今季の千葉ロッテマリーンズは、浮き沈みが激しいシーズンを過ごしている。4月に6連敗したかと思えば、5月は引き分けを挟んで11連勝。特に、首位を独走するソフトバンク相手の3連勝は、今後のパ・リーグを占ううえでも印象的な勝利だった。

 6月9日時点で貯金6のリーグ2位につけるなど、「打倒・ソフトバンク」の筆頭であるロッテの今後はどうなるのか。現役時代に"幕張の防波堤"の愛称で知られた名投手、小林雅英氏に話を聞いた。


開幕から好調を維持するロッテの鈴木昭汰 photo by Sankei Visual

【昔から続く伝統のチーム独特の雰囲気】

 ロッテは11連勝もありましたが、「なかなか点が取れない」という課題を解決してないようにも映ります。連勝の内容も、投手が頑張ってなんとか追いついて、延長や土壇場で逆転......という苦しみながらの側面も強かった。

 打線については、(ネフタリ・)ソト、(グレゴリー・)ポランコという日本でも実績がある外国人打者の存在は大きいですが、逆に言うと2人に頼りすぎていることが気がかりです。だから日本人の野手陣は、それぞれが自分の色を出しながら、もっと危機感を持ってやってほしいと、OBとしては感じます。

 今季のチームの特徴は、接戦に強いこと。それは先輩方が作ってきた伝統であり、僕らが現役の時も続いていた、「後輩に伸び伸びプレーさせる環境がある」という部分が、多少なりとも影響しているかもしれません。野手でいうと中村奨吾や荻野貴司、角中勝也という中心となる中心選手たちが、その流れを継承している面はあります。いい意味で先輩に対してもタメ口で話したり、和気あいあいとした雰囲気があり、同じ方向に向いた時の一体感はすごくて、勢いでとことん勝てるチームになる。

 一方で、つまずいた時にそのままズルズルいってしまう、という悪い意味での伝統も続いている部分もしれませんね(笑)。交流戦に入ってからは、少しそんな印象もあります。広島の大瀬良大地投手にノーヒットノーランで敗れたり、巨人に18点取られたり......。ひとりの選手が強烈なリーダーシップを発揮するような、誰もが中心と呼べる選手が、もしかしたら今のチームにはいないのかもしれません。

【「もどかしさ」を感じる選手たち】

 個別の選手でいうと、捕手の佐藤都志也がある程度固定されるようになって、友杉篤輝がショートで存在感を発揮するなど、センターラインは固まりつつある。課題はあるにしても、ふたりとも成長が見えますね。特に佐藤は、守備面でのミスは批判されることもありますが、経験でよくなっていくポジションですし、"打てる捕手"という自分の強みは出せていると思います。

 その反面、外国人の前後を打つ安田尚憲、山口航輝、ケガの影響もある藤原恭大と、期待された選手がもうひとつ殻を破れないシーズンが何年も続いています。素材は間違いなので、もどかしさも感じますね。

 身も蓋もない言い方ですが、コーチ目線で言うなら、いい選手は勝手によくなっていくんです。結局は自分の意識づけと継続が大切で、そろそろ彼らもいいパフォーマンスを出さないといけない。そのために必要な自己分析が足りてないのかもしれません。期待している分だけどうしても厳しい意見になってしまいますが、ドラフト1位で上田希由翔(明治大出身、右投左打/内野手)を獲得したのは、安田や山口との競争を促したかったという意味合いもあるはずです。

 もうひとつ、中堅どころの中村や田村龍弘の奮起に期待したい。岡大海がいい活躍をしているだけに、プレーなのか、背中で見せるのか、チームを引っ張っていくという役割は彼らが担ってほしいですね。

 投手については、今年は安定した先発投手が4、5枚いることは大きいです。佐々木朗希、メルセデス、種市篤暉、小島和哉。あとはフィットしてきた西野勇士と、ここまでは計算が立っています。ここにもう1、2枚加えるために試しながらやっていて、ずっと期待されている高野脩汰、ベテランの美馬学、なかなかチャンスがもらえない唐川侑己、田中晴也もいいピッチングをした。

