駐日イタリア大使館で、ピニンファリーナ「バッティスタ」「B95」の初お披露目会が開催されました。2022年より生産が開始された限定車ですが、どんなクルマなのでしょうか。

イタリアの名門 ピニンファリーナの市販車第1号がバッティスタ

 アウトモービリ ピニンファリーナは2024年5月10日、駐日イタリア大使館(東京都港区)にて、「バッティスタ チンクアンタチンクエ」と「B95」の2車種を日本初披露しました。

 イタリアの名門カロッツェリアとして知られるピニンファリーナは、イタリア車を中心に世界中の名車たちの美しいカーデザインを手掛けてきたことで知られています。

 とくにフェラーリでの活躍は有名で、「365GTB/4デイトナ」や「ディーノ206GT」、「F40」などの数多くの名車たちのデザインを請け負ってきました。

 もちろん、その活躍はイタリア車だけに留まらず、プジョー「205」などの身近な名車も存在。また2代目ブルーバードなどの日本車のカーデザインでも実績があります。

 そのピニンファリーナのオリジナルカーを手掛けるブランドとして2018年に設立させたのが、「アウトモービリ・ピニンファリーナ」なのです。

 アウトモービリ ピニンファリーナ車の最大の特徴は、フルオーダーメイドのハイパーEVであることです。

 日本初披露された両モデルには、クロアチアの高性能EVメーカー「リマック アウトモビリ」から提供される4輪独立の4モーターを備えたシャシを採用。イタリア・カンビアーノにある工房で、ユーザーの希望に沿った仕様をハンドメイドで生産されます。

 日本での販売が開始される最新モデル「ピニンファリーナ バッティスタ」は、2022年より生産が開始されたアウトモービリ ピニンファリーナの市販車第一弾モデルで、世界最高のラグジュアリーと最強のパワーを誇るピュアEVハイパーGTとして送り出されました。

 そのスタイリングは、ハイパーカーに相応しい力強さと共に、エレガントさも備えています。このデザインの巧みさこそ、ピニンファリーナの真骨頂といえます。また乗降性とスペース効率を考慮し、大型のドアがガルウィングとなっているので、乗降時の姿にも特別感があります。

 完全に2座となるインテリアは、そのハイパーな性能を引き出すべく、王道的なドライバーを中心としたコクピットデザインとなっており、スポーツタイプのシートを装着。ドライバーが運転に必要な情報を瞬時に理解できるように、3つのモニターで構成されるデジタルメーターパネルが備わっています。

日本で初披露されたピニンファリーナ新型「バッティスタ」

 EVですが、ハイパーカーならではの走行サウンドにもこだわり、EVパワートレインが発する音に、特定の周波数を重ねることで生み出した最高のドライビングサウンドを奏でるというのも興味深いところ。ただエンジン音とは異なり、タイヤのグリップ音やブレーキの作動音などクルマが発する音はしっかりとドライバーが感じられるように配慮されているというので、よりクルマとの一体感は強まりそうです。

 注目の電動パワートレインは、4輪それぞれに電気モーターを備え、トータルで最高出力1400kW(1900馬力)、最大トルク2340Nmを発揮するという驚異的なもの。その実力は、0-100km/h加速が1.86秒、0-200km/h加速が4.75秒というF1マシンを凌ぐ加速力を発揮するといいます。

 そのパワーを制御すべく、フルトルクベクタリング、エレクトロニックスタビリティコントロール、ソフトウェアデファレンシャルによる電子制御システムに加え、強靭なストッピングパワーを得るために、ブレーキシステムもレース由来のブレンボ製CCMRカーボンセラミックブレーキを搭載しています。

 ハイパーな性能と実用的な航続距離を支える駆動用リチウムイオンバッテリーは、120kWhの大容量とし、476km(WLTPモード)を確保。低重心化と安全面の両面から、T字型水冷バッテリーパックは、シート後方に配置され、軽量かつ堅牢なカーボンファイバーハウジングによって守られています。走行性能の厳しい試験には、F1で活躍したレーシングドライバー、ニック・ハイドフェルド氏が参加し、開発チームへのフィードバックを行い、そのポテンシャルを最大限引き出しています。

世界限定10台のB95の価格は驚きの440万ユーロ(7.5億円)

