スペイン、北にあるバスク地方のクラブは、伝統的にクロスをゴールに叩き込む形が得点パターンとして愛される。必然的に、クロッサー、ストロングヘッダーが生まれやすい。育成から一貫した文化があるからだ。

 とりわけ、アスレティック・ビルバオはピチーチ、テルモ・サラという伝説的FWに始まり、フリオ・サリーナス、イスマエル・ウルサイス、アリツ・アドゥリス、フェルナンド・ジョレンテ、そして現在のゴルカ・グルセタという屈強なストライカーを輩出。いずれも、大柄な体躯を自由に動かして豪快なヘディングを叩き込むプレーを得意としてきた。

 クロスを叩き込むには高さや強さだけでなく、技術が必要なのだが、それを身につけられる土壌があるのだ。

「少年時代のアイドルはバルサのミカエル・ラウドルップだったよ。当時はドリブルやフェイントが好きで、ゴールよりもパスに痺れていた。レサマ(アスレティックの下部組織)に入った頃の身長は170センチ近くで、それほど大きくはなかった」

 195センチの長身を生かしてアスレティックでは10年近くゴールを量産したF・ジョレンテは、そう振り返っていた。スペイン代表としても、2010年南アフリカ・ワールドカップで世界王者に輝いている。

「15歳頃からかな、驚くほど身長が伸び始めてね。寝て起きたら大きくなっているような感じだった(笑)。身体のサイズの変化に戸惑ったよ。そんな時、レサマの指導者たちは僕をセンターフォワードとして訓練してくれたのさ。得意ではなかったヘディングやDFを背にしたポストプレー、辛抱強い指導があったからこそ、必要な技術を習得できたんだ」

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 そしてFWになったF・ジョレンテは、ストライカーとしての“伝統の継承”も感じたという。

「おかげでトップに昇格したのは良かったけど、僕は2年間ほどスランプに陥ってしまったんだよ。その時、(ヘディングを得意とした元スペイン代表FW)ウルサイスの存在は大きかったね。迫力のあるヘディングを間近で目にし、貴重なアドバイスをもらい、なんとか不調から抜け出すことができた。同じポジションの選手も仲間だし、このチームは一つなのさ」

 2022年、F・ジョレンテは惜しまれつつスパイクを脱いでいる。

アスレティックを退団後は、ユベントスで二度のスクデットに輝き、セビージャではヨーロッパリーグ優勝、スウォンジーのプレミアリーグ残留に貢献し、トッテナムではチャンピオンズリーグ決勝進出に一役買い、さらにナポリ、ウディネーゼ、エイバルと長くプレーを続けた。有力クラブを渡り歩くことができたのは、アスレティックで培ったストライカーの神髄のおかげと言えるだろう。

文●小宮良之

【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』、『FUTBOL TEATRO ラ・リーガ劇場』(いずれも東邦出版)など多数の書籍を出版。2018年3月に『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューを果たし、2020年12月には新作『氷上のフェニックス』が上梓された。

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