公開中のNetflix映画「シティーハンター」。1985〜1991年に「週刊少年ジャンプ」で連載され、アニメ化もされて世界でファンが多い本作。東京・新宿でボディーガードや探偵などを請け負うスイーパー“シティーハンター”の活躍を描くハードボイルドコメディだが、本作では、冴羽リョウ(※「リョウ」は「僚」の“にんべん”が“けものへん”)と槇村香の出会いそして2人が唯一無二の相棒となるきっかけの物語を、オリジナルエピソードを交えて描く。今回は、冴羽リョウを演じた鈴木亮平と槇村香を演じた森田望智に作品の魅力、世界配信についての意気込みなどを直撃インタビュー。

■より原作に近い「シティーハンター」に
――鈴木さんは原作・アニメの大ファンだったと聞きましたが、長年多くの人に愛されている「シティーハンター」を実写化する上でプレッシャーなど感じましたか?

鈴木 世界の全世代の人に楽しんでもらう作品を作らなきゃいけないというプレッシャーは大きかったです。実はこれまでも「シティーハンター」は香港、韓国、フランスで実写化されていて、中でもフランス版はすごく出来がよくファンの中でも人気なんですよ。ただフランス版はアニメに重心を置いて実写化されていて、今回の僕らの作品とは少し違う。僕らは北条司さんが描いた原作マンガを大切に、マンガにアニメのいいところを取り入れて組み合わせて作っています。よりオーセンティックで原作に近い、「シティーハンター」らしさを楽しめる作品になったと思います。

森田 私は最初にお話をいただいた時は恥ずかしながら「シティーハンター」を知らなかったんです。今回のことがきっかけでマンガを読み、アニメを見たら、役づくりを忘れて純粋に作品のファンになってしまいました。そして作品の魅力を知れば知るほど、ファンの方に喜ばれるにはどうすればいいかと葛藤が出てきて…。でも皆さんと一緒に作っていて、日本にしかできない良さが絶対にあると信じていましたし、できあがったものを見ると、海外の方にも自信を持ってお届けできるものになったと思います。

――今回は冴羽リョウと槇村香がバディになる前の“始まりの物語”が描かれました。

鈴木 ストーリーは原作から結構変えているんですよ。2時間で「シティーハンター」の骨格の部分をどう伝えられるかを考えた結果、この形になっています。ただ作品の持つの核となる部分をブラさず、楽しさとかっこよさを大切にしました。

森田 2人がバディを組む前の、きっかけを描いた話なので、より色んな方に楽しんでもらえると思います。原作を知っている方も描かれていない部分ですが、お兄ちゃんが亡くなったとき香ちゃんはこういう気持ちでいたかもしれないということがわかる物語になっているはず。ぜひ原作ファンの方の感想を聞きたいなと思います。

■“もっこり”のニュアンスを海外にどう伝えるか
――「シティーハンター」といえば、“もっこり”など冴羽リョウならではのユーモラスな性的表現があったりしますが、全世界配信をする上でそのあたりの表現についてどのように考えましたか?

鈴木 表現方法はかなり考えました。“もっこり”に関しては、日本語以外だと訳せないんですよ。下半身が膨らんでいるという意味をかわいらしく表現している言葉で、そのニュアンスって多分日本語でしか出すことができなくて…。ただ、伝わりにくいという理由で“もっこり”をなくしたら「シティーハンター」じゃない…。とりあえず海外の方に微妙な意味までは伝わらなくても、なんとなくの感覚を楽しんでもらえたらと思い、そのまま使用しています。まぁその結果、かなり連呼しているんですが(笑)。やはり原作から時代が流れて、今だと完全にアウトな行動を原作のリョウはたくさんしているんですよ。

森田 私もリョウさんはめちゃくちゃカッコよくて大好きなんですが、原作を読んでちょっと驚きました(笑)。

鈴木 実は原作からアニメ化する際にも、かなりマイルドな表現にしているんですよ。アニメ化した方たちのインタビューを昔から読んでいるんですが、アニメ化するときにも、もっこりのビジュアル的な表現を避けていたり、リョウが性的な行動を取ると必ずリョウは香から制裁を受けるというようなルールを作っていて。そのアイデアは今回もすごく参考になりました。
これまで「シティーハンター」に関わった方たちがより見やすい、多くの人に愛される作品に進化させてきて、それを僕たちも今に合わせてブラッシュアップしたという形になっています。ちなみに今作は、リョウは相手の同意なしに不用意に女性を触らないというルールを設けています。当時はそこまで問題にならなかったとはいえ、今の人たちが冴羽リョウを嫌いになるようなことはやりたくないという思いがあって…。時代には合わせる、けれど原作の魅力は絶対に消さない、というバランスを心がけました。

森田 令和の映像作品としてどこまで表現すべきか?というのはすごく皆さん意識したところで、私も正直心配がありました。でも実際に完成したものを見たら、そんな心配は吹き飛んでいきました。イチ女性として観ても嫌悪感なく、でも「シティーハンター」らしさの表現もあって。安心と同時に驚きました。

鈴木 「シティーハンター」らしさを消したくなかったんですよ。それは関わった人みんな同じで。「シティーハンター」愛があったからこそできた作品だと思います。
■マンガ的な世界観だからこそ、ディテールにこだわる
――本作の魅力はなんといっても冴羽リョウと槇村香のキャラクターにあると思いますが、それぞれの魅力はどこにあると思いますか?

鈴木 なんといっても二面性ですね。ふざけているところとシリアスなところがここまで振り切っている主役のキャラクターって僕は見たことがないんですよ。その振り幅が日本のマンガならでは。だって裸踊りをしていても、股間にウマの着ぐるみを着けていていてもカッコいいんですから。そんなキャラクターいますか?

森田 本当にリョウさんはカッコいいですよね。でも負けず劣らず香ちゃんも魅力的で。チャーミングなのはもちろん、正直で愛情深くてパワフルでけなげで…と言い出したら切りがないくらい。中でも今回の香ちゃんは、強固たる意志の強さを感じました。絶対に兄の仇を私が取るんだと思っていて。守ってもらうのではなく、私が守る、私が戦うと主語が“私”なんですよ。心が折れそうなシーンはもちろんありますが、それすら乗り越えていく香ちゃんは魅力的でした。

――そんな魅力的な2人を演じる上で気をつけた点を教えてください。

鈴木 バランスですかね。振り幅の大きい二面性があるということは、マンガ的な表現が強いからこそなんだと思います。「シティーハンター」の存在を知っていたり、マンガ・アニメ文化に慣れている日本の視聴者はその振り幅を多分許容してくれるけど、海外の視聴者はよりリアリティを求めるのでどう感じるのだろうか…。そこはすごく考えたのですが、結果的には日本の視聴者が許容できるマンガやアニメっぽさを残したキャラクターにしました。やはりリアルにし過ぎたら冴羽リョウらしさが失われてしまうので…。冴羽リョウの魅力を知っているからこそ、さじ加減は難しかったです。

森田 私もリアルな部分とマンガ・アニメ的な部分をどう融合させられるかはかなり考えました。マンガに寄せすぎると生身の人間に見えないし、リアルになるとみんなが知っている香ちゃんではなくなってしまう…。そんな中、大事にしたのは香ちゃんの気持ちです。もちろん不安もあるのですが、それと同時にやってやるぞという相反する気持ちを素直に表現しました。

■一番教えたのはハンマーの振り方かも
――アクションも盛りだくさんですが、こだわった点を教えてください。

鈴木 マンガ的な世界観だからこそ、銃の扱いはディテールにこだわりました。やはりリアリティを踏まえた上でケレン味を出さないと効果的ではないので。これも二面性ですよね。現実世界ではありえないアクションも多いですが、遊びではないんだぞとシリアスでリアルに演じています。

森田 香ちゃんはアクションをしているというより、がむしゃらに気持ちだけで乗り切っているイメージで。サポートする余裕もないし、戦っているという感覚もない。ただ、不思議とあうんの呼吸がある2人だから、リョウさんをサポートしているように見えてくる…。そう見えるようには意識しました。細かい部分は、亮平さんを含めアクション監督と話し合いながら作っていった感じです。

――鈴木さんからどのようなアドバイスがあったのですか?

森田 香ちゃんはリアクションより先に言葉が出てしまうタイプで、それはアクションも同じとか、一生懸命さを大事にしたら香ちゃんらしいアクションになるとかですかね。キャラクターについてもいろいろて教えて頂きました。

鈴木 一番伝えたのはハンマーの振り回し方かも。

森田 香ちゃんの代名詞であるハンマーは亮平さんに教えて頂きました! ハンマーはかなり大きいのですが、自ら操っている雰囲気を出すことが大事とアドバイス頂いたので、何度も練習していたら、最終的にしっくりきて、これこそ香ちゃんだと思えたのでよかったです。実はハンマーは最初マンガを読んでいたときからどう表現するんだろうと不思議だったんです。でも現実世界でも違和感がない設定になっていて、こんなにすごいアイデアあるんだと感銘を受けました。

■作品にとって核となる部分を絶対にブラさない
――人気作品を実写化する上で大事にしていることを教えてください。

鈴木 作品にとって核となる部分があるので、そこだけは絶対にブラさずに大切にすることです。今回だと、槇村(安藤政信)が死んだことに対しての喪失感をリョウと香が共有していることや、リョウと香の絆が少しずつ深まっていくところなどは大事にしました。あとはキャラクター性です。リョウは正義のヒーローで何を考えているか顔に出さず、説明はしないけれど燃えているものを持っていて正義感が強い。香は思っていることを表に出すけれどリョウと同じくらい正義感が強い。全然違う2人だけれど根底は一緒というところはきちんと表現したかったです。

森田 私自身、実写化の経験がほとんどないのですが、演じ方は変えず、キャラクターを大事にしました。もちろんマンガだとオーバーに描かれていることもありますが、キャラクターの根底を理解して齟齬がない演技ができれば、1人の人間として成立するんじゃないかと意識しました。

鈴木 ファンの方が見たとき、分かってないじゃんと思われるのが一番イヤですし、自分もファンだったらガッカリするんですよね…。今回は、槇村と冴子(木村文乃)の関係とか詳しくは描いていないですが、原作を知っているからこそ出せる表情ってあると思うので、1シーンでもそこのディテールは大事に表現しています。そしてその上で、原作も知らない人も楽しめる作品になることも意識して作ったので、多くの方に楽しんでもらえると思います。

――最後に見どころを教えてください。

鈴木 もうひとつの主人公である新宿という街を舞台にしたり、アニメ版のエンディング曲だったTM NETWORKの「Get Wild」を使用したりと、日本が作る実写化の「シティーハンター」の一つの形を提示できたと思っております。もちろんNetflixなので海外向けでもありますが、まずは日本の方に喜んでいただきたいです。僕としては、裸踊りのシーンなどコミカルパートも見ていただきたいですが、次第にリョウと香の息が合っていく2人のアクションにも注目していただきたいです。2人がパートナーになっていく感じが伝わるといいなと思います。

森田 令和に“シティーハンター”がいたらこんな2人だったんだろうな、と想像できる作品になっています。シリアスのコメディの振り幅が大きく、そのミックス加減が見ていて飽きないと思います!

鈴木 まずは気負わずに見ていただきたいです。楽しいと思いますよ。

取材・文=玉置晴子
撮影=宮川朋久