 生産車のすべてに、パーソナライゼーションサービスが適用。つまり、自分だけの一台の仕様をオーダーできるシステムとなっています。

日本の道を走るピニンファリーナ新型「バッティスタ」

 その数はインテリアだけで1億2800万通りにも及ぶといいます。

 もちろん、自分好みの仕様を組み上げる際は、デザインチームからのサポートが受けられるので心配もありません。これは贅沢な愛車の購入法であるとともに、すべてのモデルをオンリーワンとすることで、その価値を高める狙いもあるようです。

 フルカスタマイズのハイパーEV、しかもハンドメイドによる生産であることから、価格は200万ユーロから。日本円換算だと3億3800万円からとなります。生産台数は限定となり、バッティスタは150台のみとなり、その中には、B95も含まれています。

 展示車のひとつである「バッティスタ チンクアンタチンクエ」は、ピニンファリーナが設計した1955年製「ランチア フロリダ」へのオマージュを込めて製作された仕様です。

 その特別仕様車を示すネーミングである「55(チンクアンタチンクエ)」は、デビュー年である55年に由来するもの。また内外装の仕様には、創業者であり、同車のネーミングともなっているバッティスタ・ピニン・ファリーナ氏が愛用したホワイトルーフを備えたブルーのフロリダからインスピレートを受けた仕様となっています。

 インテリアには、ポルトローナ・フラウ社のヘリテージレザーによる特注仕様のマホガニーが使われています。上質な家具を彷彿させる重厚さのあるビジュアルですが、触れると心地よい柔らかな手触りであることに驚かされ、職人が手掛けた工芸品の魅力を感じさせてくれます。「チンクアンタチンクエ」は、顧客の依頼によって、この1台のみが製造されました。

 もう1台の展示車「B95」は、ピニンファリーナの95周年を記念したモデル。その名称は、オープンカーを意味する「バルケッタ」の「B」に、95周年を組み合わせたもので、ピニンファリーナ設立95周年となる2025年より生産が開始されます。

日本で初披露されたピニンファリーナのハイパーEV「B95」

 バッティスタをベースに生まれたもので、フルオープン仕様となるのが最大の特徴。フロントスクリーンは取り払われ、世界初となる電動調整式エアロスクリーンが与えられています。

 その雰囲気は、往年のレーシングカーの姿を彷彿させるものでもあります。展示車のボディカラーは、メタリックの「ブロンズ・スペルガ」をベースに、フロント部と運転席側の後部ドームに、イエローの「ジャッロ・アルネイス」を組み合わせた大胆な仕様となっています。タンレザーを贅沢に使用したインテリアは、シート上部に千鳥格子模様の生地が使われているのが特徴的です。電動パワートレインは、

 バッティスタをベースにしますが、専用チューニングを施すことで、0-100km/h加速は2秒未満まで向上。最高速度が300km/hを超えることが明かされています。

 限定数は10台のみで、ベース価格は、バッティスタの2倍となる440万ユーロからとなります。日本円では、7億4360万円という超高額にも関わらず、既に完売済みだそう。ピニンファリーナのハイパーEVが、エンスージャストの富裕層たちの心をしっかりと捉えていることを伺わせます。

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 発表会に登壇したチーフデザイナーのデイブ・アマンテア氏に、新たなピニンファリーナのクルマ作りについて伺うと、「全てのピニンファリーナのデザインは、長年の伝統に基づいています。単に新しいものを生み出すのではなく、これまでのモデルの延長上にあるものなのです。それがピニンファリーナらしさに繋がります。我々のデザインは、完璧さを追求するのではなく、不完全さが生む美しさを大切にしています。日本の文化でいえば“詫び寂び”の感性がマッチすると思います。だからこそ、長く愛されるデザインが生まれるのです。さらにいえば、我々はパワートレインに縛られるつもりも有りません。今、このようなハイパーカーが生み出すには、EVが最良と判断した結果です。もちろん、環境対応は最重視しますが、将来の時点で、最適なパワーソースをチョイスしていくでしょう」とコメントしてくれました。

 アウトモービリ ピニンファリーナのモデルは、持続可能性が担保されれば、パワーソースには拘らないというスタンスのため、デザインもパワーソースに影響されることなく、クルマとしての美しさを純粋に追求しています。だからこそ、バッティスタとB95には、ピニンファリーナらしさに見出すことができ、往年のモデルたち同様に、いつまでも眺めていたくなる気持ちにさせるでしょう。同社のモデルを手に出来るのは、極めて少数のオーナーだけですが、そのデザインは世界中のクルマ好きを魅了し、楽しませてくれるにちがいありません。