「何かイラッとするわよね」そんな風に私が首を振っていたのは木曜日、前日の午後、TVで流し見していたテニスのマドリード・オープン準々決勝、カルロス・アルカラスvsルブレフ戦のボックス席にコケいたような気がしたのが、本当に当人だったと、スポーツ紙の写真で確認できた時のことでした。いやあ、お隣さんと違って、CL準々決勝で敗退したアトレティコは今週、心おきなくミッドウィークフリーを楽しんでいるんですけどね。おかげで火曜の午後もデ・パウルをアルカラスの16強対決戦で見かけたと思えば、夜10時からのラファ・ナダルvsレヘチカ戦にはシメオネ監督もカハ・マヒカ(マドリッド市南部にある総合競技場)へ。

現役引退を見据えて、これがマドリッドでプレーする最後の大会と言っていたナダルが、ええ、当人も熱烈なファンであるレアル・マドリーのCL準決勝バイエルン戦1stレグと時間が被るのを残念がっていたんですけどね。ミュンヘンでの試合が終わった後、日付が変わる頃にストレート負けで敗退してしまうのをシメオネ監督は見届けたんですが、ええ、彼にはもうCL決勝に備えて、ライバルを見張っている必要はなし。

それでももし、アトレティコがドルトムント戦2ndレグであんなことにならず、準決勝に進出できていれば、水曜はコケもメトロポリターノにPSGを迎えるべく、ホテルに缶詰め。ビジャ、ラウール、そしてまさに早朝にマドリッドに戻ったモドリッチらと同じボックス席で、腕に故障を抱えたアルカラスが2日連続で挑んだ試合で敗退。マドリッド・オープンからスペイン人選手が全滅するところをノホホンと見ているなんて、ありえなかったと思うと、ちょっと複雑な気分になったのはきっと、私だけではなかったかと。

といっても、PSGもアトレティコが4-2とやられてしまったジグナル・イドゥナ・パルクでの準決勝1stレグに1-0と負けていたため、ブンデスリーガ5位のドルトムントは世間で言われていた程、弱いチームではなかったようなんですけどね。おかげで少しはアトレティコの顔も立ったかと思いますが、ルイス・エンリケ監督のチームが来週、準々決勝バルサ戦同様、パリでの2ndレグで逆転突破できるかどうかはともかく、マドリーもサンティアゴ・ベルナベウではマンチェスター・シティ戦2ndレグ同様、ゼロからスタートすることに。何故かというと…。

その火曜のバイエルン戦1stレグでは、シティ戦での失敗に学び、キックオフ1時間15分前に近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)に入ったため、今度は視界を遮る立ち見客がいないテーブル席を確保できた私だったんですけどね。まさか、開始1分もしないうち、ザネに至近距離からシュートを撃たれ、GKルーニンに救われるという、ドッキリに見舞われるとは!その後も立て続けにハリー・ケーン、ミュラー、ムシアラと前半15分までに8本も撃たれ、店内のファンたちを真っ青にさせていたんですが、それが何と、24分にはマドリーが先制点を奪っていたから、ビックリしたの何のって。

そう、後でムシアラなども「マドリーは何もないところから、チャンスを作る力がある」と言っていたんですが、クロースがその慧眼でビニシウスへスルーパスを放ち、キム・ミンジュを置き去りにした彼がGKノイアーの前でシュート。それが決まったんですが、いえ、お手柄の当人は「Toni siempre hace todo muy fácil y me ha regalado un gol/トニ・シエンプレ・アセ・トードー・ムイ・ファシル・イ・メ・ア・レガラードー・ウン・ゴル(クロースは常に何でも簡単にしてくれて、ボクにゴールを贈ってくれた)」と、まだ6月切れるマドリーとの契約を延長するかどうか、決めていないドイツ人MFのアシストを手放しで褒めていたんですけどね。

