戦場カメラマンとして知られるロバート・キャパ(1913〜54年)を一躍有名にした写真に「崩れ落ちる兵士」がある。スペイン内戦を取材した36年、兵士が銃で撃たれた瞬間を撮影した◆この写真、長く真贋(しんがん)論争が繰り広げられてきた。作家の沢木耕太郎さんは、キャパと行動を共にしていた女性カメラマンが兵士の演習中、偶然収めた写真と『キャパの十字架』で指摘した。もし事実とすれば、キャパがスペイン内戦を含め五つもの戦争を取材したのは自責の念に駆られてのことだったかもしれない。第2次世界大戦の「ノルマンディー上陸作戦」を撮影した写真は海中を進む兵士をとらえ、真偽の疑いようがない◆今年のピュリツァー賞に、パレスチナ自治区ガザ情勢を取材する全ての記者が選ばれた。昨年はロシアの攻撃が迫りくるウクライナ・マリウポリの報道が選ばれている。危険を覚悟で戦争の実相を伝えようとする姿勢に頭が下がる◆「私の夢は永遠の失業」と語ったキャパだが、世界の軍事費は昨年、過去最多の約377兆円に。おとといには中国軍が台湾を包囲する形で軍事演習を始めた。不穏な空気を振り払えない◆キャパは54年5月25日、第1次インドシナ戦争の取材中に命を落とす。享年40。没後70年のきょう、戦場カメラマンの出番がない平和をキャパと共に願う。(義)