2026年のW杯北中米大会出場をかけたアジア2次予選の第5節が6日に一斉に行われ、すでに最終予選進出を決めているグループBの日本代表は、敵地ヤンゴンのトゥウンナ・スタジアムでミャンマー代表に5−0で圧勝した。第2次森保ジャパンで初めて前半キックオフから3バックをテストした日本は、MF中村敬斗(23、スタッド・ランス)とFW小川航基(26、NEC)が2ゴールずつをマーク。実力差のあるミャンマーを攻守で圧倒したが、その90分間に今後へ向けた収穫はあったのだろうか。

 最終ラインに橋岡大樹、谷口彰悟、伊藤洋輝の3人が並ぶ

 初戦から無傷の4連勝をマークし、9月に開幕するアジア最終予選進出をすでに決めている日本にとって、ミャンマー戦は消化試合ではなかった。
国立競技場で北朝鮮代表を1−0で下した、直近となる3月のアジア2次予選から先発メンバーを7人も入れ替えただけではない。前半のキックオフから、最終ラインには右から橋岡大樹(25、ルートンタウン)、ゲームキャプテンの谷口彰悟(32、アル・ラーヤン)、そして伊藤洋輝(25、シュツットガルト)の3人が並んだ。
試合開始から3バックが採用されるのは、第2次森保ジャパンでは18試合目で初めて。第1次政権を含めれば、4度目の挑戦でもベスト16の壁を乗り越えられなかった、クロアチア代表とのカタールW杯決勝トーナメント1回戦以来となる。
7度目のW杯だったカタール大会のグループリーグで、日本は優勝経験のあるドイツ、スペイン両代表をともに2−1の逆転で撃破して世界を驚かせた。ドイツ戦は後半開始とともに、スペイン戦は試合開始から3バックを採用した戦術変更が奏功した。
しかし、3バックはほぼぶっつけ本番だった。再現性のある勝利だったのかと問えば、選手たちはそろって首を横に振った。当時はフランクフルト所属だったMF鎌田大地(27、ラツィオ)は、ドイツおよびスペインと比較しながらこう語っていた。
「今回はこのやり方で自分たちが目指してきた場所まで上手くたどり着けそうでしたけど、じゃあ彼らと対等だったのかと言われると、間違いなく自分たちはほど遠い」
翌年に船出した第2次森保ジャパンはシステムを[4−2−3−1]か[4−3−3]にすえて、今年1月まで歴代記録を塗り替える国際Aマッチ10連勝を達成した。しかし、優勝を目指したアジアカップで中東勢のロングボールに苦しめられ、グループリーグでイラク代表に、決勝トーナメントでは準々決勝でイラン代表にそれぞれ力負けした。
劣勢を覆すための効果的な選手交代ができなかったばかりか、3バックへの変更など、最終ラインの決壊を補うための策も講じられなかった。森保監督はアジアカップ後に、急ブレーキがかかったチームを立て直す策をこう語っていた。
「活動のなかで、すべての局面に対応できるように少しずつコンセプトを積み上げている。選手が思い切ってプレーできるように、いろいろな準備をしていきたい。ただ、同じことをやり続ければ相手も分析してくるので、その上をいかないといけない」
3月シリーズで不戦勝を含めて北朝鮮に連勝し、2試合を残して最終予選進出を決めて迎えた6月シリーズは、勝ちにいく公式戦でいろいろと試せる絶好の舞台となった。
選手が集合した3日から3バックの練習を取り入れた森保一監督(55)は、あえて「攻撃的な」という言葉を添えた。イメージはカタールW杯のドイツ戦にある。
1点を追う後半からMF久保建英(23、レアル・ソシエダ)に代えてDF冨安健洋(25、アーセナル)を投入。3バックにスイッチすると、さらに途中から左ウイングバックに三笘薫(27、ブライトン)を投入し、右ウイングバックには伊東純也(31、スタッド・ランス)を回すなど、攻撃力に特化したドリブラーを配置した。
今回のミャンマー戦では、左ウイングバックにA代表出場8試合で6ゴールをマークしている中村、右に今シーズンのオランダリーグで右サイドバックとして4ゴール9アシストをマークした菅原由勢(23、AZ)を配置。さらにトップ下やインサイドハーフでの起用がメインだった鎌田を、所属クラブと同じボランチとして先発させた。

