久保建英はラ・リーガ第33節で今季2回目のレアル・マドリード戦に臨み、またもや敗れはしたものの、高評価された選手のひとりとなった。今回はスペインのラジオ局「カデナ・コペ」で、レアル・マドリードやスペイン代表の番記者を務めるミゲル・アンヘル・ディアス氏に、この試合での久保のパフォーマンスおよび来季の去就について言及してもらった。

【レアル・マドリード戦の久保はすばらしかった】

 今回のレアル・マドリード戦に関して、久保のパフォーマンスおよびチームに与えた影響力はとてもよかったと思う。自身の存在感を損なうことなく、常にボールを求める姿勢はすばらしかった。


久保建英はレアル・マドリード戦で奮闘したが、チームは0−1で敗戦 photo by Getty Images

 序盤からいい動きを見せ、前半5分にオーレリアン・チュアメニから最初のファウルを受けると、8分にはハビ・ガランが左から入れたクロスに、あと少しで頭で合わせるところだった。さらに15分、ペナルティーエリア内から右足で低い弾道のシュートを放つが、ケパ・アリサバラガの好セーブに阻まれた。

 そして32分、この試合で最も物議を醸すプレーの主人公となった。ペナルティーエリア手前でルーズボールを拾うと、ケパの守るゴールにシュートを突き刺し、試合を振り出しに戻した。しかし、ムヌエラ・モンテーロ主審はVARで検証した結果、直前のプレーでアンデル・バレネチェアがチュアメニにファウルをおかしたとして、久保のゴールを無効としたのだ。

 久保は試合後、「チャンピオンズリーグ(CL)ではあのような笛は吹かれない」と判定に不満を漏らし、イマノル・アルグアシル監督も「彼に同意する。そのことについては話したくない」と口を閉ざした。

 レアル・マドリード戦は久保にとって重要な試合であるだけに、彼のフラストレーションは理解できる。しかし映像を見る限り、疑いの余地はない。ファウルは明らかだった。

 久保は後半に入ると、ファウルで止められたこともあり、あまり目立たなくなった。右サイドで突破を図った際にフラン・ガルシアに倒されてイエローカードを引き出すことに成功したが、経験豊富なルカ・モドリッチには背後からつまずかせる巧みなプレーで止められた。そんななか、久保は終盤に再び"魔法"を披露し、ミケル・オヤルサバルがあと一歩で得点となるチャンスを演出した。

 久保は何よりも攻撃面で才能豊かな選手だが、ドリブルしているダニ・セバージョスからボールを奪ったことで示したように、守備の場面でも体を張って味方を助けられる選手でもある。

【レアル・ソシエダは久保にとって完璧なクラブ】

 久保にとって概ねいい試合だったと思うが、来季レアル・マドリードでプレーする可能性は極めて低いだろう。クラブ内では今、レアル・ソシエダが将来、放出を検討した時のオプションのひとつと考えられているだけだ。

 また、レアル・マドリードが保持するキャピタルゲインの50%を受け取るという権利に関して、レアル・ソシエダが今年1月に久保と2029年まで契約を延長した際に、同期間まで延長されることで合意されている。一方、先買権の有効期限が今夏までというのは変わらない。いずれにしても、契約解除金が6000万ユーロ(約100億円)に設定されていることを考えると、大きな取引となるだろう。

 レアル・マドリードが久保を評価していないわけではないだろうが、今のところ攻撃陣の戦力は十分整っていると判断している。もっと言えば、彼に適したポジションは"オーバーブッキング"となっている。

 ロドリゴ、フェデリコ・バルベルデ、ブラヒム・ディアス、そしてレアル・ソシエダ戦で先発したアルダ・ギュレルなど、右サイドでプレーできる選手は枚挙にいとまがない。

 ポジション争いは熾烈を極めるため、レアル・ソシエダで彼が今得ている文句なしのレギュラーというステータスは、レアル・マドリードに加入した場合、ほど遠いものになるだろう。そもそも、パリ・サンジェルマンのフランス代表FWキリアン・エムバペの加入により、ブラジル代表でレギュラーを張るロドリゴでさえスタメンでいられる保証はない。

