今から58年前、一家4人が殺害されたいわゆる「袴田事件」。この事件をめぐっては、死刑が確定した袴田巖さんの裁判のやり直しが現在、静岡地裁で開かれていて、5月22日全ての審理が終了する見通しです。

裁判では、犯行着衣とされる衣類に付着していた血痕の「色」をめぐり、弁護側、検察側の主張が対立しています。

2023年10月から静岡地裁で始まった袴田巖さんの再審=裁判のやり直し。最大の争点となっているのが、犯行着衣とされる「5点の衣類」です。

「5点の衣類」とは事件発生から1年2か月後、現場近くのみそタンクの中から見つかったもので、袴田さんの死刑判決の決め手となりました。

裁判のやり直しを求めた弁護団は、この「5点の衣類」は「捜査機関によってねつ造されたものだ」と主張しました。その大きな根拠としたのが、血痕の色です。「1年以上もみそに漬かった血痕は黒くなるはずで、『5点の衣類』の血痕は赤すぎる。発見直前に捜査機関がみそタンクに入れた」と訴えました。

<袴田事件弁護団 小川秀世弁護士>
「色の濃さが全然違うじゃないですか。こちらは元々、白い下着だと分かるくらいにしか染まってないけど、血液の色も赤みが全然残ってないですよね、全然ね」

弁護団は、長期間みそ漬けされた血痕が黒くなることを科学的に証明するため、法医学者に実験を依頼しました。

奥田助教らは、みそと同じ環境下で、血液は短期間で黒くなるという実験結果を裁判所に提出しました。

<旭川医科大学 奥田勝博助教授>
「みそのような弱い酸や高い塩分濃度だと、赤みの成分であるヘモグロビンがゆっくりと、酸化、変性、分解をしていく」

この実験結果が決め手となり、2023年3月、東京高裁は袴田さんの再審開始を認めました。

東京高裁の決定を受け、2023年10月から始まったやり直しの裁判。再び「5点の衣類」の血痕の色が最大の争点となっています。

検察は、新しい証拠として、7人の専門家が作成した共同鑑定書を提出。弁護側の実験を批判し、「赤みが残る可能性は否定できない」としました。

共同鑑定書を作成し、検察側の証人として法廷にも立った、法医学者の神田芳郎教授です。

<久留米大学 神田芳郎教授>
「弁護側の実験というものは(みそと同じ程度に)単にpHと塩分濃度を合わせただけですから、この実験をもって100%、1年2か月間みそ漬けした血痕に赤みが残ることがないと証明することは私は絶対にできないと思います」

神田教授は、血痕の赤みが残るかどうかを確かめるためには、pHと塩分濃度だけでなく、「酸素濃度」を考慮する必要があると指摘。1年2か月間、「5点の衣類」があったとされるみそタンクの底は、酸素濃度が著しく低く、それにより血液の赤みが残る可能性はあると主張します。

<久留米大学 神田芳郎教授>
「酸素濃度を全く考慮していないこういった実験というものに、私は意味を見出すというのは私は難しいと思います」

これに対し、弁護側の奥田助教は。

<旭川医科大学 奥田勝博助教授>
「みそ原料が入れられるまでに最高で3週間くらいあった。その間であれば、みそ原料でふたをされるまでは空気に触れているわけですから、十分変色したと」

弁護側は、みそ会社の従業員の供述調書に基づき、事件発生から3週間ほどはタンクの中のみそは少なく、「5点の衣類」が酸素に触れる時間は十分にあったなどと主張しました。

血痕の赤みは残るのか、それとも黒くなるのか。裁判所の判断が注目されます。

<水野涼子キャスター>
では、改めて袴田事件の「5点の衣類」の血痕の色をめぐる争点を整理します。

<社会部 山口駿平記者>
弁護側の奥田助教は、1年以上みそ漬けされた血痕が黒くなることを証明するため、pHと塩分濃度をみそに合わせ、実験を行いました。

これに対し、検察側の神田教授は5点の衣類があったとされるみそタンクの底は酸素濃度が著しく、低かったと考えられるため、奥田助教が行った実験は、酸素濃度を考慮していない点で適切ではないと指摘。

奥田助教は、5点の衣類は3週間ほど大気に触れていた期間があったとされるため、酸素濃度を考慮する必要性は低く、実験は適切と反論しました。

袴田さんの再審公判は、22日に結審される見通しで、夏ごろに判決が下されるとみられています。