駒込の『パンハウス麦畑』は、一見すると、よくある街のパン屋さん。しかし、食べてみれば、その手堅いおいしさや満足度の高さに驚くはずだ。ほかと同じようでいて、実はちょっと違うのである。

実直なおいしさのパン

JR駒込駅の東口改札を出て右に折れると、目の前にアザレア通り商店街の入り口がある。目の前を本郷通りが走り、六義園がある華やかな北口と比べると、こちらは親しみやすいというか、下町っぽさが漂っている。その商店街の中ほどにある『パンハウス麦畑』。こちらのパンが、なかなかなのである。

たとえば定番のカレーパン。かじりついた瞬間、ぶにゅっとはみ出るたっぷりなカレーフィリングが、まずうれしい。パン生地はもっちりしていて甘みあり。スパイスのきいたフィリングとのバランスがとても良い。びっくりするような仕掛けこそないが、実直なおいしさのあるカレーパンなのだ。

色よく揚がったカレーパン200円。
色よく揚がったカレーパン200円。

ほかのパンも同様。総菜系もパンがまずおいしい。焼きそばコッペのパンは適度な軽さとしっとり具合で、具材に負けない存在感がある。もちろん焼きそばコッペもハムたまごコッペも、具材はたっぷり。しかも安い。手軽でおいしく満足度も高い、町パンの優等生といっていいだろう。

焼きそばコッペ200円にハムたまごコッペ210円。このボリュームがうれしい。
焼きそばコッペ200円にハムたまごコッペ210円。このボリュームがうれしい。

商店街にすっかりなじんだ感のある『パンハウス麦畑』。しかし、この場所でオープンしたのは、つい6年前のこと(2024年現在)。それ以前はアザレア商店街より、ちょっと東にある田端銀座商店街で、同じ店名で営業していた。

移転前から変わらないおいしさと安さ

現店主の大塚茂さんはそちらで働いていたのだが、店が立ち退きになり、当時のオーナーが商売をやめることに。

それならばと大塚さんは独立する形で、現在の場所に再オープンさせたのだ。

店主の大塚茂さん。
店主の大塚茂さん。

店の場所は変わったが、提供するパンは、基本的に変わっていない。安くておいしいパンを提供するというモットーは、以前の店のオーナーが常に言っていたのだという。また、「材料をケチらない」ということもそのままだ。

くるみパン180円。しっとりした生地の中には、これまたくるみがたっぷり。
くるみパン180円。しっとりした生地の中には、これまたくるみがたっぷり。

「いっぱい入れるってわけじゃないけど、ちょっと多く入れるようにしています。それだけでも喜んでもらえるじゃないですか。お客さんが喜んで、いっぱい買ってくれればうれしいですし、明日も頑張ろうって気になれますから」と大塚さん。

おっしゃるとおり。『麦畑』のカレーパンを食べて、すっかりうれしくなってしまいました。

変わらないようで変わっている

基本姿勢こそ変わっていないが、小さな変化はいろいろとある。まず、以前の店舗より広くなったこともあって、パンのメニューは拡大した。定番に加えてハード系やクロワッサン、デニッシュなどさまざまなパンを並べるようにした。下町のベーカリーだとハード系はなかなか難しい場合もあるが、現在の場所は客層も幅広いようで、わりとスムーズに受け入れられたようだ。

デニッシュ系も充実。
デニッシュ系も充実。
総菜パンはどれを食べても当たり。
総菜パンはどれを食べても当たり。

さらにパン自体も、地味ながらマイナーチェンジさせている。

「粉自体は変えていませんが、作り方とかは長い間に少しずつ変えていますよ。商品に関しては、うちはちょっと頑張っているかもしれませんね」と大塚さん。

そうなのだ。人の嗜好はそのときによって変わる。おなじみのパンであっても、そのときに合わせて少しずつ変えていかなければ、長く支持されることは難しい。普通の街のパン屋さんだが、『麦畑』がちょっと違うと感じたのは、その地道な進化があってこそなのだ。

姿勢は変えずにパンは少しずつ変えていく。これが地域の人に愛される町パンの正しい姿なのだろう。

パンハウス麦畑
住所:東京都北区中里1-2-2/営業時間:7:00〜19:00/定休日:水/アクセス:JR駒込駅から徒歩4分

取材・撮影・文=本橋隆司

本橋隆司
大衆食ライター
1971年東京生まれ。大学卒業後、出版社勤務を経て2008年にフリーへ。ニュースサイトの編集をしながら、主に立ち食いそば、町パンなど、戦後大衆食の研究、執筆を続けている。