プロボクシングのスーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(31、大橋)への“挑戦状”が次から次へと舞い込む中、元IBF同級王者テレンス・ジョン・ドヘニー(37、アイルランド)が9月に予定されている次戦の相手に立候補した。アイルランドのボクシング情報を発信しているWEBサイト「アイリッシュ・ボクシング」に語ったもの。次戦はIBF&WBO同級1位のサム・グッドマン(25、豪州)が最有力候補だが、ドヘニーは「次はオレだ」と主張した。ドヘニーは5月6日の東京ドーム大会の第1試合にルイス・ネリ(29、メキシコ)が計量で体重超過した場合のリザーブ選手として登場しTKO勝利している。

 6年前に岩佐亮佑から世界ベルトを奪取した強打者

 モンスターが東京ドームでネリを沈めたビッグマッチは、それほど大きな衝撃だったのだろう。もはや階級など関係なく次から次へと対戦ラブコールを送られ続けている井上尚弥に9月に予定されている次戦の対戦を主張するボクサーが現れた。東京ドーム大会のオープニングマッチにネリが体重超過した場合のリザーブ選手として登場、ブリル・バヨゴス(フィリピン)を4回TKOに沈めた元IBF世界スーパーバンタム級王者のドヘニーだ。
アイルランドのボクシング情報を発信し、ボクシングのWEBサイトとして世界最古のひとつであることを自負する「アイリッシュ・ボクシング」のインタビューに答え「(井上の次戦相手交渉は)今は混戦状態だ。木曜日にパースでボブ・アラムが行った最新の声明によれば、9月の対戦候補はオレが最有力で、その後にグッドマンが登場する可能性が高い」と主張した。
ドヘニーが「次はオレだ」と強調する拠り所になっているのは、12日にIBF世界ライト級王座をTKOで奪ったワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)のビッグマッチのため、豪州パースを訪れていたトップランク社のボブ・アラムCEOが現地でFOXスポーツ豪州の取材に対して語ったコメントだ。井上陣営の共同プロモーターであるアラムCEOは「グッドマンが井上と戦うのは9月か12月かわからない。グッドマンもアイルランド人も素晴らしい対戦相手だ」と明かしたのである。
実際、グッドマン陣営が7月に豪州で次戦を予定しているとの情報もあるのだが、グッドマンは、井上がネリをまるで映画のような劇的な展開で倒した直後のリング上に登場。
井上が「次戦、9月頃、隣にいるサム・グッドマンと防衛戦をこれから交渉していきたいと思う」と呼びかけると、グッドマンが「自分もベルトが欲しくてここまで戦ってきた。絶対にやりましょう」と応じるという事実上の次戦の“発表儀式”があった。
グッドマンは「ここで見るべきものを十分に目にした。井上が素晴らしいボクサーであることはわかったが、いくつかのミスをしたし弱点も見せた。井上に勝つ方法はわかっている。間違いなく自信がある。オレは戦いに向かうすべての試合で自信を持っているんだ」と豪語した。
大橋陣営はすでに9月に都内の1万5000人規模の会場を抑えており、しかも、グッドマンがIBFとWBOの2団体の指名挑戦者であることを考えると対戦相手を変更することは考え辛い。だが、ドヘニーは、こういう見解を口にする。

 「グッドマンのチームは(井上とは)今年の後半か2025年の最初に戦うことを希望している。だから、リングに上がっての呼びかけはちょっとしたマッチョイズム(自己アピール)で、何よりも日本での知名度を上げるためにやったことだと思う。正直なところオレがリングに飛び込んでマイクを握り、自分の意見を言いたかったんだけど我慢したよ」
グッドマンがリングに上がったのは、日本での知名度をアップさせるためのプロモーションだったと主張した。
確かに日本での知名度とKO率で言えばドヘニーがグッドマンより上だ。

 ドヘニーは6年前に後楽園ホールに登場。IBF世界同級王者だった岩佐亮佑に挑戦して3−0判定で勝利し世界王座を奪取した。初防衛戦ではニューヨークで高橋竜平を11回TKOで下している。その後、WBA世界同級王者のダニエル・ローマン(米国)との統一戦に僅差で判定負けをしてベルトを失ったのだが、昨年6月には、井上のジムの後輩でWBOアジアパシフィック同級王者だった中島一輝に後楽園ホールで挑戦して4回TKO勝利している。
ただ、ドヘニーは、その中島戦の前の3月にIBFインターコンチネンタル&WBOオリエンタルス―パーバンタム級タイトルマッチとして2冠王者のグッドマンに豪州に乗り込み挑戦、3ラウンドにカウンターの左フックを浴びてダウンを喫し、ジャッジの1人がフルマークをつける大差の0−3判定で敗れている。

 アラムCEOはドヘニーの26勝(20KO)4敗という高いKO率と真っ向から打ち合うスタイルに魅力を感じているようだが、グッドマンに敗れている相手で、IBFとWBOの両団体が指名試合を先延ばしにすることを了承するのか、などの問題も残っている。しかも国内でのマッチメイクについては、大橋ジムが主導権を握っているため、アラムCEOの意見や、ドヘニーの主張がどこまで聞き入れられるかも微妙だ。
それでも「アイリッシュ・ボクシング」によると、アイルランド人の4団体統一王者は、女子のスーパーライト級4団体統一王者のケイティ・テイラー以来2人目、男子ボクサーでは初の栄誉となるため、アイルランドでは歴史的な一戦としての期待が高いようで、ドヘニーはこう断言した
「どちらにしてもタイトルのチャンスはある。オレはWBOランキングで3位につけていて、もうすぐ2位に昇格する予定だ。今年はどのような展開になったとしても、少なくとも井上(への挑戦)か、空位の王座(井上がベルトを返上した場合の挑戦)か、どちらかのコーナーに立つことになる」
ネリは東京ドーム決戦で挑戦者にもかかわらず1億円を超えるファイトマネーを手にした。井上と戦うことができれば、間違いなく稼げるビッグマネーと4つのベルトは世界中のボクサーにとって垂涎の的である。井上の次戦。そして、その先の対戦プランはどうなるのか。世界中の“刺客たち”が腕ぶしている。