「ハリー・ポッター」シリーズの“闇の魔女”ベラトリックス・レストレンジ役や「アリス・イン・ワンダーランド」シリーズの“赤の女王”役などでおなじみの英国女優ヘレナ・ボナム=カーターが、5月26日に58歳の誕生日を迎えた。作品によってさまざまな顔を見せる…どころか、徹底した役作りでもはや同じ人には思えないほどの変容ぶりを見せる“個性派女優”の彼女が人気を集める理由を探ってみたい。

■「レディ・ジェーン/愛と運命のふたり」で脚光

1966年5月26日、英国ロンドンの郊外ゴールダース・グリーンで生まれたヘレナは、1983年にテレビ映画でデビューし、1986年の映画「レディ・ジェーン/愛と運命のふたり」と「眺めのいい部屋」で注目される存在となった。「レディ・ジェーン」は16世紀のイングランド王国でわずか“9日間のイングランド女王”となった少女の実話に基づく物語で、ヘレナは主人公のジェーン・グレイを演じている。日本では劇場未公開の作品だったが、1988年に映像ソフト化された。「眺めのいい部屋」はE.M.フォスターの同名小説を映像化したもので、第59回アカデミー賞では最多8部門にノミネートされ、3部門を受賞した名作。20世紀初頭のイギリス、良家の令嬢であるルーシーは旅で訪れたフィレンツェで出会った青年ジョージに引かれていく…。格調高さを感じる美しい映像が魅力的で、ルーシーを演じたヘレナの美しさとみずみずしさも際立っている。

1990年にはウィリアム・シェイクスピアの代表作の一つ「ハムレット」の映画化作品に出演。メル・ギブソンがハムレットを演じており、ヘレナはオフィーリアを好演した。1992年には「ハワーズ・エンド」に出演。この作品は「眺めのいい部屋」「モーリス」に続いて、E.M.フォスターの小説をジェームズ・アイヴォリー監督が3度目の映像化となる作品で、ヘレナは「モーリス」にカメオ出演しているので、3作連続での出演となった。

1990年代、テレビ映画の「暗殺調書」(1994年)で第51回ゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミニシリーズ・テレビ映画部門)にノミネートされ、同じくテレビ映画「エクスカリバー 聖剣伝説」でプライムタイム・エミー賞の助演女優賞(ミニシリーズ・テレビ映画部門)と第56回ゴールデングローブ賞の助演女優賞(ミニシリーズ・テレビ映画部門)にノミネートされるなど、その演技力の高さをいろんなところで評価されている。その中でも1997年の映画「鳩の翼」は、ヘンリー・ジェイムズの同名小説を映像化したもので、演じたケイトがハマり役となり第70回アカデミー賞で主演女優賞にノミネートされている。1999年に公開されたブラッド・ピットとエドワード・ノートンの共演で話題となった「ファイト・クラブ」でも、ブラッド・ピット演じるタイラーの恋人“マーラ”を演じたヘレナも強烈な印象を残している。

■ティム・バートン監督作品の常連に

2001年公開の「PLANET OF THE APES/猿の惑星」に出演。1968年のSF映画の名作「猿の惑星」をティム・バートン監督がリ・イマジネーション(再創造)した作品で、類人猿と人間が対等に暮らせる理想の世界を目指し、人間に手を差し伸べるチンパンジー“アリ”を演じた。2000年代は「PLANET OF THE APES/猿の惑星」に始まり、「ビッグ・フィッシュ」「ティム・バートンのコープスブライド」(コープスブライドの声を担当)、「チャーリーとチョコレート工場」といったバートン監督の作品に多く出演し、2007年の「スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師」でミセス・ラヴェットを演じて第65回ゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)にノミネート。バートン監督が描く世界観に欠かせない存在となっていた。

2010年公開の「アリス・イン・ワンダーランド」での“赤の女王”もハマり役の一つ。同作はルイス・キャロルの小説「不思議の国のアリス」をモチーフに、主人公・アリスのその後の冒険を描いたオリジナル・ストーリーを、鬼才・バートン監督とジョニー・デップが再びタッグを組んで映画化したもの。19歳に成長したアリス(ミア・ワシコウスカ)が、迷い込んだワンダーランドで独裁者・赤の女王(ヘレナ)から平和を取り戻す戦いに巻き込まれていく―。

大きな頭とインパクトの強い赤いハート型のヘアースタイル、残忍で「首をはねよ!」が口癖の赤の女王は、個性的なキャラぞろいの作品の中で強烈さは誰にも負けてない。赤の女王のメイクは毎回3時間がかりで行われていたそうで、ディズニープラスでは本編のみならず彼女の早送りメイクアップ風景も配信されている。

そして続編となる2016年公開の「アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅」でも、その個性は健在だった。自身の代表的な役の一つである赤の女王について、続編で再演する際にヘレナは「赤の女王を演じるのは大好きなの。彼女の役はギフト」と喜びを明かしていた。

赤の女王と並ぶ、ヘレナにとって重要な役は「ハリー・ポッター」シリーズの“ベラトリックス・レストレンジ”。ヴォルデモート卿に付き従う強力な闇の魔女で、2007年のシリーズ第5弾「ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団」から登場。2009年の「ハリー・ポッターと謎のプリンス」、2010年の「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1」、映画「ハリー・ポッター」シリーズの最終作となる2011年の「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」の4作に出演した。

特殊メイクも含め、徹底した役作りで作品ごとにいろんなキャラクターを体現している“個性派カメレオン俳優”。どんな役でも見た人の記憶に残るインパクトがあり、演技力の高さから“存在感”もしっかりと感じることができる。誕生日をきっかけに、過去作品を見て、いろんなヘレナを楽しんでもらいたい。

◆文=田中隆信