規模の大小にかかわらず、官民問わず、うまくいかないプロジェクトにありがちなのは計画立案において、「なぜそれをするのか」という「問い」が「答え」よりも後になり、「目的」と「手段」が混同するケースだ。

世界中のメガプロジェクトの「成否データ」を1万件以上蓄積・研究するオックスフォード大学教授が、予算内、期限内で「頭の中のモヤ」を成果に結びつける戦略と戦術を解き明かした『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』より一部抜粋、再構成してお届けします。

「なぜそれをするのか」をまず固める

世界に誇る建築家のフランク・ゲーリーは、けっして答えから始めない。「私はタルムード(ユダヤ教の経典)を読んで育った」と、私が2021年にインタビューしたときゲーリーは語ってくれた。「タルムードは問いから始まる」。これはユダヤ教では当然のことだと彼は言う。「ユダヤ人はどんなことにも疑問を投げかけるんだ」

ゲーリーの言う「疑問を投げかける」とは、猜疑(さいぎ)や批判ではないし、ましてや攻撃や破壊でもない。学びたいという、開かれた心を持って問いかけることだ。ひとことで言えば、「探究」にあたる。

「好奇心を持つんだ」と彼は言う。「見たものがすべて」だと錯誤してしまう、人間の自然な傾向の正反対である。ゲーリーは、もっと学ぶべきことがあるはずだという前提に立ち、おかげで錯誤の罠に陥らずにすんでいる。

このスタンスで、ゲーリーはクライアントに会うと、最初にじっくり時間をかけて話し合う。といっても、雑談や社交辞令を交わすのとは違うし、ゲーリーはクライアントとの打ち合わせの際、湧き上がるビジョンを語ったりはしない。

ゲーリーがするのは、問いかけだ。好奇心だけを持って、クライアントのニーズや願望、恐れなど、彼らがゲーリーのドアを叩くきっかけとなったあらゆることを聞き出している。そしてこの会話は、単純な問いから始まる。「なぜこのプロジェクトを行うのですか?」

プロジェクトがこのようにして始まることはほとんどない。だがすべてのプロジェクトがそうあるべきだ。