 3バックで守備を安定させ、森保ジャパンのストロングポイントでもある両サイドから攻める。青写真が先制ゴールとなって具現化したのは前半17分だった。
自陣の中盤で味方がボールを奪うや、鎌田は左サイドの中村へ上がれと右手で合図を送っている。その上でボールを受けると素早く反転して、間髪入れずに左サイドのスペースへ抜け出していた中村へ完璧なパスを供給。一瞬で得点チャンスを作り出した。
ここから先は中村の稀有な得点感覚がさえわたる。
「カットインするのは決めていて、相手がついてきたのでとっさに股抜きに変えました」
走り込んだ先で鎌田のパスを受けた中村は、左角あたりからペナルティーエリアへ侵入した直後に中へカットイン。必死に食らいついてきた相手の股間が開いた瞬間を意図的に射抜き、鋭い弾道の一撃をゴール左へ突き刺した。
鎌田は前半34分に、相手ゴール前で反転しながら右足を一閃。シュートは惜しくも左ポストに弾かれたが、こぼれ球をインサイドハーフで先発した堂安律(25、フライブルク)が押し込んだ。鎌田は自身のポジションについて、以前にこう話していた。
「ボランチだろうがトップ下だろうが、どちらも問題ないという感じですね」
左ウイングバックでは、中村がインサイドハーフに回った後半17分から前田大然(26、セルティック)が驚異的なスピードを存分に発揮。右は同じく17分から相馬勇紀(27、カーザ・ピア)が入り、絶妙のクロスで同30分の小川のチーム3点目をアシストした。
小川は8分後にも、こぼれ球にうまく反応して左足でゴールネットを揺らした。国内組だけで臨んだ2019年12月のEAFF E-1選手権で、ハットトリックを達成した香港代表戦以来、約4年半ぶりとなるA代表でのゴールを、試合後にこう振り返っている。
「(1点目は)自分の特徴が出たゴールだと思う。勇気くん(相馬)とはずっと前から(代表で)コンビを組んでいて、ああいうクロスが上がってくるのはわかっていたので」
後半アディショナルタイムには、中村がゴール中央から鮮やかなミドル弾を決めた。出場9試合で8ゴール目の起点となったのは、センターバックではなくボランチで途中出場した板倉滉(27、ボルシアMD)が小川へ通した鋭い縦パスだった。

 最新のFIFAランキングで、アジア最上位の日本の18位に対してミャンマーは163位。グループBでも試合前の時点で1分け3敗の最下位で、得点2に対して失点19を数えていたミャンマーとの力の差は歴然な消化試合で、森保監督は出場試合数が「0」の選手の招集を、途中出場でデビューしたMF鈴木唯人(22、ブレンビー)だけにとどめた。
新戦力を試すよりも招集歴のある選手を中心に、戦術の幅を広げる機会にあてた。最後まで3バックでプレーさせたのも、今後への方向づけの意味合いもあった。同じ3バックでも攻撃的な布陣で、2年後の北中米大会までに実戦を通して成熟させる。
ゆえに新たにトライしたものが奏功したのかどうかを、この試合だけで検証するのは難しい。ミャンマー戦の収穫を問われた指揮官も、こんな言葉を残している。
「3バックで攻撃的にプレーをするところでしっかりとゴールも奪って、失点も0に抑えられたのは収穫だと思っています。ただ、われわれが目指すところはまだまだ高いところですし、これから最終予選、そしてW杯と続く道では相手も強くなってくるので、プレーの強度、プレーのスピードのすべてをあげていきたい」
一夜明けた7日に帰国する森保ジャパンは舞台を広島に移して、11日にシリア代表とのアジア2次予選最終戦(エディオンピースウイング広島)に臨む。
小川の活躍にチーム得点王のFW上田綺世(25、フェイエノールト)も大きな刺激を受けるはずだし、ミャンマー戦に出場しなかったキャプテンのMF遠藤航(31、リバプール)やMF南野拓実(29、モナコ)だけでなく、ヤンゴンへ帯同しながらベンチ外となった久保、そしてDF冨安健洋(25、アーセナル)も出場機会に飢えているはずだ。
代表の活動日数は限られている。再び3バックが予想されるシリア戦の次は9月で最終予選が組み込まれる。来年9月までは国際親善試合も組めない状況で、公式戦だけでなく試合までの練習も貴重な機会に変えて、チームの底上げが図られていく。