通常だと値下がりしたときのリスクも念頭にはおいておきます。でも、みんなが買っている状況だと、値下がりすることもほとんどないから、どんどんと買う量が増えて……最終的に暴落してしまいました。まさに、新たに買う人がいなくなってしまっていたのです。

国債の市場はプロばかりが取引をしている市場なのですが、そんなプロしかいない市場でもそういうことが起きることがあるのです。株式市場に参加するなら、なおのこと注意が必要ですね。

後藤:バリュー・アット・リスク・ショックというのを、すごく平たく言うと、ここ1〜2年とか、場合によっては5年ぐらいの動きだけを見て、このぐらいの幅で価格が変動するだろうという推測を立てて、それだったら「これぐらい派手に暴れても大丈夫だよね」と投資の意思決定をしていたわけです。ただし、あくまでもここ1〜2年とか5年の動きが推論の基なので、何十年の間では予想外の動きになって、ショックが起きることになってしまうのです。

株に関していうと、この1年の値動きが非常に強いからといって、「これぐらい突っ込んでも、全然大丈夫でしょう」と考えていると、ショックに見舞われることが十分あるということです。

要するに、ここ1年とか2年とかの動きだけを見て、それが「この世の原理だ、この原理に従って動くから、このままずっと続けていけばいい」と思って調子に乗っていると、構造変化が起こったときに激しくやられてしまうということなんですよね。

後藤氏「今年の相場は、歴史的にかなり珍しい動き」

後藤:正直に言って、去年の株式相場にしても今年の株式相場や為替にしても、歴史的に見てかなり珍しい動きをしています。これが常に当たり前だと思い込んで、「あ、今年は一気に資産が3000万円まで増えた。この調子でいけば3年後には1億円に余裕でいくな」という発想を持つのは、極めて危ないと思います。

テレビなどでも、「この5年間のS&P500の成長が50年間続いたら、こんなに儲かります」みたいな雑な説明をしていたりするのを見かけます。もちろん続いたら解説のとおりになりますが、普通は続きません。投資に慣れていない人だと、そういう単純な計算が説明に入ってくると、「すごい」と思っちゃうようです。

田内:都合のいいデータを切り取っているグラフが紹介されていることも少なくないですしね。

後藤:グラフを読み取るのも金融リテラシーというか、情報リテラシーですよね。グラフって発信者の都合のいいようにいくらでも加工できてしまうので、「このグラフ、怪しくないか」と思える視点はとても大事です。

穏やかに始まった対談だったが、白熱する場面もあった(撮影:今井康一)

(構成:小関敦之)

前編、後編の対談記事はこちらから(後編は日経BOOKPLUSに掲載)
【前編】日本中が熱狂する「投資ブームの今」をどう見るか
【後編】注目の著者が激論「投資教育の是非について」

著者:田内 学,後藤 達也