Jリーグの公式サイトでは、現在「選手」「チーム」別のさまざまなデータが見られるようになっている。スタッツは多岐に分類されているのだが、それぞれを見てみると、今季序盤の各チームのスタイルや出来を裏づける、面白いランキングが続々と出てきた(※カッコ内の数字は、J1のなかでの順位/成績がいい順)。

【町田のスタッツはスタイルが如実に表われている】

 今季のJ1は第15節を消化し(ACLの影響で消化試合数が少ないクラブもある)、団子状態だったリーグテーブルもようやく上位、中位、下位と少しずつグループが分かれてきた。


現在J1首位のFC町田ゼルビア。公開されているデータには、そのプレースタイルがはっきりと表れている photo by Getty Images

 そのなかで、上位グループの先頭を走るのが昇格組のFC町田ゼルビアというのは、今季ここまでで最大のサプライズだろう。理由は明確で、25得点(2位タイ)、11失点(1位タイ)、クリーンシート数7(1位)と、攻守両面で優れた数字を残している。

 さらに町田のデータを見てみると、攻撃に関してシュート総数193(9位)、チャンスクリエイト総数161(11位)と、チャンスの数はリーグ中位ながら、ゴール期待値22.2(6位)、シュート決定率13.0(3位タイ)と、その質と決定力が高い得点力につながっているのがわかる。

 FWオ・セフンの空中戦勝利数152という圧倒的な数字はとくに目を引くが、個人スタッツのドリブル総数ではFW平河悠が58(2位)、FW藤本一輝が42(7位)と両ウイングの仕掛ける回数も目立っている。パス総数4687(20位)、平均ボール支配率43.2(19位)という数字の低さを含めると、前線のタレントを生かして効率よくチャンスを創出していると言える。

 守備では、被シュート総数178(6位タイ)、被枠内シュート数46(2位タイ)、PKを除いた被ゴール期待値13.3(2位)など、相手に与えるチャンスが少ない。さらに、ブロック数272(19位)、1試合平均ブロック数18.1(20位)も含むと、相手にシュートを打たせる前にボールを奪えているということなのだろう。

 町田は球際に強く、チーム全体でのハードワークをいとわない高強度なスタイルが特徴だ。それも空中戦勝利数355(2位)、1vs1勝利総数278(2位)、1試合平均被ポゼッション時の走行距離39km(2位タイ)、1試合平均走行距離117km(3位タイ)などの数字に色濃く表われている。印象と実際のスタッツが合致するのは、それだけスタイルが明確で、選手たちは再現性高く、忠実にタスクをこなしていることの証左だ。

【神戸はクロス攻撃が多い。大迫勇也のデータも独特】

 町田と勝ち点3差で2位につける神戸は、得点数24(5位タイ)、失点数11(1位タイ)、クリーンシート数6(2位タイ)と、町田同様に得点、失点の両面で優れ、上位にいるのは必然だ。

 攻撃で際立つのは、シュート総数231(2位)、ゴール期待値26.6(2位)、チャンスクリエイト数195(4位)とシュートチャンスのスタッツが非常に高い。ただ、町田とは反対にシュート決定率が10.4(10位)と中位クラス。少ないチャンスをものにする町田に対して、神戸はシュートチャンスを多く創出することで高い得点力につなげている。

 またクロス総数326(1位)も特徴だ。DF酒井高徳が65(2位)、DF初瀬亮が57(5位)と、両サイドバックからのクロスが攻撃で大きなウェイトを占め、FW武藤嘉紀も47(9位)とサイドの仕掛けから多くのクロスを供給している。

 守備では町田と同様に被シュート数や被ゴール期待値が低く、チャンスを与えていない。ただ、チームでブロック総数が322(4位)と高く、個人でも守備陣全体のアベレージが高い。町田のようにシュートを打たせないというより、全体で体を張ってシュートを防ぐ傾向がやや強いようだ。

 そして空中戦勝利数で375(1位)と町田をしのぐ。町田はオ・セフンひとりが突出しているが、神戸は大迫勇也66(4位)、マテウス・トゥーレル56(7位)、山川哲史49(14位)、佐々木大樹46(15位)と前線とセンターバックがともに強い。

 また、大迫はスルーパス総数(味方が最終ラインの裏に走り込むスペースを狙ったパス総数)が50(2位)と多く、空中戦も含めていかに大迫が前線で起点となっているかがわかる。

 その起点から武藤5.6(3位)、宮代大聖4.5(4位)、大迫4.3(7位)とゴール期待値(※PKを除く)の高い、クオリティある前線のタレントが相手ゴールへ襲いかかる。神戸もまた、印象と実際のスタッツが噛み合うスタイルの確立されたチームであることが伺える。

【鹿島はボランチの守備が高いレベルで機能】

 神戸と同勝ち点で3位の鹿島は、得点数が24(5位タイ)と高いが、町田や神戸ほど際立つスタッツは多くない。そのなかで目を引くのがシュート決定率13.0(3位タイ)だ。

 鹿島はシュート総数185(11位タイ)、枠内シュート総数49(16位)、ゴール期待値19.9(12位)とチャンスのスタッツは高くない一方、高い決定率によってゴール期待値を上回る得点数を叩き出している。