 個人的に大いに期待している、ドラ1の菊地吏玖もいます。ただ、先発と中継ぎでどちらつかずの起用をされているので、彼の使われ方も気になりますね。いずれにしろ、先発陣はある程度試合をちゃんと作ってくれているのは間違いない。それが今の順位にもつながっています。ただ、(C.C.)メルセデスはもう少し援護してあげてほしいです。今は1勝ですが、5勝くらいしてもいい内容なので。このあたりの噛み合わせは僕らが現役の時とあまり変わらずで、ロッテっぽいとは思います(笑)。

【リリーフ陣の評価は?】

 リリーフ陣は4年目の鈴木昭汰の台頭で印象が変わりましたね。彼のことはルーキー時代のキャンプでも見ましたが、今季の成長は著しい。あれだけの強い球を安定してストライクゾーンに投げられるように変わってきました。フォームのバランスも含めて、バラつきがなくなってきたのが今季の飛躍につながっていると思います(23試合に登板して防御率0.00)。

 松井裕樹投手(サンディエゴ・パドレス)と自主トレをしていたようですが、左腕同士で同じ景色を感じ取ったのかもしれません。方向性が明確になったという意味でも刺激を受けて、本人にとっていい経験になったのではないでしょうか。使い方が固定されると、もっといいパフォーマンスを引き出せるとも思います。

 クローザーも、益田直也の状態が少しずつ上向いて安定してきたので、僕としては経験値も込みで、しばらくは彼を後ろで使って様子を見るのではないかな、と見ています。ただ長期的に考えると、彼の後継となる投手をどう育てていくのか、ということはチームの課題でしょう。

 5年目の横山陸人などがその候補と言えますが、まだまだ技術的には不足していますし、「このボールでバッターに反応させたい」という意図が見えてこない。彼も強いボールはあるんですが、大事なのは、それをどういう意図を持って投げるか。3つのアウトをどう積み重ねるか、というプランニングに課題を感じますね。とはいえ横山投手も若いので、どう経験させていくのか、チームの育成方針も大切になってきます。

 吉井理人監督は、投手運用に関してはもともと定評がある方です。3連投をさせないし、適度に休ませる。いいパフォーマンスをいかに引き出すか、という点に長けているので、マネジメント面を考えても今季投手陣が大きく崩れる、というシーンは考えにくいです。あとは、打線が投手陣をいかに休ませられるか。投手目線だと、今季は序盤からキツい試合が続いているので、ここが改善していけば自ずと勝ち星はついてくるはずです。

 今後のポイントとなりそうなのは、西武と日本ハムとの対戦です。西武には大きく勝ち越し、日本ハムには大きく負け越している。この傾向はお互い意識しているでしょうし、長くは続かないと思います。そういった意味で、交流戦明けのソフトバンク、西武、日本ハムと、いずれもビジターの3カードでどんな成績を残すかで、チームとしての勢いが大きく変わっていくでしょう。

 この3つのカードの結果次第で大型連勝もあるし、逆に順位を大きく落とすこともある。どちらに転んでも驚きではないと思います。そんな中で交流戦明けのどこに重点を置き、どんなローテを編成するのかに注目すると、面白いのではないでしょうか。

【プロフィール】
■小林雅英(こばやし・まさひで)

1974年、山梨県生まれ。都留高から日本体育大、東京ガスを経て、1998年のドラフトでロッテから1位指名を受け入団。1年目は先発としても起用され、46試合の登板で5勝をマーク。3年目の2001年からクローザーとなり、2007年まで毎年20セーブ以上を挙げるなど活躍。「幕張の防波堤」の異名をとった。2008年からMLBのクリーブランド・インディアンスに移籍。おもに中継ぎとして57試合に登板。翌年も残留となったが、シーズン途中に契約解除。同年オフに巨人と契約するも1年で戦力外となり、オリックスへ移籍。ここでも結果を残せず、2011年限りで現役を引退。引退後はオリックス、ロッテでコーチを務め、現在はプロ野球評論家として活躍。

著者:栗田シメイ●文 text by Kurita Shimei