地上60階建てのタワーマンションで起きた惨劇。25歳女性はなぜメッタ刺しで殺されたのかーー。東京都新宿区西新宿の超高層マンションの敷地内で5月8日未明、住人の女性Aさん(25)が腹や首などをナイフで刺される事件があり、通報で駆けつけた警視庁新宿署員が現場にいた職業不詳、和久井学容疑者(51)=川崎市川崎区=を殺人未遂の現行犯で逮捕した。Aさんは近くの病院に運ばれたが出血が激しく間もなく死亡、同署は容疑を殺人に切り替えて和久井容疑者を調べている。
 

「騙し取られた」と逆恨みを募らせていた

和久井容疑者は身柄を確保される際に果物ナイフ2本を所持しており、「貸した金を取り返すつもりだった。体を傷だらけにしてやろうと思った」などと供述しているという。

和久井容疑者は2年前にもAさんにストーカー行為を行なったとして逮捕されていた。社会部デスクが解説する。

「和久井容疑者は2020年ごろにAさんが経営していたガールズバーに客として訪れ、しだいに彼女に入れ込むようになった。経営を支援するためとして1千万円以上を貢いだが相手にされなくなり、つきまといを繰り返すようになった。

警視庁に2度の注意を受けたが止まらず、2022年5月にストーカー規制法違反容疑で逮捕されました。釈放時には同法に基づく接近禁止命令が出ていましたが、1年の有効期限が切れた昨年6月、Aさんの希望もあって解除されていた。

そもそも、和久井容疑者が貢いだ大金の原資は、趣味で所有していた高級スポーツカーやレーサー仕様の大型バイクを売り払ったものからとのことで、それだけに『騙し取られた』と逆恨みをつのらせていたようです」 

実際に和久井容疑者は自身のSNSで、マニア垂涎の伝説のバイクとされるホンダNRや、欧州のスーパーカーに対抗できるミッドシップスポーツカーとして開発されたホンダNSXを“溺愛”している様子を頻繁に投稿。
その愛車2台を2021年に相次いで手放したことも、SNSに未練がましくアップ。それからほどなく、Aさんが警視庁に「店の客に自宅前で待ち伏せされている」などと相談するようになっていた。 

「ここ数年はお父さんと学くんの2人暮らしでした」

干支がふた回り以上年下の女性に惚れ込んで貢ぎ、殺人を犯すまで逆上してしまった和久井容疑者は、自宅周辺では“常識人”で通っていた。足の悪い母は介護施設に入所し、年老いた父と2人暮らしをしていたようだ。近所に住む女性は不思議そうな表情を見せた。

「最近も見かけたけど、ふだんと何も変わらない様子でした。実家の2階に洗濯物を干したりお布団を干したりしていましたよ。学くんは子供の頃からおとなしい性格ですごくいい子でした。

悪ぶったりグレたりすることもなかったし、大人になってからも態度が悪いと感じたことはなかったので、今回の事件にはびっくりしました。

元々ご両親と3人暮らしでしたが、お母さんは介護施設に入ったりして、ここ数年はお父さんと学くんの2人暮らしでした。また最近は戻っているようですけど…。お父さんは80代でお母さんは70代後半くらいかな」

一家は総じておとなしく、近所付き合いも積極的にするタイプではなかったというが、和久井容疑者が車とバイクに目がないことは周知の事実だったようだ。

「近所迷惑になるようなことはしないタイプですけど、学くんが家の前の道路ですごく高そうな車やバイクを洗車しているのをよく見かけました。この道はバスもよく通るので、事故にならないか心配でしたね。その車とバイクも処分したのか見なくなって久しいですね。学くんが女の人といるところも見たことなかったので…」

自宅近くの飲食店店主もこう語る。

「和久井さんはどこにでもいる礼儀正しいおじさんで紳士的な印象でした。あんな事件を起こしたなんて全然想像できないです。つい数日前に車ですれ違ったときも、いつもと何も変わらない様子でした。

この辺りで顔を合わせれば、いつも向こうから挨拶してくれて、『いいお天気ですね』みたいなたわいもない話をよくしていました。この辺はガラがあんまりよくないやつもいるんだけど、そういう不良っぽいヤツらとつるんでる感じも全くなかったです」

愛車は「バッテリーがすぐあがるからあまり乗れないんです」

この店主は、店の近くに和久井容疑者が駐車場を借りている縁で、親しくなったという。

「うちのお客さんがよく勝手に和久井さんの駐車場に車を停めちゃうから『いつもすみません』みたいな感じで謝りに行ったのが会話するようになったきっかけだと思います。かれこれ10年以上の仲でした。

今まで何度も駐車場のことで謝りに行ったことがあるけど、和久井さんが感情的になっているところは1度も見たことないし、文句を言われたこともありません。和久井さんは縦に2台駐車場を借りていて手前に白い軽自動車、奥に赤いスポーツカーという形で縦列駐車していました。バイクは自宅の駐車場に停めていたと思います」

愛車を大事にはしていたが、乗っているところはほとんど見たことがなかったという。

「和久井さんは『バッテリーがすぐあがるからあまり乗れないんです』と、ふだんはバッテリーは取り外して家に置いていたみたいです。うちの息子がまだ小さいころに駐車場で車を手入れしている和久井さんに『赤い車かっこいい』と話しかけたら『かっこいいだろ!』と喜んでくれたみたいです。

駐車場から車を出すときは、見えにくい場所だから毎回慎重にゆっくり移動させていました。赤いスポーツカーと白い軽自動車の駐車位置を入れ替えるときは、他の車の邪魔にならない遠いところに車を停めていましたね」

真面目でまとも。店主の印象はそれに尽きるという。また、店主の妻は以前、和久井容疑者本人から「離婚したことがある」と聞いた記憶があるという。

「(被害者の)女の人にハマっちゃったのかな。3〜4年くらい前、その赤いスポーツカーを手放すときは『経費がかかるからもう車、引き払うんです。うちの駐車場空くからよかったら使ってください』と勧められ、今はうちが契約して使ってるんですよ。駐車場代は2台で月3万5千円です。

食事にもよく来ていただいて、最後に来てくれたのは2〜3ヶ月くらい前だったと思います。つなぎを着たホンダの整備士さんとよく一緒に来られて、いつも一番高い『極上とんかつ』を頼んでくれるんですよ。代金はいつも、和久井さんがまとめて払っていました。

お仕事は何をされていたのかわからないですが、『今日は午前中配達がある』なんて話をしていたことがあったので、依頼があれば動く感じで休みは不定期だったと思います」

Aさんが住んでいたタワーマンションは1階、2階にはテナントが入り、近隣には公園もある巨大なマンションだ。捜査関係者によると和久井容疑者は「数時間待ち伏せしていた」という。

その執念は何だったのか。#2では和久井容疑者の父親の独白を詳報する。

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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班