5月17日は世界高血圧デー。高血圧は全世界共通ともいえる生活習慣病のひとつであるが、その最大の原因は塩分の摂りすぎであるため、予防対策としては減塩が必須となる。だが、減塩と聞くと、おいしくない、味が薄いというイメージが……。そこで東京慈恵会医科大学附属病院栄養部部長 管理栄養士、濱 裕宣先生と、同じく菅理栄養士の赤石定典先生が無理なくできる減塩方法について解説する。

日本人の1日の塩分摂取量はWHO推奨値の2倍!

―2024年度より高血圧の基準が「収縮期160/拡張期100」に変更されました。高血圧は、どんなことが原因になっているのでしょうか?

濱先生 まず、高血圧になる原因として挙げられるのが食塩の摂りすぎです。食塩を摂りすぎると、体は血液中のナトリウム濃度を元に戻そうとして、体内に水分を溜めこみます。これによって血液量が増え、血管への圧力が高まり、高血圧になるのです。

赤石先生 高血圧によって、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞、腎臓障害などさまざまな病気を引き起こすリスクが高くなります。
 

―大きな病気以外のリスクは? 

濱先生 大きな病気以外でも、女性が気になるむくみも塩分の摂りすぎによるものです。むくみは塩分の摂りすぎで血液や体液の濃度が濃くなり、体が水分を欲してため込むことでおこります。

他には、塩分が多い食事は食欲がアップしがちなので、いつもよりたくさんの量を食べてしまい、肥満にも繋がります。また、塩辛いものはよく噛まずに飲み込む傾向があって、消化不良により栄養が体に行き渡らなくなると、集中力の低下やメンタル不調の原因になることもあるでしょう。
 

赤石先生 なので、やはり減塩することは健康のためにはなるのですが、なかなか難しいのが現状ですね。とくに日本人は和食特有の食習慣や地理的なことによって、塩分摂取量が多くなりやすい傾向にあります。日本は海に囲まれた島国なので塩は容易に手に入りますし、味付けには昔から塩分の多い味噌や醤油を使います。欧米だと、ハーブを使ったり、素材を煮込んでスープを作ったりなどしますから、日本ほど塩は使わないのです。

世界的に見ても、2010年の英国の医学雑誌に掲載された論文によると、日本の食塩摂取量の平均が12.4gで、タイ、韓国、シンガポールに続く第4位です。
気候が暑い国が多いというのもありますが、だいたいアジア圏は塩分を摂りすぎる傾向ですね。
 

―現在の日本の1日の食塩摂取量はどれくらいですか?

濱先生 日本人の1日の食塩摂取量は現在平均で約10g。WHO推奨水準が1日あたり5g未満ですので2倍以上です。さすがに、いきなり半分にするのは難しいこともあり、令和14年度までに7gを目標としています。 

赤石先生 ちなみに3g は小さじ1/2杯に相当。また1つまみで約1g ですので、3つまみ相当を減らすことができれば達成できますが、たかが3g、されど3g。塩分はパンやうどんなどの加工食品にも含まれているので、意識せず何気なく摂っている塩分までカットするのは容易ではないですよね。

また、コンビニや外食が多い人はどうしても塩分の摂取量が多くなります。なので、自宅で調理するときに減塩を意識してもらえればと思います。

おいしく減塩するのはどうしたらいい?

―自宅でできる減塩にはどんな方法がありますか?

濱先生 「減塩してください」というと極端に塩を少なくする人がいますが、それだと食事も味気なく長続きしません。私たちがすすめているのが主に

1 調理方法を工夫する
2 塩の代わりの味付けをする
3 スープ系の料理はお椀ではなくお皿に盛り付け、具沢山にする


3つです。
 

赤石先生 1の調理方法の工夫ですが、まずポリ袋を使用します。食材を食品用耐熱ポリ袋に入れて調味料と一緒にもみ込み、そのまま冷蔵庫で味を染み込ませたり、湯せんで加熱調理したりする方法です。この方法の最大の特徴は、調味料の量を正確にコントロールできるため、無駄なく減塩が可能になる点です。なお、ポリ袋で加熱調理する場合は、加熱に適したポリ袋を使用してくださいね。

また、使用する調味料の量を減らしても、空気を抜くことで袋の中の気圧が下がり、味がしっかり染み込みます。物足りないなら、食べるときに塩やしょうゆを少し振りかけてもOKです。

2の塩の代わりになる味付けとは、酸味、香辛料、旨味、香味野菜などを利用することです。例えば、塩の代わりにレモン果汁と醤油で調理すると、塩分を抑えつつ、旨味を引き出すのであらゆる料理に使えます。

濱先生 3については、みそ汁を例に解説すると、一般的なお椀のみそ汁だと塩分は約1.8gあります。これを具沢山のみそ汁に変えると、塩分は約1.4gになります。またお椀を浅いものにかえると1.6gに。さらに具沢山にすると塩分は0.9gに減ります。

スープ系や汁物の食事は、できればすべて飲みほしたいですよね。塩分を考えるとすべて飲むのは避けたいですが。器を浅いものに、かつ具沢山にするなどすれば、飲み干すことなく、食事の満足感を得られます。

醤油差しは1滴ずつ出るものに変える、お寿司を食べるときは、少し醤油をつけてまず舌に触れさせると十分に塩味を感じます。このようにすごく減塩をがんばらなくても、ちょっとした工夫で減塩はできます。
 

赤石先生 減塩のために避けたい食品は、干物、塩漬け魚、ハムなどの加工品、かまぼこ、ちくわなど練り製品、漬物類、インスタント食品、スナック菓子類なんですが、私は今さつま揚げに凝っていて、つい食べてしまいます。そんなときは漬物や塩漬け魚などは一緒に食べないようにしています。このように塩分が高いものを同時に摂らないように心がけるのも減塩のポイントです。

濱先生 コンビニや外食が多い人も、今はどんな製品でも塩分量は表示されていますし、大手のファミリーレストランなども塩分表示が出ていると思うので、糖質やカロリー以外に塩分にも目を向けてもらえればと思います。

赤石先生 減塩はおいしくない、味気ないというイメージがあるかもしれませんが、調理やちょっとした工夫でおいしく減塩できるので、高血圧の予防対策として試してみてください。


取材・文/百田なつき