例のウワサ、ホンマでっか? プロ野球開幕からもうすぐ1か月。各球団とも対戦カードが一回りし、それぞれのチームの輪郭もおぼろげながら見えてくる頃合いだ。新たなシーズンが始まる度に話題を呼ぶのが「今年のボールは飛ぶ」「今年のボールは飛ばない」といった議論。12球団の総本塁打数のペースが例年より減少している今季だが、実際にプレーしている選手たちはどう捉えているのか? 12球団最多となるホームラン数をマークしている阪神の選手たちに片っ端から聞いてみると――。

 今季開幕から7カードを消化し、12球団の1試合当たりの平均本塁打数は「0・42」。これは2023年シーズンの「0・73」。22年の「0・76」と比較すると明らかに減少傾向。ちなみに21年の1試合当たりの平均本塁打数は「0・84」だけに、投高打低のトレンドが年々進んでいることは、この数字からもうかがえる。

 このままでは今季終了後の総本塁打数が昨季と比較して半減…という結末もあり得そうだ。野球の華でもあるホームランが極端に減ってしまうと、競技そのものの魅力も損なわれてしまうだけに問題は深刻だろう。NPBは11年にWBCなどの国際試合への対応を目指しミズノ社製の「統一球」を導入。ボールが極端に飛ばない時代へ突入してしまい、多くの選手たちが対応に苦しんだ過去がある。

 野球ファンの間でも、SNS上などで「今年は〝飛ばないボール〟を使っているのでは?」という議論が白熱。ならば現場で実際にプレーしている選手たちの肌感覚はどうなのだろうか。現時点で12球団トップの本塁打数を記録しているのは阪神。21試合で13本塁打を放っており、1試合当たりの本塁打数は平均を大きく上回る0・63となっている。

「今年のボールは飛ばない疑惑」について、現役の虎選手たちに話を聞いてみた。まずはここまでリーグトップタイの4本塁打をマークしている森下。「今のところ、そんなふうに感じることはありませんね。オープン戦では『あれ、伸びないな』ってことがありましたが、今思えば自分が差し込まれていただけだったので。それよりも投手のレベルが上がってるってことじゃないですか」

 次は球界屈指の飛距離を誇る、虎の規格外砲・佐藤輝。「うーん。言われてみればスタンドに入ってほしかったなって当たりはありましたけどね。でも、それ以上にピッチャーのレベルアップかなと思いますよ。平均球速も上がっていますしね。カード頭で投げてくる人なんか、みんなすごいっすよ」

 続いては虎の扇の要・梅野。「(ボールが)飛ぶ、飛ばないよりもピッチャー一人ひとりの質がどんどん高くなってますよ。中日の中継ぎなんかも全員が150キロ以上の球速を出してくる。打席に立っていれば変化球の精度や質も年々高くなってきているのを感じますね」

 3選手とも「ボールが飛ばない説」には否定的。「NPB投手の全体的なレベルアップが背景にあるのでは」との見解で一致している。

 本紙評論家の金村暁氏も「球場で見ていても『今年のボールが飛ばない』と感じたことはほとんどない」と断言。16年から22年の7シーズン、阪神のコーチを務め、投手たちのレベルが飛躍的に上がっていく姿を指導者として目撃してきたことで「まずは各球場のマウンドがブラックスティック(粘土質の黒土)の導入により固くなったことで、平均球速がグッと上がった。投球動作につながる筋力トレーニングなどが飛躍的に発達したことも大きい。他にも間合いを外すクイックなどの時差投法などを駆使する投手がここ数年で一気に増えた。2段モーションの解禁などルールが投手有利になっていることもあるのでは」と力説する。

「だってまだ開幕してやっと対戦が一回りでしょ。結論を出すのは早すぎますよ」とは梅野の言。本塁打数の減少を、ボールだけのせいにするのは少々横暴なのかもしれないが、果たして〝飛ぶ、飛ばないボール論争〟の決着はつくか――。