2023年3月、青森県八戸市の「みちのく記念病院」で、入院患者の男性が殺害された事件で、殺人罪に問われた本籍五戸町、住所不定、無職の被告(58)は13日、青森地裁(藏本匡成裁判長)で開かれた裁判員裁判初公判で、起訴内容を認めた。弁護側は心神喪失状態だったとし、無罪を主張。一方、検察側は責任能力は認められるとし、動機について「病院から抜け出すためだった」と指摘した。判決は7月1日。

 起訴状によると、被告は同年3月12日午後10時45分ごろから同11時45分ごろまでの間、同病院の病室で、隣のベッドに寝ていた同市の無職男性=当時(73)=の体に乗り両手で首を押さえつけ、左目付近に歯ブラシの柄を突き刺すなどし、翌13日に頭蓋内損傷・失血で死亡させたとされる。

 公判の争点は責任能力の有無や程度。被告が当時、非社会性パーソナリティー障害だった点に争いはないが、検察側は「責任能力に影響しない」と主張。弁護側は「障害の影響で善悪の判断ができず、犯行を思いとどまれない状態だった」とし、責任能力がなかったと訴えた。

 検察側は冒頭陳述で、動機について「病院生活に嫌気が差していた被告は、どうしても病院を抜け出したかった。重大犯罪を犯せば通報され、病院を出られると考え、殺人を決意した」と説明。看護師が退室したのを確認した後、パジャマの胸ポケットに入れていた歯ブラシで寝ていた男性の顔を突き刺したり、電気シェーバーの刃を首に押し当てたりして暴行した−とした。

 弁護側は、被告が事件直後に動揺した様子がなかった点などから「何らかの違和感を感じる」と強調。被告には「処罰ではなく、治療が必要。当時の精神状態を十分考慮し、治療する方策がないか検討してほしい」と裁判員らに求めた。

 被告は午前10時前、車椅子に乗り、上下青のジャージー姿で青森地裁の第1号法廷に入廷。検察官による起訴状の朗読が終わり、藏本裁判長に「いま読み上げた事実について、何か述べておきたいことはありますか」と問われると、「いえ、特にないです」とはっきりとした声で答えた。