世界有数のプロモート会社「マッチルーム」のトップであるエディ・ハーン氏(44)がスーパーバンタム級の4団体統一王者、井上尚弥(31、大橋)と自身がプロモートするWBA世界フェザー級王者レイモンド・フォード(25、米国)との対戦の可能性について言及した。米スポーツサイト「YSMスポーツメディア」のユーチューブチャンネルのインタビューに答えたもの。9月に予定している次戦の対戦相手が混沌としている井上には、早くもフェザー級への転級を期待する声が上がっているが、同氏は「井上が負けるとすれば階級を上げ過ぎること。井上対フォードでそれが起きる」と階級変更に警告を発して、試合が実現した場合のフォードの勝利を宣言した。

 「ビッグマネーのイベントになるのは明らかだ」

 井上尚弥にまた次なる“刺客”が名乗りをあげた。それも1階級上のフェザー級のWBA王者レイモンド・フォードだ。
フォードのプロモートを任されているマッチルームのハーン氏が、米スポーツサイト「YSMスポーツメディア」のユーチューブチャンネルのインタビューに応じて「井上はどこかの時点でフェザー級に階級を上げるだろう。それはレイモンド・フォードがスーパーフェザー級に階級を上げる前に行うフェザー級での試合になるかもしれない。ビッグマネーのイベントになるのは明らかだ」と明かしたものだ。
フェザー級からは、すでにIBF世界同級王者のルイス・アルベルト・ロペス(メキシコ)が、わざわざ「ドリームマッチ」とした仮想ポスターまで制作して、自身の公式Xで対戦を熱望。ロペスをプロモートしているトップランク社のボブ・アラム氏も「あらゆる選手に体格のリミットがあり、力を維持する力も決まってくる。井上にどういう未来が待ち受けているかは、この試合(ネリ戦)の結果を待ちたい。大橋会長と話したが、年内はスーパーバンタム級でいようという話がある。その後にもしかしたらロペスと対戦するようなことがあるかもしれない」とロペス戦の可能性を示唆していた。
ビッグマネーが発生する井上争奪戦に負けてはなるまいとハーン氏も狼煙をあげたのだろう。
フォードは16戦15勝(8KO)1分の戦績を持つサウスポースタイルのボクサーファイター。スピードがあり左のストレートにKOの威力も秘める。昨年4月に元WBO世界スーパーバンタム級王者のヘスス・マグダレノ(米国)に判定勝利し、今年3月のWBA世界フェザー級王座決定戦でオタベク・ホルマトフ(ウズベキスタン)を最終ラウンドの終了間際にTKO勝利してベルトを奪取した。
ハーン氏は、6月29日にWBC世界スーパーフライ級王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)とのビッグマッチを控える2階級制覇王者のジェシー・ロドリゲス(米国)と、井上との対戦の可能性についても、こう言及していた。
「私は昨日フェニックスでバム(ロドリゲスの愛称)について井上との対戦について話した。バムは、どこかの時点でバンタム級に階級を上げる。ただ井上が大きくなりすぎており、今はスーパーバンタム級の選手になってしまっている」
ハーン氏はパウンド・フォー・パウンドのランキングに入っているロドリゲスの階級アップが間に合わないため、現時点ではより対戦の可能性の高い井上対フォードの実現に目を向けたのか。そしてハーン氏は、モンスターへの警告を忘れなかった。
「井上が打ち負かされる唯一の形は階級を上げ過ぎることだ。それはボクシング界ではよく見られることで、ロマチェンコでさえも、彼にとって少し大きすぎる選手たちと戦った時に、打ち負かされ始めた。彼は130ポンド(58.97キロ、スーパーフェザー級)の選手で、126ポンド(57.15キロ、フェザー級)の選手でもあった。それは階級を上げてきた選手たちの多くが目の当たりにしてきたことで、おそらくそれはクロフォード(8月に階級を上げてスーパーウェルター級の世界王座に挑戦)にも起きることだろう。そしてフォード対井上でもそれが起きる」

 3年7か月ぶりの王座返り咲きを果たし、IBF世界ライト級王者となった3階級制覇王者のワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)もフェザー級のベルトからスタート。2敗したのはライト級に階級をアップしてからだ。大橋秀行会長や父で専属トレーナーの真吾氏は、フェザー級までの階級アップには「むしろスピードが生きる」と太鼓判を押すが、ハーン氏は、井上の階級アップに警告を発令すると同時に、その最初の壁としてフォードが立ち塞がると断言するのである。
ただフォードは6月1日にサウジアラビアで行われるビッグイベントのアンダーカードで強敵のニック・ボール(英国)との防衛戦を控えており、ハーン氏も「井上との話はまずはニック・ボールを片づけてからだ」と付け加えている。
井上は当初、9月にWBO&IBF世界同級1位のサム・グッドマン(豪州)との防衛戦を行い、12月には、元WBA&IBF世界同級王者で、WBAの指名挑戦権を得ているムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)との対戦を予定していた。だが、わざわざ東京ドームのリングに上がったグッドマンが、井上戦よりも7月に地元で予定していた試合を優先させたいとの意向を示しており、代役として元IBF世界同級王者のTJ・ドヘニー(アイルランド)が浮上するなど、スーパーバンタム級での戦いの行方が混沌としている。これらの指名挑戦者を片づけるとスーパーバンタム級には、めぼしい相手がいなくなる。そうなるとファンや関係者が期待を寄せるフェザー級へ転級する可能性も高くなる。
すでに対戦を熱望しているフォードにロペス、そして、WBO世界同級王者のラファエル・エスピノサ(メキシコ)やWBC世界同級正規王者のレイ・バルガス(メキシコ)、同暫定王者で人気のあるブランドン・フィゲロア(米国)らも手ぐすねをひいてモンスターの挑戦を待っている。
また先日、サウジアラビアの娯楽庁長官であるトゥルキ・アラルシク氏は、WBA世界ライト級王者のガーボンタ・デービス(米国)とのキャッチウエイトでのドリームマッチを提言した。軽量級の世界のボクシング界はモンスターを中心に回っている。