逆にクロースに言わせると、「El pase al final no ha sido tan especial, lo ha sido el movimiento/エル・パセ・アル・フィナル・ノー・ア・シードー・タン・エスペシアル、ロ・ア・シードー・エル・モビミエントー(結局のところ、パスはそんなに特別なものじゃなくて、彼の動きが上手かった)。ビニシウスは素早いだけでなく、賢くて、いつ動かないといけないか知っている」そうなんですが、ただその時だけだったんですよ、マドリーが攻めに行ったのは。0-1となった後も前半は守っているだけだったため、これはギュレルの一発で勝ったリーガ前節のレアル・ソシエダ戦展開になるかと思いきや、そこは天下のバイエルン。

トゥーヘル監督がゴレツカをゲレイロと入れ替えた後半には、うーん、序盤にはノイアーにparadon(パラドン/スーパーセーブ)されたクロースの一撃もあり、アンチェロッティ監督もゲームをコントロールできているフェーズだったと認めていたんですけどね。何と8分にはムシアラとサイドを変えて、右からドリブルでエリア内に入ったザネに同点ゴールを決められてしまうんですから、いくらブンデスリーガで今季、レバークーゼンに大差でタイトルを持っていかれたといっても、決してヨーロッパの名門の底力を侮ってはいけない?

実際、その4分後には、出場停止のカルバハルの代わりに先発したルーカス・バスケスがエリア内でムシアラを倒し、PKを献上。イングランド代表で同僚のベリンガムがキャプテンの気を散らしに話しかけにいったのも何のその、ケーンが危なげなく決めて、とうとう2-1と逆転しちゃいましたからね。ただその時の私は2ndレグはサンティアゴ・ベルナベウだし、CLではマドリーの根性のremontada(レモンターダ)精神が発現し易いため、僅差で負けた方が却って、来週水曜の試合が盛り上がっていいんじゃないかなんて思っていたのも事実。

それもあって、アンチェロッティ監督がチームにエネルギーを注ぎ込むため、ナチョをカマビンガに、クロース、ベリンガムをモドリッチ、ブライムに代えていくのを淡々と見守っていたんですが、38分、またしてもビニシウスがやってくれるとは!そう、今度は彼からのパスをもらったロドリゴがエリア内でキム・ミンジュに倒され、PKを獲得すると、それを決めて、doblete(ドブレテ/1試合2得点のこと)を達成。2-2の同点で1stレグを終わらせたとなれば、もうウェンブリーでの決勝の切符はゲットできたも同然?

いえまあ、クロースも「Lo que se vio en los primeros 15 minutos hoy no es el plan/ロ・ケ・セ・ビオ・エン・ロス・プリメーロス・キンセ・ミヌートス・オイ・ノー・エス・エル・プラン(今日、最初の15分に見せたのはプランとは違った)」と言っていたように、この日はシティ戦2ndレグのように守り倒すつもりはなかったのか、いささか守備に強度が足りず。バイエルンに11本(うち5本が枠内)もシュートを撃たれていたのは気になりますけどね。アンチェロッティ監督も「Mostró su mejor versión y nosotros no/モストロ・ス・メホール・ベルシオン・イ・ノソトロス・ノー(相手は最高のバージョンを披露して、ウチは違った)。水曜まで改善する時間はある」と反省していましたが、何はなくとも、彼らの強みは、トゥーヘル監督も「2度のチャンスで2ゴール。もう前にもやっている」と認めていたように突極の効率性。

それを2ndレグで忌憚なく発揮できれば、大丈夫かと思いますが、またしても何千人というマドリーファンがチームバスのお出迎えをするであろう、そのビッグマッチの前に、マドリーにはベルナベウでリーガ戦が入っていて、それは土曜午後4時15分(日本時間午後11時15分)のカディス戦。実はこの試合に勝って、次の時間帯でジローナ戦をプレーする2位のバルサが引分け以下で終わるといよいよ、リーガ優勝が数字的にも決まるんですよ。ただ、ライバルの試合の決着がつくまで、2時間もロッカールームで待機しないといけないこともあってか、優勝した場合でもその夜、シベレス噴水広場へチームがお祝いをしに出向くことはないのだとか。

