近い将来に起きるとされる南海トラフ地震で大きな被害が予測される地域の自治体で、能登半島地震を踏まえて従来の防災体制を見直し、強化する動きが広がっている。これらの自治体と能登半島では、海に面した地形や不十分な道路網など共通点が多い。自治体側には「能登で浮かんだ課題は南海トラフ地震でも起こりうる」との切迫感がある。

「半島」対策

 四国最西端の佐田岬半島にある愛媛県伊方町は今年度、孤立集落対策として、家庭用小型発電機などの購入費補助や、簡易トイレ約10万個を避難場所などに配る事業を新たに始めた。

 佐田岬半島は東西方向へ約40キロの細長い地形で、半島を横断する国道197号から周辺の集落へと道が延び、迂回うかい路は乏しい。能登半島の被災地も迂回路が少なく、各地で道路が寸断されて集落の孤立が多発。周囲を海に囲まれた半島の特性が支援を難しくした。

 国の南海トラフ地震の被害想定(2012年)では、伊方町は震度6強の揺れに襲われる。根来孝多・町総務課危機管理係主査は「半島に住む我々にとって能登の被害は人ごとではない。支援が届かなくても数日間は乗り切れるよう備えを強化する」と話す。

 能登半島地震では、孤立集落にドローンで医薬品を届ける取り組みが全国で初めて行われ、成果を上げた。南海トラフ地震で震度7が予測される和歌山県は、ドローンによる孤立集落への物資輸送の実現を目指す。

 県は2月、民間企業からリースで2機を導入。今後、災害時の活用法を探る実証実験を行い、結果は各市町村と共有する考えだ。

 県防災企画課は「和歌山の長い海岸線や道路状況などは石川と似ている。能登で起きた課題は和歌山の課題でもある」とし、「ドローンは物資輸送に加え、被害の実態把握や避難誘導にも使える可能性がある」と期待する。

多角的な支援

 徳島県は水を濾過ろかして循環させ、100リットルの水で100回使える簡易シャワー設備の充実を図る。「衛生状態の改善や長期間入浴できないストレスの軽減で、災害関連死の抑止につながる」との考えからだ。

 能登半島地震前は県と3市町で計5台を保有し、うち3台を被災地に提供。長引く断水で入浴支援が課題となる中、重宝された。県は2023年度予算の予備費1500万円を活用して設備を新たに2台導入し、2か所の県庁舎に配備した。

 能登では津波の被害も出た。南海トラフ地震で最大34メートルの津波が想定される高知県土佐清水市は4月、慶応大の防災研究者と共同で作製した冊子「災害死ゼロの街」を全約6800世帯に配った。揺れたらすぐ高台へ逃げるよう呼びかける内容だ。

 市は津波対策で沿岸の全52集落で高台への避難路を整備したが、それでも南海トラフ地震では約100人が命を落とすと想定する。

 4月17日には愛媛、高知両県で最大震度6弱の地震が起きた。市の岡田哲治・危機管理課長は「能登や4月の地震を踏まえ、高台避難や防災グッズの準備など、『自分の命は自分で守る』という意識をより向上させたい」と語る。

国も新基本計画に反映

 2012年に国が示した南海トラフ地震の被害想定では、四国や紀伊半島など広範囲で震度6強〜7が予測され、津波の高さは高知県の土佐清水市と黒潮町で最大34メートル。死者数は最大32万3000人で、うち津波による死者は23万人とした。

 この被害想定を基に国は14年3月、南海トラフ地震の被害軽減に向けた基本計画を策定。10年となる今春に見直す予定だったが、能登半島地震の発生を受けて延期した。3月には能登での課題を検証するチームを関係省庁で結成した。議論を重ねて改善策をまとめ、南海トラフ地震の新しい基本計画にも反映させる。

 検証のテーマは自治体支援や避難所運営、物資調達など。4月15日の第3回会合では避難所運営について意見交換し、発生当初は避難所に多くの人が来て過密状態となり、仕切りを設置するスペースがなかったといった課題が報告された。

 内閣府の担当者は「能登半島地震の経験や教訓を南海トラフ地震を含む様々な災害への備えに生かす必要がある」としている。