 一方で、これまで問題だと言われてきたEU圏外の選手であることは、少なくとも今夏は不利に働くことはない。なぜならレアル・マドリードでは現在、その状況の選手がいないからだ。ジュード・ベリンガムはすでにアイルランドとの二重国籍を取得し、ヴィニシウス・ジュニオール、エデル・ミリトン、ロドリゴもスペインのパスポートを入手済みだ。つまり、来季に向けて現時点では、7月に18歳の誕生日を迎え、パルメイラスからやって来るエンドリッキだけがEU圏外の選手ということになる。

 もし私が久保の立場ならば、今の状況に落ちついていられるだろう。なぜなら彼はレアル・マドリードから離れていても幸せになれることを証明しているし、スターにだってなれる資質があるからだ。

 それでも、いつの日かレアル・マドリードに戻るという選択肢が浮上したなら、一生に一度しか通過しないその列車に乗るチャンスを生かす必要がある。そして、彼はきっと戻るという選択肢を選ぶはずだ。

 今やレアル・ソシエダは、久保にとって完璧なクラブだ。彼のプレーは見る者を楽しませ、彼の存在はラ・レアルが欧州カップ戦の常連になれると感じさせてくれる。

 しかし、久保がこのふたつを選ばないのであれば、次の選択肢はプレミアリーグのビッグクラブでプレーすることになるかもしれない。イマノル監督はレアル・マドリード戦後、リバプールの久保への興味について質問されると、「タケはラ・レアルの選手であり、ここに残りたがっている」と返答し、サポーターを安心させていた。

【世界最高峰の選手と認めさせるには】

 今季、久保はラ・リーガ最初の8試合で5ゴール1アシストと非常に力強いスタートをきり、得点ランキングの上位に名前が上がったのは驚きとなった。さらに9月には月間MVPにも選出されている。

 しかし、徐々に調子を落としていったのは明らかだ。アジアカップからの復帰後に出場したラ・リーガ8試合でわずか1ゴールとパフォーマンスが低下。それを言い訳にすることはできないが、FIFAはもっと論理的なカレンダーを作る努力をしなければならない。シーズン途中に代表活動のために所属クラブを離れ、チームメイトや習慣、気候、フィジカルコーチを変え、その後、何事もなかったかのようにシーズンの重要な時期にチームへ復帰するのは、どんな選手であっても簡単なことではない。

 調子を崩したと言っても、イマノル監督にとって久保は議論の余地のない選手であることに変わりはない。その証拠にレアル・ソシエダで右サイドの主として君臨し、ラ・リーガではアジアカップで参加できなかった4試合を除き、出番がなかったのはわずか3試合だけだ。

 また、幸いにも大きなケガを負っていない。3月のアラベス戦でハムストリングに違和感を覚え、ハーフタイム前に交代を余儀なくされたものの、その後欠場することなく、アルメリア戦とヘタフェ戦では途中出場していた。

 CLでも、久保のパフォーマンスに大きな違いはなかった。8試合中7試合に先発出場し、プレー内容は悪くなかった。しかし、ゴール、アシストともになく、唯一誇れるのはアウェーのレッドブル・ザルツブルク戦でブライス・メンデスのゴールをお膳立てしたのみ。注目を集めたパリ・サンジェルマンとの2試合にフル出場したものの、大きなインパクトを残せなかった。

 CLで成功を収めるのは難しい。そのため、久保が世界最高峰の選手であることを皆に認めさせるためには、もっとこの大会で実績を残す必要がある。そこで、誰もが納得する活躍を見せられれば、自ずと道は開けるだろう。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)

著者:ミゲル・アンヘル・ディアス●文 text by Miguel Ángel Díaz