 振り返ればシュート数では相手よりも劣りながら競り勝ったり、追いついたりという試合が多い。第9節サガン鳥栖戦(2−4)、第13節東京ヴェルディ戦(3−3)で多くの失点を重ねたものの、そのほかの試合では少ない失点数で抑えられていることが、この順位の理由だろう。

 守備のチームスタッツで被シュート総数178(6位タイ)、被枠内シュート数51(6位タイ)、インターセプト総数31(5位)は十分に高スタッツと言えるが、それ以上に目立つのは個人のデータで、MF知念慶の存在だ。

 今季からボランチにコンバートされた知念はデュエル勝利数63(1位)、インターセプト総数11(2位)、タックル総数60(1位)、空中戦勝利数42(19位)と守備に関わるスタッツで軒並み高い数値を叩き出している。MF佐野海舟も守備のスタッツが高く、ボランチの守備が高いレベルで機能しているのがわかる。

【広島の不思議...16項目で一番のスタッツなのに】

 そんな町田、神戸、鹿島の上位3チームを、攻守にはるかにしのぐスタッツを記録するクラブがある。現在9位のサンフレッチェ広島だ。広島は1試合分消化が少ない状況だが、それにしてもスタッツの高さに対して勝ち点が思うように伸びていない。

 というのも広島はシュート総数、ゴール期待値など9項目で1位のスタッツで、被シュート総数系、被ゴール期待値系の7項目で1位と、優れた数字なのだ(原稿最後部にリストあり)。つまり計16項目で一番のスタッツを記録していることになる。しかもそのほとんどが得点、失点の数に直結するものだ。

 同じ計算で町田は3項目、神戸は6項目で1位であることから、いかに広島が抜きん出たスタッツなのかがわかるだろう。一方で気になるのはシュート決定率9.3(13位タイ)の低さと、被ゴール期待値12.4(1位)に対しての総失点数14(4位)である。

 シュート決定率が低いとはいえ、ゴール期待値27.7で25得点は十分だ。神戸もゴール期待値26.6に対して24得点。ただ、被ゴール期待値12.4に対しての総失点数14はともに絶対数こそ低いものの比率としては上位陣と比べると無視できない。

 町田は被ゴール期待値16.7、神戸は被ゴール期待値14.2に対して共に11失点と下回っている。広島は引き分けたほとんどの試合で、シュート数、枠内シュートで圧倒し、負けた第12節名古屋グランパス戦ですらどちらの数字でも凌駕している。

 勝ち点が思うように伸びていないのは引き分けの多さだが、神戸は紙一重で上回って勝ちきり、町田にいたってはゴール期待値を上回る得点を決め、クリーンシートを7つ重ねて今の順位がある。

 ちなみに広島とは対照的に決定率の高さで目立つのが、得点総数26(1位)のFC東京だ。シュート総数が171(16位)と少なく、ゴール期待値も17.8(15位)と低いにもかかわらず、シュート決定率15.2でダントツの1位。しかし、それを相殺するほどの失点総数(24失点・16位)となりながらも、総合順位は8位にとどまっている。

 町田と神戸の攻守に優れたスタッツは、改めて上位にいる理由がよく表れている。決定率で明暗を分ける広島と鹿島も面白い。今後も細かなスタッツに注目するのは、Jリーグの楽しみ方のひとつになりそうだ。

【主なデータのランキング】

<シュート決定率 ※上位10クラブ>
1位:FC東京15.2
2位:名古屋グランパス13.7
3位:鹿島アントラーズ13.0
3位:FC町田ゼルビア13.0
3位:サガン鳥栖13.0
6位:浦和レッズ11.4
7位:東京ヴェルディ10.9
7位:セレッソ大阪10.9
9位:川崎フロンターレ10.5
10位:ヴィッセル神戸10.4

<ゴール期待値 ※上位10クラブ>
1位:サンフレッチェ広島27.7
2位:ヴィッセル神戸26.6
3位:浦和レッズ25.4
4位:セレッソ大阪22.6
5位:横浜F・マリノス22.6
6位:FC町田ゼルビア22.2
7位:川崎フロンターレ21.9
8位:ジュビロ磐田21.3
9位:柏レイソル21.2
10位:東京ヴェルディ21.0

<デュエル勝利数 ※上位10人>
1位:知念 慶 鹿島アントラーズ 63
2位:見木友哉 東京ヴェルディ 45
3位:橘田健人 川崎フロンターレ 44
3位:鈴木雄斗 湘南ベルマーレ 44
5位:岡村大八 北海道コンサドーレ札幌 43
5位:藤原奏哉 アルビレックス新潟 43
7位:バングーナガンデ佳史扶 FC東京 42
7位:酒井高徳 ヴィッセル神戸 42
9位:伊藤敦樹 浦和レッズ 41
9位:松岡大起 アビスパ福岡 41

<サンフレッチェ広島のスタッツ1位項目>
シュート総数 268 
1試合平均シュート数 19.1 
1試合平均枠内シュート数 5.7 
1試合平均得点数 1.8 
タックル成功率 71.3 
チャンスクリエイト総数 220 
1試合平均チャンスクリエイト数 15.7 
1試合平均こぼれ球奪取数 39.9 
ゴール期待値 27.7 
被シュート総数 119 
1試合平均被シュート数 8.5 
被枠内シュート総数 35 
1試合平均被枠内シュート2.5 
数被ゴール期待値 12.4 
1試合平均被ゴール期待値 0.8 
被ゴール期待値 ※PKを除く11.6

著者:篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko