三崎・海南神社の例大祭で神輿や山車を先導する行道(お練り)獅子を化粧直しする人がいる。今夏、本年番を務める仲崎区から修復の依頼を受けた仏師の梶谷叡正さん(74)は、GWも休むことなく、横須賀市秋谷にある作業場で手を動かしていた。再び輝きを取り戻した雄雌一対の獅子頭がまた、下町に活気をもたらす。

この道60年、今も修行中

15歳で仏師だった父に弟子入りした梶谷さん。この道60年にもなるが、「一人前とは一人に成る前。一人に成れるのは死んだ時。自分の生涯を懸けて一人に成るための修行を続けなさい」という今は亡き父の言葉を胸に刻み、全国の社寺に仏像を納め、また修復にも取り組んできた。

「子どものよう」

彫刻から漆塗り、金箔押し、彩色まで全て1人で手掛ける。海南神社の獅子頭は、花暮区が本年番だった1992(平成4)年に自ら製造した。

材料は樹齢300年にも及ぶクスノキ。縦横50cmの獅子頭が4つ収まる大きさの丸太を角材にした後、鑿(のみ)で荒彫り。「一彫り間違えば取り返しがつかない」と少しずつ彫刻刀を小さくしていきながら、頭の中で思い浮かべたイメージを最初から最後まで崩さず、慎重に削っていく。気温管理や木の乾燥具合にも細心の注意を払うため、完成には1年以上を要した。「他の祭りとは違って、飾ったり、踊ったりするわけでなく、激しい動きが特徴の行道獅子。すぐに壊れないように厚みを残した」という重量感のある頑丈な作りだ。32年経ったが、以前の獅子頭は1921(大正10)年製で70年使用された。

ただ、頑丈とはいっても2日間下町を練れば、所どころにヒビや剥がれが生じるため、”生みの親”である梶谷さんが祭りの前に修復を施すのが恒例となった。今年は4月中旬に獅子頭が届き、1カ月ほどで元通りに。「海南神社の祭りは威勢が大事。キズが付くことは気にせず、本番に臨んでもらいたい。獅子頭は私の子どものよう。ずっと面倒をみていくので心配しないでほしい」と慈愛に満ちた瞳で語った。

これを受け、仲崎区の祭礼委員長を務める宮川修司さん(72)は「大変心強い。下町の繁栄のため、それでは遠慮なく、勇ましく練る獅子で魅せたい」と盛大な祭りになることを約束した。

「海南神社夏例大祭」は7月13日(土)・14日(日)に開催。下町各区が持ち回りで務める年番は「獅子番」を仲崎区、「神輿番」を西海上区、「つけ神輿」を日の出区・魚河岸(小若会)が担当する。