③、④の予測は、リクルートなどの不動産ポータルサイトで物件検索を行う必要がなくなり、不動産ポータルサイトは役割を終えるという意味だ。それを実現する技術が「行動するLLM」と言われるLAM(大規模行動モデル)である。AIが言葉を出力するのではなく、行動を出力する。つまりAIがブラウザ操作を行ったり、ロボットを操縦したりできるようにする技術だ。

AI研究の第一人者である東京大学大学院の松尾豊教授は、今年3月に日本記者クラブで記者会見し、いまLAMの研究が世界中で急速に発展している状況を指摘。筆者の質問に対して「1〜2年で実用化されるだろう」との予測を明らかにした。

現在は不動産情報サイトのノムコムもアーバンスイートも、サイト内に掲載された物件しかAIで検索できないが、LAMが組み込まれれば、インターネット上のすべてのサイトを検索して、利用者が求める物件を探し出せるようになる。宅建業者は、売り主から預かった物件を自社サイトに掲載すれば「AI不動産」が検索してくれるようになるので、広告料を払って不動産ポータルサイトに物件を掲載する必要がなくなるというわけだ。

将来的にLAMが搭載された「AI不動産」が実現すると、④のような「不動産データバンク」を構築しなくても物件検索が容易に行えるようになる可能性がある。ただ、物件を識別しやすいように国土交通省が推進する「不動産ID」をすべての物件に付与しておいた方がスムーズに物件を検索できる「AI不動産」が実現できるだろう。

利用者に質問できる「AI不動産」は実現するか

「AIが利用者に対して的確に質問してくれるような機能を実現できないだろうか」——ノムコムにAI検索機能を先駆けて導入した野村不動産ソリューションズの前副社長で、4月から野村不動産ホールディングスの執行役員DX推進統括に就任した榎本英二氏はAIの進化に期待をかける。確かに優秀な営業マンは、顧客の要望を聞くだけでなく、潜在的なニーズを引き出して満足度の高いサービスを提供することが重要だからだ。

では、⑤の利用者に質問できる「AI不動産」は実現するのか。今年2月末に生活者の視点から社会やビジネスにおけるトレンドをまとめている「アクセンチュア ライフ トレンド2024」を公表したアクセンチュアの番所浩平マネジング・ディレクターは、生成AIが質問することは可能だという。

「ライフ トレンド2024でも紹介したように、複数の宿泊予約サイトを検索して、その結果から生成AIが宿泊料金の値下げ交渉を代行するような機能も実現できると予測しており、利用者の問いかけに応じて生成AIが質問する機能を搭載することもできるだろう」(番所氏)