世界最古の木造建築である法隆寺。しかし世界には、西暦607年に法隆寺が建てられるはるか前から存在するピラミッドや大聖堂などがあり、それらはすべて石造建築です。本稿では新著『教養としての西洋建築』を上梓した国際的な建築家である国広ジョージ氏が、建築を通して見える「木の文化」と「石の文化」の違いについて解説します。

建築とは人が使う「空間」をつくること

人類が自らの手で「シェルター」を建築するようになったのがいつなのか、僕は考古学者ではないのでわかりません。おそらく石器時代の狩猟採集民は、天然の洞窟で身を守りながら暮らしていたのでしょう。

当然、これはまだ「建築」とは呼べません。洞窟そのものは、単なる自然の一部です。でも、それを人間がシェルターとして使い始めた時点で、そこにはのちの「建築」にとって欠かせない要素も含まれていたでしょう。

というのも、住居としての洞窟には何らかの「中心」があったはずです。「円の中心」のような幾何学的な話をしているわけではありません。そこで暮らす人間にとって意味のある中心、とでもいえばいいでしょうか。