うーん、2年前にリーガとCLの2冠を達成したシーズンも同じような巡り合わせになって、リーガ優勝が週末に決まった後、翌週に準決勝シティ戦2ndレグが控えていた時は行っているんですけどね。今回は自重して、バイエルンとの決戦に全集中したいということなのか、え?でもソシエダ戦同様、スタメン大規模ローテーションをかけるマドリーにカディスが負けると決まっている訳じゃないんだろうって?まあ、そうなんですが、ペジェグリーノ監督のチームは降格圏の18位ですしね。アンチェロッティ監督もそれを考えてか、プレシーズンにヒザの靭帯を断裂。3月にも反対側のヒザの半月板部分損傷で復帰が遅れたGKクルトワの今季初先発を予告しているぐらいなんですが、いや、もしやこれはCL決勝を睨んでの布石ということも。

それだと何か、ここまで頑張ってきたルーニンが気の毒になってしまいますが、とりあえず、カディスはマドリーに負けてもまだ、降格が決定することはなく、勝ち点5上にいるセルタが日曜にビジャレアルに、そして6上にいるマジョルカが負けることに期待するばかりなんですが…そのアギーレ監督のチームは土曜午後9時(日本時間翌午前4時)にアトレティコをホームに迎えますからねえ。ご存知、今季はアウェイ絶対弱者と化している彼らはここ2試合、マジョルカ島で連敗していて、おまけに前節アスレィック戦で5枚目のイエローカードをもらったグリーズマンが累積警告で出場停止に。

未だにレマルとメンフィス・デパイのリハビリも終わらないため、今週のシメオネ監督はマハダオンダ(マドリッド近郊)でのセッションでスタメン選びに試行錯誤していたようで、最初はコレアとモラタの2トップだったのも、木曜にはコレアの1トップに変更。まあ、あれだけアウェイでダメダメな姿を見せ続けられているだけに、いくらスポーツ紙のアトレティコ番が、チームは3位奪取を諦めていないと大風呂敷を広げても、私はもう、あまり期待していないんですけどね。それだけにこの34節、大事になってくるのは先週末、メトロポリターノマジックのおかげで勝ち点差を6に広げることができた5位アスレティックと金曜に対戦する弟分の援護射撃な訳で…。

ただ、コリセウムにアスレティックを迎えるヘタフェも丁度、前節のアルメリア戦で1部残留が確定しましたからね。折しも1年前の今頃、ボルダラス監督がキケ・サンチェス・フローレス監督を引き継ぎ、辛うじて最終節に残留が決まった昨季とは隔世の感がありますが、かといって、10位の彼らが勝ち点6差ある7位のコンフェレンスリーグ出場圏を目指すのかは微妙。実際、ボルダラス監督も「Vamos a ver hasta dónde somos capaces de llegar, no tenemos objetivo/バモス・ア・ベル・アスタ・ドンデ・ソモス・カパセス・デ・ジェガール、ノー・テネモス・オブヘティーボ(ウチがどこまで行けるのか、見てみよう。特に目標はない)」と言っていましたしね。

それでもきっと、勝利でホームのファンを喜ばせようという意欲は選手たちにあるはずなので、コパ・デル・レイ優勝以来、3試合、白星から遠ざかっているアスレティック相手に善戦してくれると嬉しいんですが、さて。一応、朗報なのは負傷でここ数試合、出られなかったアレニャが戻ってこられることですが、とにかくマジョラル、アランバリ、ドゥアルテ、ファン・イグレシアスと、もう今季はプレーできない選手が多いヘタフェですからね。アルメリア戦では2ゴール挙げたグリーンウッドも毎試合、得点してくれるFWではないため、その試合で3点目を挙げ、マヌ・デル・モラルの持つクラブ最多得点記録37に並んだマタ辺りが頑張ってくれればと思います。

そしてまた1チームだけ、日曜試合となったラージョはエスタディオ・バジェカスにヘタフェに負けて、降格が決まったばかりのアルメリアを迎えるんですが、何せ彼らは3-0でコロッとビジャレアルにやられてしまった前節のイメージが悪すぎましたからね。降格圏とは勝ち点8差あるとはいえ、まだこちらは残留が確定していませんし、ここは相手にやる気がなくなっているところを利用して、一気に3ポイントを稼げれば、もうあまり心配することもなくなるんですが…どちらにしろ、このオフシーズンはゴールを挙げられるFWを獲得するのが、ラージョはマストになりそうです。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ
南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。