毎クール新ドラマが始まると主人公がどんなキャラクターなのか、どういうストーリーなのか、恋愛ドラマなら相手役とはどうやって出会うのか、考察系なら“伏線”はどこに張られているのか、木村ひさし監督のドラマならプロレスネタはいつ出てくるのか、バカリズムのドラマなら人生何周目かなど、人それぞれ注目するところは違うと思うが、SNSで話題になりやすいのは「このイケメン・美女は誰?」という青田買い的なポイント。だからこそ特に年末年始や成人の日前後、新年度の時期などに“ネクストブレイク候補”だったり、“スターの原石”だったり、そういった言葉で若手俳優をくくって紹介する記事が多い。前置きが長くなったが、そのセオリー通り今回紹介したい「この美女は誰?」俳優は、“月9”ドラマ「366日」(フジテレビ系)で主人公の相手役・水野遥斗(眞栄田郷敦)の妹・花音を演じている中田青渚(せいな)だ。4月24日にスタートしたディズニープラス「スター」オリジナルドラマシリーズ「フクロウと呼ばれた男」でも、主人公家族の末っ子という役柄で出演しているネクストブレイク候補の魅力に迫る。

■グランプリを機に芸能界デビュー

中田は2000年1月6日生まれ、兵庫県出身の24歳。2014年に漫画誌「Sho-comi」主催の「第5回Sho-comiプリンセスオーディション2014」でグランプリを受賞した。と言っても、芸能界への憧れで応募したというわけではなく、「図書カード3万円分が欲しかった」という何とも実用的な理由だ。ただ、そんな逸材を芸能界が放っておくわけがなく、今の事務所の目に留まって芸能界入り。ドラマ初出演は、2016年1月に放送された「ラーメン大好き小泉さん2016新春SP」(フジテレビ系)での煮干山薫子という、いい出汁が出そうな名前のキャラクター。“ラーメン王子”を取り巻く親衛隊の女子という役どころだった。

2017年には神木隆之介主演の映画「3月のライオン」(後編)に出演し、神木演じるプロ棋士の少年・零が交流する三姉妹の次女・ひなた(清原果耶)のクラスメイト・高城めぐみ役を務めた。めぐみは、ひなたにいじめを仕掛ける“主犯格”の少女で、一部の映画ファンからは「ひなたもいいけど、いじめっ子役の子が気になる」という声も上がった。

初の連続ドラマレギュラー出演は、教師と中学生の恋模様を描くというセンセーショナルなドラマ「中学聖日記」(2017年、TBS系)。晶(水上恒司)のクラスメイトで、クラス一の美少女・香坂優をみずみずしく演じた。その後も2018年の映画「ミスミソウ」では再びいじめっ子の役、2019年公開の映画「見えない目撃者」では“JKリフレ”で働いていて少女誘拐事件の被害者になる役と、一癖も二癖もある役を見事に体現してきた。

■「第43回ヨコハマ映画祭」で最優秀新人賞

そして2021年には「街の上で」「あの頃。」「うみべの女の子」の3作品での演技が評価され、「第43回ヨコハマ映画祭」で最優秀新人賞を獲得。一部の映画・ドラマファン、業界関係者以外にも広く目が留まる存在になった。

2022年には「善人長屋」で連続ドラマ初主演を果たしたが、個人的にそれ以上にインパクトが大きかったのは、2023年に放送された眞島秀和が主演の「しょうもない僕らの恋愛論」(日本テレビ系)で演じた女子高校生・谷村くるみだ。くるみは眞島演じる筒見拓郎が大学時代に思いを寄せた谷村安奈の遺児で、母と瓜二つという設定のため中田が一人二役を務めた。回想シーンでの“クラスのマドンナ感”たっぷりな雰囲気、現代パートで母が恋をした拓郎への“感情の変化”を繊細な演技で表現した。

最初は「ただのおじさん」という印象だったのだが、関わっていくうちに拓郎に心がひかれていくくるみ。ドラマのセオリー的には絶対うまくいかないことは分かっているけど、くっついて欲しいと思ってしまうほど魅力たっぷりな役で、彼女目当てで最終回まで見たと言ってもいい。オーディションでゲットした役柄だそうだが、23歳で17歳を演じたのも全く違和感なかったし、相手役の眞島との年齢差も余裕で超越してストーリーに没入させる存在感に脱帽だ。

それまでも年1、2作くらいずつ映画・ドラマにコンスタントに出演していた中田だが、同ドラマあたりから出演作が急増。2023年は単発ゲスト含めドラマ7本、映画1本に出演した。中でも注目を集めたのは、ヒロインの一人を務めた「だが、情熱はある」(日本テレビ系)だろう。主人公の一人・若林(高橋海人)が好きになる女性・橋本智子役で売れずに悩む若林をいちずに応援、理解し、励ますというキャラクターを爽やかに演じた。

■「366日」で主要キャラの妹役

そして、「オーディションを受けたことがあり、いつか出演したいと思っていました」と目標にしていた“朝ドラ”「らんまん」にも出演するなど、2023年の飛躍を経て、さらなるブレイクを予感させる2024年4月クール。月9ドラマ「366日」では、2話から登場し、早速見せ場が。転落事故で意識がない兄の恋人であり、自分も知らない仲ではない明日香(広瀬アリス)に対して「もうここ(病院)には来ないでもらえるかな」と冷たく言い放つ。しかし、それも意地悪で言っているわけではなく、これから始まる“先の見えない生活”で「苦労するのは家族だけで十分」と思っていたからこその発言だ。ちょっと不器用だけど家族思いで心優しい女性、というのが一発で伝わってきた。

また、24日にスタートした国家の裏側・タブーに切り込んだ社会派政治ドラマ「フクロウと呼ばれた男」では、あらゆるスキャンダルやセンセーショナルな事件を、時にもみ消し、時に明るみにさらして解決してきた黒幕/フィクサーである“フクロウ”こと主人公・大神龍太郎(田中泯)の次女・理沙子を演じている。

大神家の末っ子で、恐らく甘やかされて伸び伸び育ったんだろうなと感じさせる雰囲気、歌手を目指してひたむきに頑張る姿、年上彼氏の前で見せる“甘さ”のバランスも良く、年の離れた兄姉にはやや距離を感じているものの、年の近い兄・龍(新田真剣佑)のことは慕っている節がある美少女を好演している。総理大臣にすら気後れせず意見を言える父・龍太郎もなかなか言いたいことが言えない感じで、ネックレスをプレゼントするシーンのやりとりは特にほほ笑ましかった。

■抜群の歌唱力でブレイクの予感

今作で特筆すべきはその声。劇中で絢香のヒット曲「I believe」をお偉いさんたちの前で披露しているが、この歌声がまたカラオケ的な絢香のモノマネという感じではなく、アーティストがカバーしているような歌い方で驚いた。もともと演技のほうでもかわいらしい声が魅力的ではあったが、あらためてその声の魅力にひかれた。ドラマ内でオリジナル曲も披露しているが、これまた違うテイストの楽曲を魅力的に表現している。演技だけでなく、彼女の声にも注目してみてほしい。

龍太郎のようなフィクサーじゃなくても、その活躍をひそかに後押ししたくなる存在感を持つ中田。こじつけではあるが、この春は「フクロウと呼ばれた男」で新田真剣佑の妹役、「366日」では眞栄田郷敦の妹役という不思議な偶然も…。今後のドラマ・映画界に欠かせない存在になる予感がするし、何なら音楽活動のほうも期待してみたい。

◆文=森井夏月