陣内久紹さんが制作した友禅訪問着と、妻の章代さん=小城市立歴史資料館

 小城市出身の京友禅作家で、昨年9月に67歳で亡くなった陣内久紹(じんのうち・ひさつぐ)さんの追悼展が、小城市立歴史資料館で開かれている。「蒔糊(まきのり)」という技法を用いた優雅で繊細な友禅訪問着をはじめ、下絵のスケッチなど着物作りの工程が分かる資料も展示。陣内さんが作品に注いだ手間暇や情熱を伝えている。

 陣内さんは小城高卒業後、京友禅の人間国宝・故森口華弘(かこう)氏に弟子入りし、35歳で独立。日本伝統工芸展や個展などで活躍した。小城高美術部OBらでつくる「黄美(おうび)会」の創設時からのメンバーで、追悼展は陣内さんの作品や功績を知ってもらおうと有志が企画した。

 糊の粒を使ってぼかしや模様を表現する蒔糊は、森口さんから受け継いだ。花や鳥、雪などが描かれた色鮮やかな訪問着は、蒔糊の小さな粒が独特の風合いを醸し出している。友禅染の額装作品やタペストリーも展示されている。着物のデザインを具体化するための膨大な量のスケッチからは陣内さんの思いも感じ取れ、作品の魅力をさらに高めている。

 陣内さんの恩師で、黄美会顧問の金子剛さん(84)は「作品に至るまでのプロセスを見ると涙が出るよう。小城が生んだ素晴らしい芸術家を忘れないでほしい」と惜しんだ。陣内さんの妻章代さん(63)=京都市=は「夫の出身地である小城で、仕事の流れや現場を垣間見える作品展ができて感謝しかありません」と語った。

 6月2日まで(午前9時〜午後5時)。月曜休館。入場無料。(古川浩司)