴挙が起きた。
2人はアマ時代に6度対戦して3勝3敗と五分の数字が残っている因縁の相手だ。
ヘイニーは2019年9月にWBC世界ライト級王者となり、2022年6月にジョージ・カンボソス(豪州)との4団体統一戦を制して再戦にも勝ち、昨年5月にはワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)の挑戦も退けた。減量が苦しかったため、階級を上げて昨年12月にWBC世界スーパーライト級王者のレジス・プログレイス(米国)に判定勝利し、今回は、その初防衛戦。
一方のガルシアは2021年1月にWBC世界ライト級暫定王座決定戦でルーク・キャンベル(英国)にKO勝利。昨年4月にWBA世界スーパーライト級王者のガーボンタ・デービス(米国)とキャッチウエイトで、全米が注目のビッグマッチを行い、序盤からペースを握っていたが、7回にボディショットで倒されKO負け。その後、再起戦で勝利して、今回のヘイニー戦を迎えた。
ガルシアのプロモーターであるゴールデンプロモーションのデラ・ホーヤ氏も、ガルシアの傍若無人な振る舞いに「オレは奴のベビーシッターじゃない」と戸惑いながらも「負けても接戦ならビッグマッチが続く可能性がある。勝てば奴はオレに3か月は顔を合わさないかもな。だがパンチを持っているボクサー。3、4ラウンドに一発入れば、どうなるかわからないぞ」と期待を寄せている。注目のゴングは、日本時間の21日、12時30分過ぎに予定されている。